第百三十話 まだ終わってない(2/9)
「3回の表、バニーズの攻撃。1番サード、月出里。背番号25」
初回は同点止まりで乗り切れた。それは良い。
「合わせたバッティング!ライトの前、落ちましたヒット!」
月出里くんはやっぱり調子が上がってる。それも良い。
「2番セカンド、徳田。背番号36」
「一塁ランナースタート!」
「セーフ!」
「盗塁成功!これで月出里、今シーズン30個目!プロ4年目にして3年連続30盗塁となりました!」
「「「「「おおおおお!!!」」」」」
「すげぇぞちょうちょ!」
「今年はトリプルスリーもあるで!」
今月バットはやや湿り気味だったけど、それをどうにか補うためなのか、今月はハイペースで盗塁を重ねてる。しかもこのペースで今月失敗なしなんだから、これも当然良い。
(ホームランはどんなにアンラッキーでも絶対に点が入る。そうでなくとも右に持っていけば逢ちゃんなら三塁まで行ってくれる。けど……)
「ストライク!バッターアウト!」
(くっそぉ〜……やっぱりそう簡単にはいかないよね……)
「ちょっと振り回しすぎてんよ〜(指摘)」
「さっきは一発打てたけど、かおりんの持ち味はそれちゃうやろ……」
「また調子乗ってるわよあのブス」
「3番指名打者、オクスプリング。背番号54」
徳田くんの狙いは間違いじゃない。ウッドペッカーズの外野は固いから、二塁でシングルでは月出里くんでも生還できるという保証はない。そこもまだ良い。
(ここは無理に勝負することはないな)
「ボール!フォアボール!」
「「「ナイセンナイセン!」」」
「うーん……でも今346おらんから、調子のええリリィには無理にでも打って欲しいんやけどなぁ」
「次の金剛を信じろ」
「4番レフト、金剛。背番号55」
その辺は難しいところ。でも、確実に言えるのは、『リリィくんはアウトにならなかった』。スリーアウトまでは無限に攻撃できる野球においては、その時点で100%の間違いにはなり得ない。そこも別に良い。
「痛烈!しかしこれはセカンド正面!」
「「「「「ほげぇぇぇぇぇ!!!」」」」」
「アウト!」
「二塁アウト!」
「アウト!」
「一塁もアウト!ゲッツー!!」
「「「「「おお、もう……」」」」」
でも、こういうアンラッキーはどうにもならない。
……野球は今でも多くのファンが『打率』を重視していて、少しデータをかじったファンが『出塁率』とかをより重視したりしてるけど、それらはどちらにしても点に繋がらなければ結局は無意味。『1試合にヒット10本打って四球5つ選んで0点』の方が、後々計上する指標が優秀だったとしても、試合で勝てるのは、『ノーヒットで四球も0だとしても、エラー絡みとかで取れた1点』。あるいは、『悪球打ちだろうが、無理に打ったヒットでの1点』。それらの事実が様々なifを生む。
さっきのリリィくんの打席もそうだ。こうなってしまった以上、無理してでもシングルを狙ってた方が点が入ってたという可能性が生まれてしまった。
「3回の表攻撃終了、1-1!バニーズ、この回も勝ち越しならず!」
「…………」
そして賢いリリィくんのことだ。誰かに責められてなくても、その可能性にきっと気付いてるのだろう。そんな表情で俯いてる。
不毛な『もしも』が心の中に澱のように残って、後々のプレーにも悪影響を及ぼしうる。結論が出たはずの問題がゾンビのように蘇って、新たな可能性をもたらしてしまう。負けが込んでる今ほど、そんなことをぐるぐると考えてしまう。全く、野球というのは本当に難しいね。
・
・
・
・
・
・




