第十四話 決められてたんだよ(9/9)
8回表 紅3-4白 ツーアウト二塁
○白組
[先発]
1二 徳田火織[右左]
2中 有川理世[右左]
3右 松村桐生[左左]
4一 天野千尋[右右]
5三 リリィ・オクスプリング[右両]
6捕 冬島幸貴[右右]
7指 伊達郁雄[右右]
8左 秋崎佳子[右右]
9遊 月出里逢[右右]
投 雨田司記[右右](残り投球回:1回2/3)
[控え]
夏樹神楽[左左]](残り投球回:1回2/3)
氷室篤斗[右右](残り投球回:0)
山口恵人[左左]](残り投球回:0)
●紅組
[先発]
1中 赤猫閑[右左]
2遊 相沢涼[右右]
3右 森本勝治[右左]
4左 金剛丁一[左左]
5一 グレッグ[右右]
6指 イースター[右左]
7二 ■■■■[右右]
8三 財前明[右右]
9捕 土生和真[右右]
投 牛山克幸[右右]
[降板]
三波水面[右右]
早乙女千代里[左左]
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「紅組、選手の交代をお知らせします。7番セカンド■■に代わりまして、相模。7番代打、相模。背番号69」
(くそっ……ルーキーどもが調子に乗りやがって!こちとらドラフト最下位から二軍の1番打者に上り詰めたんだよ!一軍だって何度か行ってる!俺にだってプロ入って丸4年で積み上げてきたもんがあるんだ!!!)
(左のリードオフタイプの相模さんか……外野陣)
(((はい!)))
(雨田くんも。曲がりなりにも相手は二軍とは言え3割打ってる巧打者。しかも脚の速さだけなら赤猫さん以上。下手な下位打線よりよっぽど要注意人物や)
(わかってますよ)
冬島の指示……ここにきても調子に乗っとらんのう。抜かりない。
「ボール!」
(千代里も、財前さんも、鞠も、ドラフトの順位とか実績とか関係なく接してくれた。俺ら4人はいつか一軍のスターになるんだよ。お前らだけが良い思いして、俺らだけがバカを見る決まりなんて、あってたまるかよ!ここでシングルさえ打てれば、そんな幻想はブチ壊せる……!)
「このままで終われるかあああああッッッ!!!」
「「!!?」」
相模だけはほんの少し、意地を見せたのう。
「これは……!」
「センター前、もしかして落ちるか……!?」
じゃが……
「有川さん!!!」
二遊間とセンターの定位置、そのちょうど中間地点辺りへの小飛球。しかし有川の全速前進からのスライディングキャッチ。その結果を誇るように、有川は土で汚れた顔とユニフォームのまま、ノーバウンドの打球が収まったグローブを二塁塁審に見せびらかした。
「アウトォォォォォ!!!!!スリーアウトチェンジ!!!」
「有川ァ!!!ナイスキャッチだァァァ!!!!!」
「すげぇぇぇ!!!今の捕りやがった!!!!!」
「流石守備職人!!!」
「あと1回抑えれば白組の勝ちやで!!!」
致命傷の同点打を防いだ上に、紅組にとって最後の『上位打線からの攻撃』を潰す会心の好守備。白組もギャラリーも湧き立ち、紅組ベンチが渋面するのは当然。
「有川ァ!!!愛してるぞォォォ!!!!!」
「真守ちゃん!?どさくさに紛れて何言ってるんですか!!?」
「……あの、有川さん」
「?どうしました、司記くん?」
「その……助かりました」
「……いえいえ、これがワタクシメのお仕事ですから。今度キャッチャーとして受ける時も頼りにさせてもらいますよぉ、でゅふふ」
「はい……」
(何柄にもないことやってるんだボクは……)
賑わっとるのう、向こうは。それに引き換え……
「くそっ!何でアレが捕れるんだよ!?都合良すぎだろうが!!!」
「……確かに、今のは理世ちゃんでもあたしでも普通は捕れなかったでしょうね」
「赤猫さん……?」
「気付かなかったの?冬島くんの指示で、外野が定位置より前寄りにシフトしてたの。アベレージタイプの貴方が打席にいて、ツーアウト二塁で失点絶対阻止なら、当然の選択だけどね」
「……!!?」
「雨田の球威相手にお前のパワーじゃ長打の線は消せる、ってのもおそらくあったのだろう。この結果は半分なるべくしてなったものと言える」
「フォッフォッフォッフォッ……赤猫と相沢の言う通りじゃ、相模……いや、紅組諸君。ワシが試合前に言ったことを覚えておるかのう?『白組を決して侮らず、全力で叩き潰すこと』、『先週の紅白戦での白組とは比べものにならんほど強い』と言ったはずじゃが……」
「!!!……」
「まぁ中には『古い人間の戯言』と聞き流した奴もおるかもしれんが、あいにく根拠もなくそんなことを言うほどワシはまだ耄碌しとらん。先週の紅白戦、紅組との戦力差もあって、今の白組メンバーも含めて『各のアピールの場』くらいにしか認識しておらんかったじゃろう?じゃが、今回は違う。多少のハンデこそあれど、れっきとした『真剣勝負』。今回の白組メンバーはそれを正しく認識し、今日勝つために己が腕を磨くのはもちろん、チーム全体が勝てるよう様々な対策も講じてきた。試合に対する意識が違えば、人数が単純に減っただけでも今回の方が強いのは明白。何せ今回の白組は、わざわざ旋頭と一芝居打って、それができる奴のみに絞ったんじゃからのう。あやつらも足並みを揃えられて気が楽じゃったろうなぁ」
「「「「!!!!!」」」」
『紅組に選ばれた』のではなく『白組から外された』のだと種明かしされて、財前達4人はショックを隠しきれとらんな。まぁこれも込みの人選よ。良い加減こやつらにも現実を理解らせんといかんかったからのう。
「ワシは基本的に選手の個々の能力を重視する方じゃから、『今日は3打席に1本くらいはヒットを打とう』とか、『せめてQSくらいは達成しよう』とか、そういう『個人の功名心』を抱くことに関してはむしろ歓迎しとる。じゃが、そればかりに囚われて『チームの勝利』を蔑ろにすることまでは善しとしとらん。例えば財前よ。6回表の見逃し三振は競争相手に対抗するために選球眼をアピールしたかったからああなったのじゃろう?そればかりが頭にあって、球審の傾向を探りきれとらんかったんじゃろう?」
「ッ……!?」
「そして先ほどの相模は、赤猫達も指摘してたように、外野の前進守備などの相手側の戦術を見抜けなかったからこその凡退。ツーアウト二塁で1点あれば勝てるのだから、シングルさえ打てれば良いなどと思い上がったのじゃろう?功名心と意地ばかりが先行して、ゲーム全体を俯瞰視できとらん証拠じゃ」
「う……」
「個人成績を追求するか、フォアザチームを徹底するか、その辺の塩梅まで縛り付けるつもりはない。どちらにより大きく転ぼうが、『最終的に『チームの勝利』に貢献できる価値をどれだけ創出できるか』、それが選手の良し悪しを決める最も重要な要素じゃ。それが理解できとらん内は、万年最下位からの脱却など不可能じゃよ」
財前達4人のみならず、一軍組も俯く。決して他人事ではないことを自覚しとるようじゃな。
「白組がこの回、リスクを承知で敢えて強打者からアウトを奪りにいった結果、最終回は8番からとなってしまった。非常に苦しい展開じゃのう。今からでもよう考えて、意地を見せることじゃな」