第百三十話 まだ終わってない(6/9)
「6回の裏、ウッドペッカーズの攻撃。3番セカンド、琴張。背番号3」
「琴張!このままトドメ刺してやれ!」
「弱ってる間に叩きまくれ!」
『ノーアウト満塁は案外点を取られない』なんてよく言われるけど、実際の統計ではちゃんと点が発生する確率が最も高いシチュエーション。そこでも点を取れず、向こうに良い流れを渡して、いきなり最強打者との勝負。風刃くんには負担をかけてしまったね。
「ふぅーっ……」
「!!!」
「引っ掛けた!サード正面!」
「アウト!」
「ストライク!バッターアウト!」
「これもサード正面!」
「アウト!スリーアウトチェンジ!!」
「「「「「おおおおお!!!」」」」」
「や風神」
「負け投手になってええピッチングちゃうよなぁ……」
けど風刃くんは、そんなことお構いなしにこの回もこのピッチング。まっすぐはほぼ常に150オーバー、そして変化球もまだまだキレてる。
「ナイピー!」
「やっぱり月出里さんのとこに転がして良かったですよ」
「信用してくれてるの?」
「もちろんっすよ。打つ方も。この回こそお願いしますね?」
「うん」
そして打線の援護を信じる姿勢。ほんとよくやってくれてる。初回の失点なんて、あの程度は大したミスでもない。相手が上手かっただけ。
打線だってそうだ。出塁してる以上、ちゃんと仕事はしてる。僕の準備と詰めが甘いってだけの話。
「7回の表、バニーズの攻撃。9番キャッチャー、冬島。背番号8」
「赤坂はこの回も投げるようですね」
「ここはまぁ1-1、同点だからこその意地でしょうね」
(ここで俺が先に降りられるかよ。奪三振も今日だけでも風刃にも負けてるしな。月出里はともかく十握がいねーんだし、今のうちに稼いでエースとしての信頼を取り戻す!)
……さっきは君のお膳立てを無駄にしてしまって、その上でこんなことを頼むのは贅沢だと思うけど、それでも今日こそは風刃くんを勝たせてやってくれ。
「ピッチャー返し!」
「アウト!」
「しかしよく捕りました!ピッチャーライナーでまずはワンナウト!」
「また正面……」
「キツツキ相手の冬島でもこれかよ……」
「1番サード、月出里。背番号25」
やっぱりそう上手くは……
(三振、狙ってくれたね)
「!!!引っ張った!!」
「「「「「!!?」」」」」
……!!!
「は、入りましたホームラン!レフトスタンド最上段!飛距離も得点も非常に大きな一発!」
「「「「「いよっしゃあああああ!!!」」」」」
「やっぱりホームランならアンラッキーもクソもないわな(確信)」
「流石は俺のちょうちょや」
今までの拙攻を『単なる前フリだった』と言わんばかりに、黙々とダイヤモンドを周る月出里くん。
「ちょうちょ!もう踏み忘れんなや!!」
「ナイバッチ!」
「ちょうちょ完全復活や!」
「今ホームイン!2-1!バニーズ、ついに勝ち越し!!!」
僕だってアレやコレやといろいろ準備したり策を弄したりもしてるけど、そんなのが上手くいこうがいくまいが関係ないと言わんばかりの一発。連敗脱出、首位奪還に向けた、値千金の一発。
……もちろん嬉しいけど、結局僕は『選手の力で勝ってる』だけだってことを思い知らされる。リーグの最強打者2人、防御率ツートップの先発投手2枚。これだけあれば勝って当然と言われてるようで……
「ナイバッチ月出里くん!」
「ありがとうございます!」
それでも当然、打った月出里くんに感謝することは忘れない。
「ふぅ……」
月出里くんはベンチに座って一口分だけ水分補給した後、またバットを握ってその手をボーッと見てる。まるでさっきの一発を振り返るかのように。
「……月出里くん、良いかな?」
「何です?」
そんな時に申し訳ないけど、やっぱりどうしてもすぐに言いたいことがある。




