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868回敬遠された月出里逢  作者: 夜半野椿
第四章 黄金時代
835/1132

第百二十九話 魔の8月(4/8)

******視点:月出里逢(すだちあい)******


 8月11日。ヴァルチャーズとのカード2戦目、その試合前の練習。


「お疲れ様です」

十握(とつか)さん、大丈夫なんですか……?」


 十握さんは昨日の9回、内野安打を打って一塁を駆け抜けたところでどうも左足を捻ったみたい。結局そこまでして作ったチャンスもものにできずサヨナラ負けして、まさに泣きっ面に蜂な結果。


「……何でことないですよ」


 いつものポーカーフェイス……ではあるけど、明らかに歩き方がおかしい。


「十握くん。今日はとりあえずベンチスタートにするから」

「はい……」


 伊達(だて)さんからの一言。どうしても試合に出ると言うのなら妥当な判断。この感じでダイヤモンドを周ったり、外野を走り回るのはまずいよね。


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「バニーズ、選手の交代をお知らせします。9番、宇井(うい)に代わりまして、十握。9番代打、十握。背番号34」


「おっ、346無事やったんか!」

「頼んだで346!」

「リードしてるし気楽にな!」


 7回に4点勝ってて、ワンナウトでランナーなし。試すのにちょうど良い機会ではあるよね。


「ストライク!バッターアウト!」


「「「「「あああああ……」」」」」


 ……痛めた左足は、左打ちの十握さんにとって後ろ足。体重をグッと乗っけたり、スイングの時に蹴り出して前の軸足に体重をぶつける方。そのせいか、スイングにイマイチ力感がない。

 結果、十握さんにしては珍しく、まっすぐに振り遅れて三振。


「1番サード、月出里(すだち)。背番号25」


 と言っても、あたしも決して他人事じゃない。


「ファール!」

「まずは初球バックネットへ!」


 捉えたつもりだったんだけどね。けど、イメージと結果が一致しない。

 先月までなかった、ちょっとした身体の重み。多分シーズンを走ってきた反動。その分があるからか、ポイントが微妙にブレる。今年は去年と違ってオリンピックとかがないから全体を見れば楽なはずなんだけど、春先の不調を何とかするために練習も多めにやってきたから、身体への負担が早めにきちゃったのかな?

 もちろん、こういうのはその負担を踏まえて打ち方を一から見直せば済む話。ではあるけど……


「ストライク!バッターアウト!スリーアウトチェンジ!」


「三振ッ!月出里、これで今日2つ目!」


「ちょうちょと346が揃いも揃って調子落とすとか、ちょっとヤバくない?」

「派手にヤバいぞ」

「今日はまだ勝ってるからええけど……」


 なまじ6月7月に打ちまくったせいで、その時の打ち方を身体が覚え込んじゃってる。だから、頭の中にある修正案が身体になかなか反映されない。そんな感覚。


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「はぁ……はぁ……」


 試合後。居残りでスイングの見直し。ビジターだと優輝(ゆうき)がいないからできることは限られてるけど、今のままじゃいられない。優勝できるできないとか以前に、あたしがあたしに納得できない。


「月出里くん、お疲れ様」


 室内練習場に伊達さんが入ってくる。


「本当に君はよく頑張るね。春先も使い続けた甲斐があるってものだよ」

「どうも……」

「けど、あんまり(こん)を詰めすぎてもね。調子は波打ってプラスになるかもしれないけど、疲労は溜まってマイナスになる一方だよ?」

「でも、今のままじゃ……」

「……十握くんなんだけどね、先に大阪に戻ってもらうことにしたよ。治療に専念するためにもね」

「!!!」

「いつ復帰できるか具体的な目処は立ってないけど……今月は負けが込んでるし、十握くんはここで無理せず終盤に頑張ってもらう方向だよ」

「そうですか……」


 十握さんとは去年からずっと打つ方で張り合ってきた。今年も活躍できてるのは、『十握さんに勝つため』っていう目標もあるからなのは間違いない。十握さんの方もあたしを意識してるっぽいしね。ウチにも良いバッターは他にもいるけど、やっぱり十握さんは頭一つ抜けてる。

 今のところ全体的にあたしの方が打ってるけど、こんな形で勝ち逃げにはなりたくない。そういう意味では、むしろ無理しない方が良いんだろうけど。


「……『あたしも潰れたら困るから無理はするな』ってことですか?」

「それも確かにある。負けが混んでる中で無理して月出里くんまで離脱。最悪のパターンだね。でも、月出里くん自身にとっても、今は少しバッティングから離れた方が良い」

「……?」

「月出里くんは小さい時にテレビを観てて、ご両親から『離れて観なさい』って言われなかったかい?」

「言われました」


 今は画面観る時はブルーライトカットのメガネをかけたり、目のことはかなり神経使ってるけど、流石に小さい時はね。


「今の月出里くんはそういう状態のように思う。目の前のことに夢中になりすぎて、必要以上にそれに近づきすぎて。それで却って、視野が狭くなってるように見えるんだよね」

「…………」

「そうしてるうちはどうしても『今のやり方』と違ったやり方を取りづらくなるもの。せっかく大きく上がった成績が下がり始めて焦る気持ちはわかるけど、そういうことをしてると却って不調が尾を引くものだ」

「伊達さんもそういうことがあったんですか?」

「ああ。そりゃ何度もね。だから今はあえてバッティングから離れて、頭の中をリセットした方が良い」

「……そうですね」


 ま、前までのやり方から離れられないっていうのはあたしも実感してたこと。伊達さんも言うんだったらね。


「月出里くんなりの息抜きの仕方って何かないかな?」

「息抜き……」


 次のカードはホームだから、優輝とのスケベ……と言いたいとこだけど、正直今の体調だとね。そんなのが真っ先に思い浮かぶ時点で優輝よりあたしの方がスケベなのは認めるけど、優輝も大概やる時は激しいし、来週はずっとビジターだから余計に疲れが溜まりそう。

 となると……


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