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868回敬遠された月出里逢  作者: 夜半野椿
第四章 黄金時代
834/1136

第百二十九話 魔の8月(3/8)

******視点:伊達郁雄(だていくお)******


 8月5日。ホームでヴァルチャーズとのカード3戦目。


「セーフ!」

「打ったオクスプリングは三塁へ!6-2!バニーズ、さらに1点追加!」


「ええぞリリィ!」

「ようやく上位打線が繋がったか……」


 ここ最近、月出里(すだち)くんと十握(とつか)くんが揃って不振でずっと得点不足だったけど、この回は月出里くんからリリィくんまでの4人が一気に打って4点。正直、また打順の見直しを考えてたけど、こうなると嬉しい反面、今後の判断が悩むとこ。


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「サード見上げて……」


「アウト!」


「ゲームセット!6-3!バニーズ、このカードは2勝1敗で勝ち越しとなりました!貯金13、未だ首位は健在!」


 理想的な逃げ切り。こういう勝ち方にばかりこだわるのは何だけど、それでも実力の証明としてはうってつけ。ここまでの快進撃が決してマグレではないことを示してる。


「クッソォ、まだBクラスのままか……」

「野手も怪我人多いけど、それ以上に投手が足りなすぎる……」

「まぁウチは何年も優勝争いしてるんやし、あんな万年最下位とは台所事情が違うよなぁ」

「エース級投手ばっかりぶつけられるし、バッターインコース攻められまくるし」

「もうちょっと正々堂々とやな……」


 今年のヴァルチャーズは主力の離脱続き。さらにそれに比例して、ペナントレースでも得意の交流戦でも結果が振るわず。特に地元以外のファンは単純に『より多くの勝ち』に期待してヴァルチャーズを応援してるんだろうから、やっぱり現状を嘆く声が大きい。


 まぁ確かに、経年での負担の差とか、ウチがたまたま現状主力選手の離脱が少ないのも、それぞれの球団の純粋な戦力を分析する上では必要な要素(ファクター)になると思う。だけど、他球団の怪我人の多い少ないの責任をこっちに押し付けられても困る。

 それに、負担とかその辺はある程度意図してコントロールできること。今年勝つための準備はそれこそ去年のシーズンの途中からしてきた。その結果他のチームよりも多く勝ててる。そのことは誇れることだと思ってる。


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 8月10日。エペタムズとのカードを挟んで、今度はビジターでヴァルチャーズ戦。


「9回の表、バニーズの攻撃。1番サード、月出里。背番号25」


「さぁゲームは1-1、同点のまま最終回に入りました。今日4打席目となります月出里。6月7月は非常に当たっておりましたが、8月はここまで打率.214と振いません。今日も四球1つでヒットはなし」


 スコア的に当たってないのはみんな同じだから、これでも最低限の仕事はしてる。守備走塁の分もあるしね。


「レフト方向、これは高く上がって……」

「アウト!」

「捕りました!ワンナウト!」


「「「ああ……」」」

「最近ミスショット多いなぁ」

「今の高め、先月までやったら間違いなくスタンド行ってたやろ」


 苦々しい表情で何度か首を傾げながら、月出里くんがベンチに戻ってくる。


「まぁこういうこともあるよ」

「はい……」


 ほんのちょっとの感覚のズレ。認識の齟齬(そご)。そういうのでどうしても調子には波が生まれる。僕だって10年以上プロをやったんだからそんなことは何度もあった。乗り越えられることだってのもわかってる。


「センター前!落ちましたヒット!徳田(とくだ)、今日はマルチヒットとなりました!」


「「「「「おっしゃあ!!!」」」」」


 今年、リーグのどのチームよりも積み重ねた勝ち星。それらは全部が全部、月出里くんとかの主力が打って稼いだものばかりじゃないのもね。


「3番レフト、十握(とつか)。背番号34」


「346!しっかり決めてくれや!」


(最近の月出里は打球が上がりすぎることが多いが、逆に十握はゴロが多め。実際、今日の1打席目はゲッツー。ここでも狙うぞ)

(はい!)


 十握くんも振りは悪くない。きっと月出里くんと同じで、感覚のズレ。我慢して使い続ければきっと元に戻るはず。


「当てただけ!三遊間へのゴロ……」

(こりゃちょっと打球が死にすぎてるべ……!)

(間に合う!間に合わせる!こんな1本でも、きっと月出里さんに勝つために必要になるはず……ッ!?)


 !!?


「セーフ!」

「一塁セーフ!内野安打!……あっと、ここでタイムがかかって……」


 一塁まで全力疾走。間に合ったのは良いけど、左足を気にしてる様子。

 ……これはちょっとまずいかな?


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