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868回敬遠された月出里逢  作者: 夜半野椿
第四章 黄金時代
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第百三十一話 激動の9月(2/8)

「1回の表、ウッドペッカーズの攻撃。1番ショート、古谷(ふるや)。背番号0」


(今日も圧していきましょう)

(ウッス)


「ボール!」

「初球はまずまっすぐ!これは外れましたがいきなり149km/h!」

「速いですねぇ。バニーズの投手陣は全体的に技巧派のイメージが強かったのですが、今年はこういうパワーピッチャーが目立ちますね」


 常光(じょうこう)さんは私とほぼ同じ、190cmの長身。元々球速以上のパワーを感じさせるピッチャーでしたが、実際の球速が伴うことでさらに球の強さが増した印象ですね。


「ストライーク!」


「真ん中低め!見送ってストライク!」


 そして二軍にいた時もよく使ってたナックルカーブ。


「これは詰まりました!サード、見上げて……」

「アウト!」

「サードファールゾーンで月出里(すだち)が捕りました!まずはワンナウト!」


「ええでええで常光!」

「何や、防御率5点代やからどんな地雷かと思ったら……」


「2番ファースト、本田(ほんだ)。背番号7」


 とりあえず、今日は球威については心配なさそうですね。


「ストライーク!」

「空振り!初球から落としてきました!」


 ただ、今年一軍に上がってからはフォークをよく投げてるような気がしますね。


(旋頭(せどう)コーチの置き土産、ってな。ある程度安定して落とせるようになれば、なかなか使えるんだわ)


 最初は高校の頃から得意のカットボール、そしてそこからナックルカーブ、さらにフォークも武器にして。順調に進歩してますね、常光さんは。

 私もああやってもっと変わっていけたら良いんですけどね……!?


「ライトの前、落ちましたヒット!」


「ナイバッチ!」

「うーん、相変わらず堅実やなぁ……」


 ……本田さんに対して、ですよね?

 今のは突っ込んでいけばギリギリ捕れてたかもしれない。そうなればスタメン起用の優先度も……いや、それで後逸なんてしたら、カタログスペック的にもっと上手い天野(あまの)さんが優先されて……


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「2回の裏、バニーズの攻撃。6番ライト、松村(まつむら)。背番号4」


「1点を追いかけます、バニーズの攻撃。この回の先頭打者は松村」


 あのランナーのせいで先制点を許してしまいましたね……こうなったからにはせめて同点のランナーになるためにも……


「ストライーク!」

「ストライーク!」


 ッ……!


「これも見送ってストライク!」


「おいおい!どないしたんや!?」

「振らんと意味ないで!」


 ……いつもは『もっと選んで塁に出ろ』、ですがこうなったら『振りにいけ』。当事者じゃなければ綺麗事はいくらでも言えるのが世の常ですね。


「チェンジアップ!これは泳がされました!ショート正面!」

「ファースト!」

「アウト!」

「ショートゴロでまずはワンナウト!」


「うーんこの」

「マッツ、何を力んどるんや……」

「いつもやったら今のでもショートの頭の上越えたりするんやけどなぁ」


 不甲斐ない……


「!!!これは、レフト下がって……フェンス直撃!」


「「「「「おおおおお!!!」」」」」


「セーフ!」

「二塁へ悠々と到達!秋崎(あきざき)、ツーベース!」


「ナイスおっぱいミサイル!」

「地味に上げてきたなぁ」

「いや、でもチッヒ並に日替わりやからなぁ」


 ……不甲斐ない。


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「8回の表、バニーズの攻撃。1番サード、月出里(すだち)。背番号25」


「3-2、1点ビハインドのバニーズ。この回は打順良く1番の月出里からの攻撃です。今日もヒット2本、しっかりと仕事を果たしています」


 バッターというのは大抵2通り。ボール球を選ぶタイプか、強引にでも打ちにいくタイプか。月出里さんは意外と悪球も打ちにいったりもします。2本目のヒットも、高めを強引に打ちにいった結果。ですが……


「ボール!フォアボール!」

「選びました!ノーアウト一塁!月出里、これで今シーズン120個目のフォアボール、帝国プロ野球歴代15位に並びました!」

「まだ20試合くらい残ってるんですけどねぇ……これ現役だとトップ狙えるんじゃないですか?」

「現在の現役選手のシーズン四球数トップは2018年に菱事(ひしこと)が記録した130四球ですね」


 この選球眼。バッテリーも月出里さんの高め打ちを警戒して、低め中心で配球を組み立てたり落ちる球で釣ったり色々試行錯誤するのですが、ノってる時は全然かからない。つまり、月出里さんはハイブリッドなタイプ。それもとんでもなく高度な。


「アウト!」

「キャッチャーファールゾーンで捕りました!これでワンナウト!」


「3番指名打者、オクスプリング。背番号54」


 一応リリィさんも月出里さんに近い。基本的に打つことに関しては何でもできるタイプ。


「ライト下がって……!入った!ホームラン!オクスプリング、第16号!逆転!ツーランホームラン!!」


「「「「「いやったあああああ!!!」」」」」

「いける!いけるで!」

「今月入ってツキ回ってきたか!?」


 ……私にはなかなか打てない、こういう一発も打てる。


「アウト!」

「ああっと!当たってしまいました……」


「バニーズ、選手の交代をお知らせします……」


「ん?代走か?」

「まぁ8回やし、無理はさせんでええやろ」


「6番、松村に代わりまして、十握(とつか)。6番代打、十握。背番号34」


「346!346やんけ!」

「帰ってきたんか!」

「これで勝つる!」


 ようやくゲームをひっくり返して、あとは9回を抑えるだけ。3タコの準レギュラーに1打席与えるより、追加点を期待して最強打者のテスト。妥当な判断。


「レフト下がって……」

「アウト!」

「捕りました!これでスリーアウトチェンジ!しかしこの回、オクスプリングの逆転ツーランでバニーズがリードとなりました!」


「惜しかった惜しかった!」

「外野に飛ばせるんなら上等や!」

「明日からはスタメン頼むで!」


 同じ凡退でも、積み上げたものが違えば吉兆とも捉えられる。


「ふぅ……」


 かつてドラ1で指名された時、今の十握さんみたいな立場になれる気しかしてなかったんですけどね。こんな状況でチームの逆転を喜ぶよりも、溜め息が思わずこぼれてしまいます。


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