第百三十一話 激動の9月(7/8)
「アウト!スリーアウトチェンジ!」
「お、終わった……」
「試合もな……」
「これでスリーアウトチェンジ!バニーズ、初回から打者一巡の猛攻で4点を先制!」
猛攻と言うよりは、ほとんど向こうの自滅。先発のポストは制球が定まらないまま、4つも四球を出して途中降板。代わって出てきた小結さんも失点はしなかったけど四球1つ。
ただ、投手を代えた意味は多分あった。
(うーん、1イニングいっぱいまでは投げ抜いて欲しかったなぁ……)
1打席目は基本的にあまり打たない月出里の打席を、実質2打席分そうすることができたからね。依然満塁のチャンスだったけど、月出里のところで攻撃が途切れることになった。
「2回の表、ヴァルチャーズの攻撃。4番指名打者、ローウェン。背番号54」
「ま、まだ終わっとらん!」
「小結はよう投げた!ちょうちょをよう打ち取った!」
「まだ2回と!ここから反撃たい!」
(ソウハ言ッテモ……)
「セカンド正面!」
「アウト!」
「ストライク!バッターアウト!」
「これもセカンド捕って……」
「アウト!スリーアウトチェンジ!」
「「「「「…………」」」」」
確かにヴァルチャーズとしても、できれば捨て試合なんて作りたくないくらい余裕のない状況。ここからでもできれば勝ちたいって気持ちは当然あるはず。
それでも、風刃が相手で、味方投手がむしろ裏切ったような形でのスタート。いくら百戦錬磨のヴァルチャーズでも、打線の闘志が萎えるのも無理はない。
「えいりーんマジ"ウルトラエース"」
「こりゃ7連勝確定ですわな」
「ぶっちゃけ長年バニキやってると、同じ鳥類でも首位のアホウドリとか、前まで首位争ってたキツツキに勝つより、こうやってハゲタカをボコれる方が嬉しいわ」
「ずっとバカにされてきたからなぁ……」
「ざまぁみろや!誰が"リプのお荷物"や!」
「親会社から金たんまりもらって強奪もしまくってそれか!?」
「育成育成言うけど、こっちやってちょうちょとかえいりーんとか育てまくっとるわ!」
「おいおい、あんまそういうこと言わん方がええで」
「変なブーメランになるかもしれへんし……」
「「「「「…………」」」」」
一応今日はバニーズのホームゲームだけど、ファン自体はやっぱりヴァルチャーズの方がずっと多いから、今年優勝の可能性を帯びたバニーズ側の観客席に劣らないくらい、ヴァルチャーズ側の観客席も埋まってる。それでも今年のペナントレースの戦況で今日のこのゲーム状況じゃ、観客の盛り上がり方は天と地ほどの差。
……日本のプロ野球ファンというのは、球団の地域への土着なんかもあって、基本的に宗旨替えとか変節とかがあまりない。たとえチームが数年ほど低迷してようが、選手や球団・親会社が多少の不祥事を起こそうが、そう簡単に特定の球団への応援を曲げることはない。人間の心理的にも、『贔屓球団を変える』というのは『自分自身の過去の否定』に繋がる部分もあるしね。元々ぶっちぎりで不人気だったところをオーナーの宣伝や月出里とかの人気で新規のファンを多く抱えることになったバニーズであっても、その前から何十年と追いかけてるファンは一定数存在してる。
だからこそ、ファンというものは1シーズン、ひいてはたった1試合にも大きな意味を与えてしまう。今日はそういう人達にとってはきっと『人気も実力もある球団に見下されてきた積年の恨みを晴らす絶好の機会』。ペナントレース的にも『優勝候補』と『CS進出できるかどうか』という明確な格差があるから尚更。
ボクはまだプロになったのもこの球団に入ったのも4年目だし、そもそも選手なんてのは目の前の1試合1試合で手一杯だから、ファン側のマクロな視点と、実際に戦ってるこっち側のミクロな視点で、やっぱり温度差は生まれる。ボクにとってはヴァルチャーズは地元球団だし、プロを目指す上で憧れの投手がいた球団だけど、それでもあそこまで強い感慨はない。『相手がヴァルチャーズだろうが何だろうが、優勝のために勝つしかない1試合』。この試合に見出せる意味なんてせいぜいそのくらい。
まぁお金を払って観てくれてるわけだし、人それぞれの楽しみ方にケチを付ける気はないけどね。それでもなるべくプロ野球らしく、プロのプレーを観て楽しむことに一番価値を見出してほしい……とは思うかな?
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