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868回敬遠された月出里逢  作者: 夜半野椿
第四章 黄金時代
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第百二十九話 魔の8月(7/8)

「センター下がって……捕れません!!!」


「「「「「おおおおお!!!」」」」」


「三塁ランナーホームイン!4-3!バニーズ、サヨナラ!サヨナラ勝ちとなりました!」


「最高やチッヒ!」

「ちょうちょもようやく打てたし、ここから復調できるよな!バニ!」


 今月に入って風刃(かざと)くんや山口(やまぐち)さんすら見殺しにするような負けばっかりだったけど、今日は逆に山口さんを助ける形で勝てた。あたしも打ち方を修正できたし、良い感じ良い感じ。


 ……プロになってバッティングのやり方を理解できるようになった今になって気付いたけど、あたしの趣味の『古いゲームのやりこみ』って、バッティングに通じるものがあるのかもしれない。単調な動きだけど、だからこそ突き詰めるのが難しくて、とにもかくにも良い時の動きを再現するのが大事で。そんなのをずっとやってきたから、プロでそこそこ打てる今のあたしを作り上げられたのかもしれない。

 あたしのゲーム好きは別に小さい頃からじゃなく、中学に入ってから貧乏になって他に楽しめるものがなかったから仕方なくで始めたもの。あたしだって可愛いあたしらしく、もっと可愛い趣味を持ちたかった。だから、そんなのがプラスになってるっていうのはちょっと複雑な気持ち。


月出里(すだち)くん。今日はホームだから、ヒロインは君も行ってね」

「しょうがないですね……」


 それでも、今はチームを勝たせて優勝して、すみちゃんの望みを叶えるのが最優先。それが叶うのなら、そんな過去と今の繋がりだって望むところ。情けない道筋だとしても、最後にあたしも望む"史上最強のスラッガー"に行き着けるならそれで十分ってね。


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******視点:伊達郁雄(だていくお)******


 8月15日。アルバトロスとのカード3戦目。


「ストライク!バッターアウト!ゲームセット!」


「試合終了!3-2!バニーズ、再び2連敗!これで3カード連続で負け越しとなってしまいました……」


「「「「「あああ……」」」」」

「ほんま噛み合わへんなぁ……」

「何で風刃で今月3つも落とすねん……」

「マジで『魔の8月』やわ……」


 結果はご覧のとおり。月出里くんのバッティングがまた上向いてきたけど、やっぱり十握(とつか)くんの穴は大きい。あと1本がどうしても足りない。


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「しっ!!!」


 夜もなお蒸し暑い夏。それでも宇井(うい)くんとか、やる気のある子は残って練習を続けて、チームがまた勝てるように必死になってくれてる。


 ……こんな時、僕は何をするべきなのか?

 確かに6月7月に勝ちまくれたのは、去年からの取り組みが身を結んだのが要因の1つだと思う。だけど、『それによって何勝できる』とか、具体的な戦略があったわけじゃない。『優勝』という大きな目標を掲げてやってきたけど、そんなこと監督になってからどころか選手の頃ですら成し遂げたことがないから、最初から手探りの状態。負け慣れてるから『いつかは勝てる』っていうのはわかるし、その分勝てないこと自体に焦りはあまりないけど、いつまでも『いつかは』に頼りっぱなしで、自分達で勝ちを目指せないようじゃ、きっと優勝なんてできないと思う。それでも、その具体的な方法が思いつかない。


「あ、監督……」

「…………」


 かろうじてできることは、ただただ選手達の奮闘を祈るくらい。こうやって居残りに付き合って、『自分も勝ちたい』っていう意思表示をして、少しでも選手達の士気が保てるようにすることくらい。

 ほんの少し前まで僕も選手だったから、『僕もこの中で直接戦ってどうにかできれば』っていう気持ちばかりが込み上げてくる。(つい)ぞ勝てなかった未練も込みでね。


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