第百二十九話 魔の8月(1/8)
******視点:伊達郁雄******
7月20日。オールスター明けのカード、今回はビジターでアルバトロス戦。
7月の戦績は現状5分くらい。異常に勝ってた6月と比べると寂しいものがあるけど、それでも首位はキープできてる。
「1番サード、月出里。背番号25」
去年、風刃くんをシーズン終盤で休ませたり、投手陣のピークが今年になるように仕掛けたのが功を奏して、今年のバニーズは主に逃げ切りで貯金を重ねてきた。
それゆえに、チームの調子は打線の調子にほぼ比例してる状態。
「!!!右中間大きい当たり!」
「「「「「おおおおお!!!」」」」」
「セーフ!」
「三塁ランナーホームイン!続けて二塁ランナーもホームイン!」
「セーフ!」
「打った月出里は一気に三塁へ!タイムリースリーベース!4-1、バニーズ、ここで点差を突き放します!」
(う〜ん、間に合いませんでしたねぇ〜……)
(ウチのホーム球場はここ最近テラス席を設置して若干狭くなったが、それでも風向きがコロコロ変わるせいで比較的スリーベースが出やすい球場。だからこそウチでは特にセンターの名手が育ちやすいところがあるのだが、高座でも刺せないんじゃお手上げだな……)
特に月出里くんの調子が7月に入ってもキープできてるのが大きいね。おまけに、あまり喜ぶべきことじゃないけど、ウチにとっての天敵の鹿籠くんが離脱中。さっきのスリーベースと言い、今のウチにはとにかく追い風が吹きまくってる。
「ストライク!バッターアウト!」
「三振ッ!高めまっすぐ!」
「事故の一発がありましたが、今日の百々の球は切れてますねぇ」
(鋭利くんと恵人くんばかりが活躍してて思うところがあるのは火織ちゃんや篤斗くんばかりじゃない、ってね)
オールスターで投げた都合でこのカードでは風刃くんと恵人くんは投げない。氷室くんもまだ二軍で調整中。それでも代わりの常光くんがよく穴埋めしてくれてるし、百々くん達既存の先発陣も奮起してくれてる。風刃くんの存在は徳田くんがちょっとした不和を生んだりもしたけど、決してマイナスばかりじゃない。
「……?どうしました?」
「あ、いや!何でもないよ……」
思わず身震いする。僕が現役だった頃も2010年とか2014年とか、割と良い線いったシーズンはあった。今年も残り約60試合近くでペナントレースも団子状態だから、貯金が二桁あってもまだまだわからないところはある。喜ぶのはまだ早いのはわかってる。
それでも、リーグでツートップのスラッガーと先発投手がそれぞれ揃ってるなんてのは、ここ20年くらいのバニーズでは考えられなかった事態。強さに確かな根拠がある状態。だからどうしても、今からでも期待せざるを得ない。
「みんな!まだまだゲームは中盤だ!シマッテイコー!!!」
「「「「「アァイ!!!!!」」」」」
絶対にこのまま勝ち切ってみせる。現役時代に一緒に負け続けてしまった人達のためにも、負け続けてきた僕のせいで嗤われてきた家族のためにも、負け続けてきた僕を将に取り立ててくれたオーナーのためにも、そして、志半ばで逝ってしまった柳監督のためにもね。
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