第百三十話 まだ終わってない(4/9)
……!
「バニーズは6回の攻撃に入りますが……ここで円陣を組んでますね」
「すんません、金剛さん。この回先頭なのに引き留めて……」
「いや、構わんさ。どうした?」
ここでみんなを集めたのは冬島くん。
「……今日も色々とついてへんですね」
「ああ……」
「形は作れるんすけどね……」
「ネットでも色々言われてますね。『勝ち慣れてへん』とか、『これまでの揺り戻し』とか。せやから、『今くらいが本来の実力』なんてことも」
「「「「「…………」」」」」
「『バニーズは20年以上負け続けた』。それはまぁもうすでに積み重なった歴史ですから、覆しようはないことやと思います。20年以上の積み重ねを、今年のシーズン半年弱程度で全部払拭できるなんて、そんな都合のええ話なんてないと思います。でも、たかがプロ4年も経ってないオレらにとっちゃ知ったこっちゃない話でしょ?」
!!!
「オレらはオレらで勝ちゃええだけの話。その20年分のツケなんて、ぶっちゃけウチのオーナーがこの球団を買い取った時点で禊は済んでるようなもん。オレらがどうしてもケツ持たなアカンのは、せいぜいそれから5年分程度っすよ」
……そうだね。確かにそうだ。なのに僕は、わざわざ20年分を託そうとして……
「覆せないもんとか、覆す必要のないもんなんて気にせんでええんですよ。オレらはオレらで栄光を築けばええんです。その栄光も、6月7月に勝ちまくったおかげで割と目の前にあるんすよ?そして今その栄光をひとまず握ってるんは、今まさに勝負してる相手。奪い返すのにはちょうどええやないですか?」
「……だな」
「風刃くんも今日よう投げてくれとる。今はまずその頑張りに報いるのが最優先。あと4回、打ちまくって勝ちに繋げていきましょうや。サァイコー!!!」
「「「「「アァイッ!!!」」」」」
最後の声出しを終えて、みんなそれぞれ攻撃の準備。
「6回の表、バニーズの攻撃。4番レフト、金剛。背番号55」
「……ありがとう、冬島くん」
「いえ、このくらいは……」
「『負け続けた20年なんて気にするな』。そんなことも言えなかったよ」
「その負けてた時代にいた伊達さんが、その時代を否定するようなこと言えへんのは当然のことやないですか。そういうこと言えへんくても、そういうこと言える奴を取り立てた時点で、伊達さんは将の役割を全うしてますよ」
「そう言ってくれるとありがたい」
現役の頃、自分の体調的に、『君に託す』以外に選択肢はなかったけど、それでも君が僕の後で良かったよ、冬島くん。
(……ま、この程度で勝てるんなら安いもんや。今年は何としてでも優勝せんとアカンからな。初音との約束のためにも)
「フェンス直撃!!!」
「「「「「おおおおおッ!!!」」」」」
「セーフ!」
「金剛、ツーベース!」
「ボール!フォアボール!」
「外れた!これでノーアウト一塁二塁!」
「ナイセンナイセン!」
「レフトの前……ワンバウンドヒット!」
「セーフ!」
「これでノーアウト満塁!」
「ちょっとレフト捕れるか微妙なとこだったんで、ホームには流石に突っ込めませんでしたね」
「7番センター、秋崎。背番号45」
「十分十分!」
「この回こそ勝ち越しや!」
「おっぱいちゃん!いつものレフトフライでええで!」
冬島くんの言葉にみんなも応えてる。本当に良いチームになったよ。君達には栄光しか似合わない。
……これだけやったんだ。野球の神様もそろそろ微笑んでほしいとこ。




