第百二十六話 年季の入った負け犬(4/9)
「2番セカンド、徳田。背番号36」
徳田は向こうじゃ打てる方。おそらくバントはない。得点圏狙うんならむしろ……
「一塁ランナースタート!」
「セーフ!」
「刺せません!盗塁成功!月出里、今シーズンこれで10連続成功となりました!」
「ええぞええぞちょうちょ!」
「やっぱちょうちょは1番やな」
盗まれたか……けど盗塁のサポートはタダでできるもんやない。
「ストライク!バッターアウト!」
「外スライダー!空振り三振ッ!」
(せめてセカンドの方に引っ張りたかったけど、アレは厳しい……)
わざと空振りしたり、盗塁を待つまでの間にカウントを悪くしたりとかのマイナスもある。まぁ逆にバッテリーが盗塁警戒してわざと外したりとか、刺すために速い球中心になったりとかでプラスになることもあるけどな。
「3番レフト、十握。背番号34」
「ワンナウト二塁、結果として送りバントのような形となりました。打席には十握。昨年の首位打者は今年もよく打っております。ここまで打率.340、本塁打12、打点42。月出里と並ぶ打線の要として今年もチームに貢献しております」
「346!チョコンでええぞチョコンで!」
「先制頼むで!」
……次のリリィは最近あんまりデカいのは打ってへん。それに、今日のこっちの先発は左の光橋。だから打席は右。右のリリィも一発がないわけやないけど、基本は逆方向の意識が強い巧打の中距離打者。
「引っ張って!しかしこれはセカンド捕って……」
「アウト!」
「セーフ!」
「二塁ランナーは三塁へ!ツーアウト三塁となりました!」
「ああ、抜けんかったか……」
「かおりんも346ももっと呼び込んだらええのになぁ……」
カットボールがええ感じにインコースに決まったな。想定通りしっかりコーナーに投げ込んでおけば、たとえあんな感じで芯で喰われたような強い打球にされても自然と野手の守備範囲内にいくもの。
きっと大昔の人間はそこまで想定してへんくて単なる偶然なんやろうけど、マウンドからホームベースまでが約18.44mってのとかと言い、今の時代でもそういう決まりがゲームバランス的に100年以上通用してるのが野球のすごいとこやろうな。投手も打者も、多少のペースの差はあれど平等に進歩してきた証拠。
「4番指名打者、オクスプリング。背番号54」
初っ端の月出里には歩かせてもうたけど、今日の三橋の制球は全体的にまとまってる。
(このカード、3タテなら首位浮上。月出里の代わりにウチがここを任されたのは、1打席目から結果を出せるはずっていう信頼の証拠。やったるで……!)
(コイツは器用なバッターだが、器用だからこそ常に状況に合ったバッティングを目指す。安易に変化球ばかりだとたちまち追っ付けられて右方向に持っていかれるだろう)
「ストライーク!」
「ファール!」
(2球まっすぐ……)
カットボールだけやなく、今時のサウスポーの定番であるスライダーとチェンジアップ、さらにはカーブにフォークと多彩な変化球を持つ光橋やけど、こういう時に強いまっすぐを続けられるのは美味しい。
(くぅっ……!)
「チェンジアップ!しかしこれは当てただけ!ファースト捕ってそのまま一塁踏んで……」
「アウト!」
「アウト!スリーアウトチェンジ!バニーズ、初回からチャンスを作りましたが得点ならず!」
「うーん、噛み合わへんなぁ……」
「かおりん飛ばして346リリィなら点入ってたかもしれんけど」
「っていうかやっぱり連勝中に打線いじりすぎん方がええやろ」
よしよし、結果としてノーヒット。三振も奪れてる。塁に出れるのが1人だけなら、何番に居っても関係ない。
後の問題は……
******視点:伊達郁雄******
うーん、やっぱりいきなりは上手くいかないよね。でも形は作れてる。悪くない。
「1回の裏、ウッドペッカーズの攻撃。1番ショート、古谷。背番号0」
「恵人きゅん!制服似合ってたで!」
「ぶっちゃけ一番可愛かった(クソノンケ)」
「ワイに嫁がへんか?(迫真)」
「うるさいですわよ!」
「恵人!口調が戻ってないっすよ!」
今日は相沢くんにショートを任せたから、宇井くんはベンチスタート。早速良い仕事をしてる。
「今日のバニーズの先発は、プロ5年目ながらまだ19歳の若き左腕、山口恵人。今シーズンは風刃と共に新たな先発の勝ち頭として、バニーズのAクラス躍進に大きく貢献しております。今シーズン10試合目の登板。ここまで6勝2敗、防御率2.31。交流戦前にもサンジョーフィールドでウッドペッカーズ戦に登板しましたが、ここでも勝ち星を挙げてます」
「ウッドペッカーズは主軸の琴張以外、主力打者のほとんどが左ですからね。その辺の相性の良さも、リーグ戦再開1戦目のこの重要な試合を任された要因でしょうね」
確かにそれはある。でも恵人くんの躍進のきっかけはむしろ『対左の改善』。つまり……
「これは当てただけ!ピッチャー捕って一塁へ……」
「アウト!」
「アウト!まずはワンナウト!」
恵人くんが今年これだけ活躍してるのは、たまたま相性の良い相手とばかり勝負し続けたからじゃない。純粋に実力を身に付けたから。




