第百二十七話 そんなんもう関係あらへん(2/5)
「8回の裏、ウッドペッカーズの攻撃。7番指名打者、金山。背番号33」
山口さんはここまで無失点ピッチングやけど、球数は100球近く。おそらくこの回まで。そして下位打線からやけど、両刃のファインプレー直後で、両刃本人にも打順が回る。因縁がどうとかは関係あらへんけど、気を付けんといかへんのは同じ。
「引っ掛けた、セカンド正面!ファーストへ!」
「アウト!」
「まずは徳田が軽快に捌いてワンナウト!」
「恵人くん!まだ完封あるで!」
「この調子でサクサク頼むで!」
「8番キャッチャー、仁田。背番号2」
風刃くんと山口さん、今のバニーズの勝ち頭ツートップやけど、投げ手の左右だけやなく、投手としての強みも大きく異なる。
風刃くんはとにかくシンプルに強い。球威抜群で制球も十分。どの球でも勝負できるから小細工はほぼ不要。適当に配球してても大体勝ててまう、ある意味キャッチャー泣かせの存在。
あえて難点を挙げるとするなら、まだ1年間先発として完走したことがない上に、身体の大きさの割に出力がありすぎるから、『継戦能力』という点で懸念が残るとこくらい。首位浮上がかかったこのカードであえて登板を避けて、中10日くらい空けるようにしたのも、伊達さんがその辺を心配してのことやろうな。それと、打者が普通に打つのは難しい分、最初からヤマを張るって割り切られての事故の一発が割と怖いってとこくらいやな。球種は決して少なくないけど、『球威の再現性が高い』ってことは、『球威が一定になりやすい』ってことでもあるし。
そして山口さんはとにかく選択肢が多い。球種はフォーシームとスライダーとカーブ、そしてサークルチェンジ、たまーにフォーク。左投手にありがちな球種がほとんどやけど、カーブの球速に幅があったり、どの球種も内外問わず投げ分けられるから、ヤマ張りで捉えるのは困難。
まぁつまり、風刃くんと比べると力より技で勝負するタイプってことやけど……
「打ち上げた!サード見上げて……」
「アウト!」
「捕りました!これでツーアウト!」
「もう100球超えましたが、まっすぐにまだまだ力がありますね。球速146、それにノビもある」
元は風刃くんと同じ、中学で化け物扱いされてたパワーピッチャー。その気になればまっすぐとサークルチェンジの二択だけでも十分勝負できる。
「9番センター、乾。背番号8」
「ツーアウトランナーなしで右打席にスイッチヒッターの乾が入ります。今シーズンは打率2割台前半ながら既に7本塁打。長打力と先ほどのような好守備で存在感を示しています。しかし今日はまだヒットがありません」
「そろそろ頼むぞ"守備の人"!」
「両刃くーん!」
今日は打順も一緒やな。どうでもええけど。
「ストライーク!」
「まっすぐ空振り!147km/h!」
スイングの荒さは相変わらず。昔は遠くに飛ばすことに関しちゃ常に両刃に勝ってたけど、大学辺りからまくられてもうたな。
まぁそれも今となっちゃどうでもええ。あるのは『3点リードでランナーなしなら怖くあらへん』って感想だけ。
(幸貴なら俺のスイングを織り込んでくれるはず)
「チェンジアップ打って!これはセカンドのライトの間……落ちましたヒット!」
「「「「「おおおおおっっっ!!!」」」」」
「両刃くんすごーい!」
「よう打った!それでこそ"打撃の人"や!」
(よし……!)
ファインプレー直後にようやくの1本も出て、ほんま持ってるな。でもそれもまたどうでもええことや。
「1番ショート、古谷。背番号0」
(まともにやってもなかなか打てないし、点差は3点。なら……!)
「ファール!」
「ボール!フォアボール!」
「選びました!ツーアウト一塁二塁!山口、今日初めてのフォアボール!そしてウッドペッカーズ、今日初めての得点圏となりました!」
「ナイスナイスアラレちゃん!」
「完封狙って調子乗ってるぞ!ここらで痛い目遭わせてたれ!」
「2番ファースト、本田。背番号7」
「タイム!」
まぁ心配ないやろうけど、一応マウンドへ。
「山口さん、大丈夫っすよね?」
「うん。ちょっと力んじゃっただけ。次は仕留めるよ」
「ほな頼んまっせ」
「OK」
(今日の冬島さん、やけに落ち着いてるね……ウッドペッカーズ戦の冬島さんっていつも活躍はするけど何かピリピリしてて余裕なさげなのに、今日は打席でもキャッチャーでもずっとあんな感じ)
「プレイ!」
とりあえず追い込むまでは……
「ファール!」
「初球外まっすぐ!」
「ボール!」
「また外!今度は外れました!」
(無難に一発は回避ってとこか。どうせ俺の仕事はそれじゃねぇ。次は琴張と鳴海。金山さんよろしく、『あえて詰まらせて逆方向に落とす』くらいの意識で……!?)
「これも引っ掛けた!セカンド捕って!」
「アウト!」
「そのまま二塁へトスしてスリーアウトチェンジ!」
(フロントドアスライダー……くそっ!)
「最高や恵人きゅん!」
「この状況でも全く危なげなし!」
「もはやベテランみたいなもんやろ」
こういう時に持ち上げられるのはやっぱりピッチャー。でも、それもまたどうでもええこと。
不思議なもんや。初音に本気で惚れて以来、今までストレスやったことが何もかもどうでもよく感じられる。おかげで常に穏やかな心で、状況を俯瞰視しながらプレーできる。打席でもそうやし、捕ってる時もそう。たとえ試合に勝っても毎試合細かい凡ミスとかで反省点だらけやのに、今日に関してはほんま『ホームランが打てんかった』くらいしか反省点が出てこーへん。この試合はプロ入り以来一番調子がええかもしれん。
……見ててや初音。このまま優勝してもっと稼げるようになって、もっと贅沢させたるわ。それこそアイドルをやる上で他の男に媚びる必要なんてなくなるくらいに。
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