第百二十八話 心は素直(3/9)
「4回の裏、ヴァルチャーズの攻撃。4番サード、玉木。背番号31」
「2-1、徳田の逆転ツーランでバニーズのリードに変わって、4回の裏の攻撃に入ります。この回の先頭打者は玉木。昨シーズンは内外野を守りつつ規定打席に初めて到達しレギュラーに定着。今シーズンも.285、10本塁打、40打点と、持ち味の打棒を発揮しております」
最近よく見かける、アタシとよく似た右投げ左打ちのプルヒッター。なら……
「引っ張った!一二塁間強い当たり……」
そうくるよね。
「セカンド深いとこ捕った!」
「「「「「おおっ!!!」」」」」
「アウト!」
「一塁送球アウト!徳田、守りでも魅せます!」
「今のよく間に合いましたねぇ……」
「サンキュー!」
グラウンドの中だから、あっくんとのコミュニケーションは最低限。
ちょっと危ない当たりだったけど、アタシの方に打った時点であっくんの勝ち。せっかく6月は勝ちまくったのに、あっくんにだけ"連勝ストッパー"みたいな変なケチが付いて。前の5連勝の時だってちゃんと勝って繋いだのに。
そんなに言うんだったら、今日も勝って黙らせるまでだよ。
「追っつけたバッティング!ショートとレフトの間……落ちましたヒット!」
「ドンマイドンマイ!」
なかなか三凡とはいかないけど、今のは打った向こうが上手かったか、単なる事故。シングルの1本くらい何てことない。
「打ち上げた!セカンド落下点、見上げて……」
「アウト!」
「捕りました!これでツーアウト!」
ほらね。この程度。
確かにローテに定着した頃と比べて、三振はあまり奪れなくなってる。それは事実だと思う。でもアウトにできれば同じ。ちょっと巡り合わせが悪いだけで、あっくんが凄いのは前から変わってない。
……鋭利くんや恵人くんがどれだけ凄かろうが、あっくんの方が凄いし。"バニーズのエース"はあっくん以外いないし。
「7番ショート、睦門。背番号6」
爽也くんはここ最近はまぁまぁみたいだけど、去年の大怪我の影響か、今年は2割切ってるくらい。爽也くんには悪いけど、今日も黙っててほしいね。
(氷室、確かにお前はすげぇ奴だべ。まっすぐにしてもフォークにしても、3、4年前から変わらずすげぇままだべ。これだけの球威、毎年維持するだけでも大変なのは、元投手のおらならわかる)
「ストライーク!」
前の回は四球が続いたけど、この回はこうやってストライクもちゃんと取れてる。この回は乗り切れそうだね。
(それでいてこの制球。ほんと、高校の頃から見込んでた通りのすげぇ男だべ。だけどな……)
!!?
「スプリット打った!左中間!!」
やばい……!この方向は……
「そのまま外野の間抜けた!長打コース!」
「セーフ!」
「一塁ランナーホームイン!打った睦門も二塁へ!2-2、ヴァルチャーズ、あっという間にゲームを振り出しに戻しました!」
「「「「「爽也くーん!!!」」」」」
「やっぱこの世代は"パンダ"なんかより爽也くんたい」
「未婚やしな」
(くそっ……!)
……確かにちょっと浮いたスプリット。アタシもあっくんと勝負するならそれを選ぶ。でもあんな簡単に……
(氷室。お前は強みも弱みも、『変わらずすげぇこと』だべ)
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「!!!これはライト一歩も動きません!打った友枝も走り出さずそのまま見上げて……!!」
そんな……
「入りましたホームラン!スタンド上段まで突き刺さる特大の一発!3-2、ヴァルチャーズ、ついに勝ち越し!」
「ナイスチェストばい!」
「"球界最強打者"はちょうちょじゃなく弓弦たい!」
何で……?今日のあっくん、別に悪いとこなんてないのに……




