第百二十九話 魔の8月(6/8)
夕方。ゲームは第二次遠征で切り上げて、今日からのアルバトロスとのカードに挑む。
「1回の表、アルバトロスの攻撃。1番センター、高座。背番号4」
今月は負け続きだけど、今日は先発が山口さんで、相変わらず向こうは鹿籠さんが抜けたまま。今日は流石に勝てると思うけど……
「ピッチャーの足元抜けた!センター前!」
!!!
「スライダー!逆らわずに左へ!レフト前!」
「キャッチャー捕って……一塁アウト!送りバント成功!」
いきなりワンナウト二三塁……
(むむむ……いつも待ち球気味のアルバトロス打線ですが、今日は嫌に積極的ですねぇ……)
(シーズン100試合以上経過してもなお防御率1点代、そして2桁勝ってる先発投手。対策なんてして当然だ)
「ライトの頭上……越えました長打コース!」
「セーフ!」
「三塁ランナーホームイン!続けて二塁ランナーもホームイン!2-0!アルバトロス、山口相手にいきなり2点を先制しました!」
「「「「「ダーコン!ダーコン!ダーコン!ダーコン!」」」」」
……今日の山口さんは確かにいつもよりストライクとボールがはっきりしてるかも?でもアルバトロスが相手だから早めにカウントを……ってところを狙い打たれてる印象。
シーズン走ってきて、その疲れが出てきてるのはあたしだけじゃないってことかな?
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「ストライク!バッターアウト!スリーアウトチェンジ!」
「三振ッ!山口、2点の先制点こそ許しましたが追加点は阻止!」
「初回からヒヤヒヤしたわ……」
「8月入ってから風刃と山口で確実に勝てんのキッツイなぁ……」
「多分夏バテやろなぁ」
早打ち攻勢からの急な待ち球で四球も出しちゃったけど、どうにか2点止まり。今月のウチの不調を象徴するような滑り出し。
……でも、こういう状況こそ打線が頼られるとこ、ってね。
「1回の裏、バニーズの攻撃。1番サード、月出里。背番号25」
(序盤で、しかも不調の月出里さん。後続には十握さんもいない。安心してカウント取りにいきましょう)
「ストライーク!」
「真ん中低めまっすぐ!見送ってストライク!」
(よしよし、良い塩梅。高めが好物な月出里さんだから念の為低めに集めるに越したことはないですね)
なーんだ。やることは山口さん有川さんと一緒じゃん。だったら……
「!!引っ張って……三遊間抜けましたレフト前!」
「「「「「おおおおお!!!」」」」」
同じことをやっても文句はないよね?
(最近ミスショットしがちな月出里くんが初回からあれだけ積極的なスイングをして、しっかり捉えられた。復調のきっかけが掴めたかな?)
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「ライト前進、見上げて……」
「アウト!」
「これは伸びがありません!二塁ランナーもそのまま!」
8回の裏に3-2。山口さんは立ち上がりを叩かれたけど、5回までどうにか投げ切った。そしてこの回、天野さんのソロで1点、相模さんのツーベースで現状ツーアウト二塁。
「1番サード、月出里。背番号25」
「ここで打席には月出里!今日は3打数2安打1四球、しっかり当たっています!」
次の火織さんも今月調子が良い。きっと勝負してくれる。
「ファール!」
そうこなくっちゃね。
(最近はポップフライが多かったですが、今日はラインドライブのシングルでマルチ。凡退した打席も強いゴロ。かと言ってここで思い切って高め勝負はちょっと怖いですね……)
何が来たって構わないよ。今のあたしに相応しい打ち方は作れたから。
「頼むでちょうちょ!」
「いやぁ、ここで凡退が最近のバニやろ」
「今月そんなんばっかやからなぁ」
……嘆きたくなる気持ちはわかるよ。あたしだって昨日まで自分の中じゃ打てたつもりなのに打ててなかったり、今日もあたしや火織さんは当たってるのに絶妙なとこで攻撃が途切れてまだ追いつけてない。
でも、今朝やったゲームと同じ。同じ繰り返しでも調子の悪いことくらいある。諦めずに繰り返していれば必ず結果は出る。実際に先月まで結果を出してこられたんだから自信はある。
「拾った!上手いバッティング!ライトの前!」
「「「「「よっしゃあああああ!!!!!」」」」」
「セーフ!」
「二塁ランナーホームイン!3-3!バニーズ、ついに追いつきました!月出里、これで今日は猛打賞となりました!」
「「「ちょうちょ復活の時間だあああああ!!!」」」
練習の邪魔になると思って、ゲームに集中するのはオフとか大型連休だけって決めてたけど、何がきっかけになるかわかったものじゃないね。
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