第百二十七話 そんなんもう関係あらへん(4/5)
******視点:冬島幸貴******
6月22日。仙台から帰ってきてすぐ、今日からホーム6連戦という慌ただしいスケジュール。
今日はホームゲームやけど、使う球場は第二本拠地の千代崎ドーム。毎年この時期は雨対策として屋根付きのこの球場を使う。高校野球の時期はパンサーズがこの球場でホームゲームをやる。
オレとしちゃどっちかと言うとこっちをメインにして欲しいんやけどな。メインのサンジョーフィールドは外観が洒落てるし、『オーバーダイブ』……場外ホームランがたまに出たりする。ファンとして観戦する分にはええかもしれんけど、やる方としては直射日光の下とか雨の中でやるのは億劫。外見で唯一自慢の色白な肌が焼けそうやし。
野球は外でやるスポーツ。それはわかってる。野球に限らず外でやるスポーツは『運動神経の良い陽キャの独壇場』、そんなイメージのあるところでオレみたいな運動音痴が無双できるから、外でやることにも意義があると思ってたけど、そういうのがどうでも良くなった今となっちゃな。
「冬島さん、お疲れ様です」
「おう、お疲れ」
試合前、月出里ちゃんがいつものピンク頭の打撃投手くんを引き連れて球場入り。
ほんま可愛えけど、今となっちゃ初音の方がずっと上に思える。
「逢、今日はどんな感じにする?」
「先発に合わせて右のシンカー中心で」
お互いタメ語やったり、月出里ちゃんがたまに山口さんにやってるみたいに微妙なセクハラかましたり。
『月出里ちゃんと添い遂げる』のが1つの大目標やったからできるだけ考えんようにしてたけど、こうやって冷静になってみると、多分月出里ちゃんとピンクくんデキてるんやろうな。こんな美男美女同士やし。月出里ちゃんはテレビの仕事全然受けんし野球に真面目やから、身持ちの固そうなイメージが世間にもあるけど、オレみたいに裏でやることやっててもおかしないわな。
「次、冬島!」
「うぃっす!」
試合中に限らず練習でも、バッティングは絶好調。バットの出がスムーズで、角度もしっかり付けられる。
「ナイバッチ!」
「あざっす!」
「次、宇井!」
フリーバッティングを終えて、一息つきながら球場を見渡す。バニーズの人気どうこう以前に、やっぱりこの時間やと観客はまばら。
「んん?」
帽子を深く被って、グラサンでマスクまで装備した女?がこっちに向けて手を振ってる。まるで変装してるアイドルみたいな……
(幸貴くん幸貴くん)
!!?
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いったんロッカーに戻って、スマホでCODEのメッセージを飛ばす。
『初音、もしかして球場おるんか?』
『うん。今日オフやしね。幸貴くん応援しよう思って』
『……ありがとな』
『首位に立って今日10連勝かかってるんやろ?頑張ってや』
『おう!』
……こらますます今日も負けられへんな。
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******視点:月出里逢******
「8番キャッチャー、冬島。背番号8」
今日はエペタムズ戦。5回の時点でスコアは1-1。ここ最近の試合の傾向通り、序盤はあんまりゲームが動かず。最近当たってるバッター……要はあたしの傾向がそのまま反映されてる感じ。
「三遊間!抜けましたレフト前!」
そして最近当たってるのは冬島さんも同じ。まるで去年のオリンピックで優輝といいことした直後のあたしみたいに脂が乗ってる。試合以外でもえらく機嫌が良いし、カノジョでもできたのかな?
「引っ張った!ライト線長打コース!」
「セーフ!」
「宇井、ツーベース!ワンナウト二塁三塁!」
「1番サード、月出里。背番号25」
「ちょうちょ!頼んだで!」
「ホームランでもええで!」
ホームラン打ちたい……けどこの球場、広さはともかくフェンスがサンジョーフィールドより高いんだよね。あたしみたいに角度付けるのが下手なタイプだと、広さよりこっちの方が面倒。アレで去年スリーベース打ちまくれたところがあるけど。
(敬遠……しづらいわねェ。2番から4番までくまなく強打者が続くから、大量失点を考えると、終盤ならともかく中盤は厳しいわねェ)
敬遠はない。OK。球筋は何となく見えてきたし、今日も仕留める。
「センターの右……落ちましたヒット!」
「「「「「よっしゃあああああ!!!」」」」」
「セーフ!」
「ランナー2人帰りました!3-1!バニーズ勝ち越し!10連勝に向けて非常に大きな一打となりました!」
「いやぁ、ほんと好調ですねぇ月出里。一時期2割切ってた打率ももう余裕の3割超え」
「6月は5割近く打ち続けてます月出里」
シンカーを膝下に落とされても良いように、スライダーで逃げられても良いように、欲張らずに引き付けてバットを出す。イメージ通り。
……今日も勝てるかな?
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