第百三十一話 激動の9月(4/8)
******視点:月出里逢******
やっぱり打てるじゃん、松村さん。
「7番センター、秋崎。背番号45」
「佳子ー!ぶっ飛ばせー!!」
「ピッチャー焦ってるぞー!」
8月で散々凹んだ分か、9月に入っていきなり2連勝、今日も勝てそうでベンチの雰囲気は明るい。
……本音を言えば、チームが勝つために他の人にも色々協力したり、一緒に盛り上がるのは満更でもない。打算とか抜きでも。
でもプロに入ってこういうキャラでやってきたからね。今更になってそんなムードメーカーみたいなのになるのは何となく気恥ずかしい。目立つのとか面倒ごとは避けたいし、他人に深入りするのもされるのもあんまり好きじゃないし。それでも、あたしとは逆に野球エリートで年上な松村さんにああやって頼られて悪い気はしなかったけど、同時にちょっとした優越感を覚えて自己嫌悪。あんな気取ったアドバイスの送り方なんかしちゃってね。
だから、あんまりそうやってチームを引っ張る役割をしてると、そういう嫌な自分がにじみ出たり、キャプテンとかそういうめんどくさい役回りをやらされそうだから、今まで通り距離は取らせてもらう。他の人達にも同じプロとしてのプライドとかもあるだろうから、『来るもの拒まず、来ぬもの誘わず』くらいで。あくまで"今まで通りのあたし"のまま、すみちゃんのためにもここから1ヶ月、何が何でも勝ちにいくつもり。
「月出里くん」
「伊達さん?」
「お手柄だったね」
「……どうも」
別に『チームのために頑張ってます』アピールなんかしなくても、こうやって見てくれてる人もいるんだしね。ヒロインに引っ張り出すのだけは勘弁してほしいけど。
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9月5日。首位アルバトロスとのカード3つ目。最終回2点ビハインド。
「!!!これは……ライト下がって……」
「「「「「え……?」」」」」
「は、入ったァァァァァ!!!逆転!スリーラン!月出里、今シーズン27号!!最終回ワンナウトからゲームをひっくり返しました!!!」
「「「「「ちょうちょーーー!!!」」」」」
「ちょうちょマジ愛してる」
「だ、駄目だ……まだ笑うな……こらえるんだ……し……しかし……」
「あのお笑い球団が最終盤の首位攻防戦で……」
「自分涙いいっすか?」
「まーた青山劇場だよ(呆れ)」
「誰や!?ヴァルチャーズにかぶれてテラス席設置したん!!?」
上手いことやや外寄り高めにきてくれたおかげで、連勝ストップからどうにか首の皮一枚繋がった。逆方向でテラス席ギリギリ、サンジョーフィールドだったら多分入ってなかった。
今月はホームラン王になるためにも30号達成を目標にしてたけど、今2位で首位とのカード。流石に勝つことを優先しなきゃだから、ここまで知らず知らずの内に逆に繋ぎ重視になっちゃってた気がする。打球が弱くて抜けなかったゴロとかもあったし。こういう『何としてでもスリーラン』な状況で逆に助かったかも。
「今ホームイン!4-3!月出里、5連勝に導く4点目のホームベースを踏みしめました!」
「サードベースもな(ゲス顔)」
「やめて差し上げろ(良心)」
……あの踏み忘れがなかったら今頃28号……しかもあの時と同じスリーラン……
ホームランを打てるようになってよーくわかったけど、1本の差はほんと大きい。多分一般的な考えでも、プロで30本打てたら"ホームランバッター"を名乗れると思うけど、プロは年140くらい試合をやるんだから、ホームランのペースなんて早くても4試合か5試合に1本。月だと……4本か5本?
30号達成のために必要なのは5本じゃなく4本だったんだから、その分気持ちだって楽になってたはずだったのに。
「……逢、どうした?」
「あ!いや、何でも……」
せっかくその貴重な1本を打てたのに、ベンチの人達とハイタッチしながら余計なことを考えてた。今日はとりあえずこのまま5連勝。切り替えていかないと……
「月出里くん。今日もちょっと残業かな?」
「……そうですね。そうなるといいですね」
伊達さんからの、暗に『このまま勝ったらヒロイン行き』っていう圧。
明日休みで、来週頭はホームだから、早く帰って優輝とご褒美スケベしたいのに。ちくしょう。
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