第百二十七話 そんなんもう関係あらへん(5/5)
******視点:冬島幸貴******
6月28日。今年から選手寮を離れて、球場近くに借りてるマンション。
「幸貴くん、バニーズ首位おめでとう!」
「おう、ありがとな」
1人暮らしやけど、今日は初音がゲスト。テーブルの真ん中には小さいケーキの箱。わざわざクラッカーまで鳴らして。
ウッドペッカーズ戦3タテで9連勝の後のホーム6連戦。結果的に連勝は11で止まったけど、6戦で4勝2敗。当然首位キープで、8カード連続勝ち越し中。恐ろしくチーム状態が良え。
「やっぱ幸貴くんがリードしてるからかな?」
「いや……せやけどそれ言ったら篤斗、また負かしてもうたし」
「ああ、氷室くん……」
今年の篤斗、別に例年と比べて特別悪いわけでもないんやけどな。でも前の負けと言い、どうも大きめの連勝をよく止めるから、やけに印象に残る。風刃くんに山口さんと、"エース"の座を奪いかねんような奴がいきなり2人も出てきたから余計に。
「氷室くんと仲良ええん?」
「……まさか初音も篤斗を……?」
「あはは!違う違う!そんなん違うって!っていうか氷室くん、確かもう結婚してるやろ?」
「せやな。篤斗とはまぁ……ルーキーの時に専属でバッテリー組んでてな。そのおかげで一軍でキャッチャーとしてアピールできたとこがあって」
「そうなんや……やったら残念やな」
「ん……」
……ちょっと前までのオレやったら、そんな恩も忘れて、『利用したイケメンが勝手に落ちぶれた』とかそんなことで内心ほくそ笑んでたんやろうな。
まぁそれでも、初音が篤斗になびくのは流石に許せんけど。
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ケーキ喰いながら駄弁って、またいつも通りの流れ。
「なぁ初音」
「ん?」
「10月、11月辺りになったら時間あるか?」
「オフの話?」
「ん」
「んふふ……優勝できたらもっとすごいことしたろか?」
初音の中じゃオレは相当な猿扱い。それは妥当な評価。実際、今でもやることはやりたい。せやけど……
「それもええけど……あの……」
「?」
「どっか旅行とか、行けへんかなって……」
「え……?」
「お互いテレビで顔割れとるし、行けるとこだいぶ限られてると思うけど……今までちゃんとデートらしいことあんまできてへんかったし」
「……!」
「初音とはこういうことするのももちろんええけど……その、これからのこと考えたら、単純に一緒におる時間も大事にできたらええなぁって……水族館行ったり、温泉街行ったり、そこでちょっとレトロなゲームしたり……」
柄にもないことを言って、お互いの間に沈黙が流れる。
……やっぱオレみたいなんがこんなん言ってもキモいだけやろか?
「幸貴くん」
「え……」
頬に温かく湿った感触。その後すぐに、抱き慣れた感触。
「楽しみにしてるで」
「お、おう……」
ほんまオレらしくもないわ。こんなことで、1人の女のことしか考えられんようになるなんて……




