第百二十八話 心は素直(2/9)
7月9日。今日から福岡でヴァルチャーズとのカード。
「これもショート正面!」
「アウト!」
「ショート睦門捌いてスリーアウトチェンジ!」
「「「「「爽也くーん!!!」」」」」
(守備のリズムは良い感じ……けどおらは今日は下位打線。せっかく今日はアイツが相手なのに)
初回、表の攻撃は三凡。まぁ逢ちゃんちゃんが乗りにくい最序盤はね。
「今日のバニーズの先発は氷室。今シーズン15試合目の登板となります。先発ローテを支え続ける頼れる存在ですが、今シーズンはあまり勝ち星に恵まれていません」
「ちょっと巡り合わせが悪いですね。ピッチング自体は変わらないと思うのですが……」
そうだよ。スプリットだって相変わらず。思い切ったフォーム改造とかもしてないし、目立った怪我だってしてない。
「ストライク!バッターアウト!」
「落としました!空振り三振!」
ほらね。
「3番指名打者、友枝。背番号9」
怪我人続出で思いの外勝ててないヴァルチャーズでも、"最強打者"は健在。
「逆方向!」
「アウト!」
「しかしこれは当てただけ!サード正面のライナーでスリーアウトチェンジ!」
「ええでええでパンダ!」
「こっからまた大型連勝や!」
「散々馬鹿にされてきた分やり返したれ!」
現状Bクラスの相手にもこんな感じ。長年"勝ち組"と"負け組"っていう立ち位置のままだったから、ファンの人達も多分色々溜まりに溜まってるんだろうね。
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「4回の表、バニーズの攻撃。1番サード、月出里。背番号25」
「1-0、ヴァルチャーズのリードでゲームは中盤に入ります。今日も1番には月出里。6月には5割近く打ち、7月に入っても好調をキープしています」
四球が続いて先制を許したけど、失点は1点止まり。このくらい何でもない。
「引っ張った!三遊間!」
(速ッ……!?)
「抜けましたレフト前!」
「「「ちょうちょ!ちょうちょ!ちょうちょ!ちょうちょ!」」」
「打球えぐいなホンマ……」
「また186km/hとか出たらしいで……」
「2番セカンド、徳田。背番号36」
バニーズにとって苦手な細平さん相手でも負けてられない。
「!!?これも引っ張って……!?」
「「「「「ファッ!!?」」」」」
「入りましたホームラン!徳田、今シーズン第1号は逆転ツーランホームラン!!」
((マジか……))
「「「「「よっしゃあああああ!!!」」」」」
細平さんのまっすぐはスピードの割によく伸びる。角度を付けるのが下手なアタシでも狙えなくはない。それでも期待値的には普段通りの打ち方の方が良いはずだし、アタシはどっちかと言うと塁に出る方が仕事だから、滅多にやらないけどね。
「これ今月も勝率8割の流れか?」
「まぁパンダの"連勝ストッパー"がなくなればそれで十分やわ」
「ぐぬぬ……」
「ま、まぁ氷室くんが勝てるんなら……」
普段散々なこと言ってくれるあっくんのファンの人達も、流石にこの結果には文句を言わない。
「火織!サンキューな!」
「うん。みっくんも観てるんだから、今日は勝たなきゃね」
「おう!」
……他の女の子がどれだけ悔しがろうが、あっくんを直接勝たせられるのはアタシだけってね。
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本日は18:00にも更新します。




