第百三十一話 激動の9月(1/8)
******視点:伊達郁雄******
9月1日。ウッドペッカーズとのホームゲーム2戦目。
リプのペナントレースは、ここ最近様相が大きく変わった。首位だったウッドペッカーズが負けまくって、逆にウチと僅差の3位で隠れ潜んでたアルバトロスが勝ちまくって、今は首位がアルバトロス、2位がウチ、3位がウッドペッカーズ。この3球団はいずれも勝率6割未満で、決して大きく勝ち越してるわけじゃないけど、優勝の可能性を現実的に残してるのは上位3球団、勝率5割前後をずっと彷徨ってる4位のヴァルチャーズも余程のことがあればまだ可能性はある、という状態。
そして、日程的に10月はどこの球団もほとんど雨で流れた試合とかの消化。バニーズも今のところ10月は1試合しかしない予定。つまり、この9月の約20試合で今年のペナントレースの勝敗はほぼ決まる。
「ストライク!バッターアウト!!」
「三振ッ!最後はカーブ!これでスリーアウトチェンジ!ウッドペッカーズ、初回から一二塁のチャンスを作りましたが得点ならず!」
「ええぞええぞ風刃!」
「さすエース」
「ちょっとヒヤヒヤしたけどな」
特に意図したわけじゃないけど、大事な9月の頭で先発を担うのは風刃くん。もはや説明不要の、今年のウチの勝ち頭。ここ最近はちょっと先発が崩れがちだけど、彼なら安心して任せられるね。
「1回の裏、バニーズの攻撃。1番サード、月出里。背番号25」
先発陣に反して、打線は十握くんがいない割には好調。その十握くんも明日には復帰できる見込みだから……!?
「!!!レフト下がって……入りましたホームラン!月出里、26号!!プロ入り初の先頭打者本塁打となりました!!!」
「「「「「おおおおお!!!」」」」」
「ちょうちょが1打席目から打った……」
「もう(弱点)ないじゃん……」
(もうシーズン終盤で、相手のピッチャーにも慣れてきたしね。ホームラン王も可能性あるから、今月は飛ばしていくよ)
勝負の9月、始まって早々の先制点。何て幸先の良い……
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「センター下がって……」
「アウト!」
「捕りました!試合終了!3-2!バニーズ、まずは9月の1戦目を取りました!」
「クッソォ、あと1本だったのに……」
「まぁ今日はしょうがねーよ。風刃相手だし」
「明日の奴、誰だっけ?じょうこう……?」
「あー、最近ローテに入った奴だな」
「バニの選手とか一部の奴しかようわからんわ」
ウチも出塁の数の割にあんまり点が伸びなかったけど、今日も風刃くんからのイェーガー、雨田くんのリレーでどうにか逃げ切り。
「月出里くん。プロで初めての先頭打者ホームランは嬉しかったよね?」
「うっ……は、はい」
またヒロインから逃げようとして……ホームだからよっぽどのことがなきゃ2人か3人必要だし、守る方でも同点のピンチを切った月出里くんを出さないわけにはいかないよね。
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******視点:松村桐生******
9月2日。ウッドペッカーズとの3戦目、試合前。
「よう、松村」
「常光さん、お疲れ様です」
今日の先発は高卒同期の常光さん。今年のバニーズの投手陣は先発も中継ぎも安定してるから開幕からあまり顔ぶれが変わってなくて、特に先発は開幕ローテ以外で5試合以上登板してるのは多分常光さんくらい。
「松村も今日スタメンだな」
「……ええ」
今日は十握さんが一軍に合流。バッティングに影響のある故障だったからこその離脱でしたが、本来の実力で言えば月出里さんに並ぶバニーズの最強打者。完全復帰となれば、必ず外野の一枠に戻るはずですが、今日のところは様子見でベンチスタート。
「……多分、天野さんと金剛さん辺りと枠を争うことになるだろうから、今のうちにアピールしとかなきゃな」
「ですね……」
十握さんは怪我明けだから、スタメン復帰するにしてもおそらくレフトで固定……もしかしたらリリィさんを外してでも指名打者かもしれませんが、流石にウチで3番目にOPSの高い打者を簡単には外しませんよね。リリィさんの一応のメインの三塁は現状、月出里さん以外あり得ませんし……
そうなってくると、金剛さんはライトではまず出ないはずですから、実質一塁オンリー。以前の天野さんも一塁オンリーでしたが、今はライトもこなせる。しかも守備では一塁もライトもどちらも私以上に上手い……私にあった『一塁とライト両方できる』というアドバンテージが最早あってないようなもの。
今年はオープン戦から好調で、今年こそレギュラー定着と意気込んでいたのですが、現実は甘くありませんね……
「フヒッ、フヒヒヒ……長身男性同士は映えますねぇ……」
「秋崎さん……そういうのじゃないですから」
一応同じ外野という点では秋崎さんも競争相手ではあるのですが、センターと両翼というのは序列が明確に違うもの。WARなんかも、専門家によって守備位置補正の細かい値が違ってたりしますが、センターは大抵の場合ショートの次……セカンドよりも補正値が高い。つまり、統計的にもそれだけ重要なポジションとして認められてるということ。そして両翼は大抵マイナス補正。
現状の秋崎さんの外野守備は総合的に見れば間違いなくバニーズで一番。バッティングにしても毎年少しずつ成績を伸ばして、今年は打率こそ2割ちょっとながらホームランはすでに二桁越え。OPSベースで見れば私とそう大差ないレベル。
……月出里さんのような人と比べられたら嫌でも頑張れる……というのは見苦しい負け惜しみですね。
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