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868回敬遠された月出里逢  作者: 夜半野椿
第四章 黄金時代
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第百二十六話 年季の入った負け犬(5/9)

「2番ファースト、本田(ほんだ)。背番号7」


 元アルバトロスの本田くん。毎年3割近いアベレージと、内野のどのポジションも埋め合わせられる器用さが売りの選手。良く言えば汎用性の高い選手、悪く言えば尖ったところがあまりない選手。

 ただそんな本田くんにも、他の選手と比べて大きく特徴的な部分がある。


(相変わらずこんなとこに立って……(こわ)ないんやろうか?)

(俺の仕事は塁に出ることなんでね。そのためならこのくらい何でもないぜ)


 本田くんはホームベース付近ギリギリのとこに立つせいか、死球が多い。3年ほど連続で20近く受けたこともあるほど。外の球に手が届きやすくなったり、特に恵人(けいと)くんのような左投手(サウスポー)に内角を投げさせにくくするっていう意味合いもあるんだろうけど……


(関係ないよ、そんなの)

「!!!」

「ストライーク!」

「初球まっすぐ143km/h!膝下いっぱい!」

「よくあそこ投げ切れますよねぇ……」


 恵人くんは相手打者に応じてプレートを踏む位置を微妙に変えてる。さっきの古谷(ふるや)くんの時もそうだけど、左相手ならあんな感じで三塁寄りに立って投げる。

 普通なら左対左で、恵人くんのようなスライダー主体のスリークォーター投手ならむしろ一塁寄りに立って、外を(かす)め取れるような角度を目指したいところだろうけど、恵人くんは逆。ああやってあえて角度をなくすことでストライクゾーンを広く見れるようにしてる。


(左対左だと、外を流されて内野安打とかそういうのもあるしね。外ばっかりに特化するよりは、こうやって内にもちゃんと投げられるようにする。その方が……)

「ストライーク!」

「今度は外カーブ、空振り!」

(結果的に外もより生かせる)


 そして恵人くんは、そんな小手先のテクニックだけでここまで上り詰めたわけじゃない。


「打ち上げた!ショート見上げて……」

「アウト!」

「捕りました!これでツーアウト!最後は外高めまっすぐ147km/hでねじ伏せました!」


 元々の球の強さも健在。だから低めに変化球を落とすだけじゃなく、高めのゾーンもしっかり生かせる。


「3番セカンド、琴張(ことはり)。背番号3」

「ツーアウトランナーなしで打席には琴張。今シーズンは4本塁打と打球はあまり上がってませんが、バッティング技術と選球眼は健在。出塁率.420を記録しています」

(このまま三凡で楽をさせるのはお断りだぜ)


 今度は対右。プレートは真ん中からやや一塁寄り。


(む……!?)

「ストライーク!」

「1球目外、100km/hのスローカーブが入ってきました!」


「ゆっる」

「恵人きゅんがゆるゆる!?(意味深)」


「ストライーク!」

「今度はまっすぐ!144km/h!」

「40km/h以上の球速差……いやらしいですねぇ」


「ベテランじみた緩急良いゾ〜これ」

「何で他のピッチャーああいうの投げへんのやろうな?」


 まっすぐと大きな球速差を生み出すスローカーブ。ストライクゾーンの上下左右のみならず、『タイミングの違い』という奥行きも生かせるこの球種。確かにもっと流行っててもおかしくないと考えるだろうね。球速だけ見ればアマチュアの投手にだって投げられそうだし。

 でも、投手の癖を見抜くのが当たり前になって、スイングスピードが上がってボールを引きつけやすくなった現代のプロのバッター相手にスローカーブを使うのがどれだけ難しいことか。ストレートの投げ方に限りなく近づけて、変化量が大きくてもちゃんとゾーンに入れられるようになって、何より球速的には簡単に打てる球をゾーンに入れる度胸も身に付けてと、要求されるものは思いの外多い。


(……!!?また……!?)

「ファール!」

「外へのカーブ114km/h!何とか当てました!」


 さっきより少し速いカーブ。カーブの中でも緩急を付けることで、タイミングの違いを何段階にも分けられる。


「ストライク!バッターアウト!」

「最後は膝下!空振り三振!」


 そしてストレートの次に投球割合の多いスライダー。ある意味では『もっと速いカーブ』とも取れる球。バックドアだけじゃなくああやって膝下に潜り込ませて、内外を自在に攻め分けられる。


「ああ^〜恵人きゅん最高なんじゃ^〜」

「ほんま今年のえいりーんと恵人きゅんは安心して見てられるわ」


 風刃(かざと)くんもカーブをそこそこ使うけど、基本は単純に球威でねじ伏せるタイプ。言ってしまえば『投球がバットを(かわ)す先を自力でこじ開ける』イメージの投手。それに対して恵人くんは、『元からある投球の躱す先を全て駆使する』イメージの投手。

 その分、球威だけ見れば恵人くんの方が一歩劣ってるのも事実。この回よく使ったカーブだけじゃなく、本来の決め球のサークルチェンジもあって、緩い球を使う頻度が多いから、打者にとっても『これならまだ打てる』と考えるだろう。

 でも、それもまた恵人くんの術中。


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