第百二十五話 これも1つの戦い(5/8)
いったん全員更衣室で着替えて、再び現場入り。
「じゃーん!どうっすかオーナー!?」
「うう……」
(おれ中卒で高校の制服着たことなかったのに、何でこんな形で……)
本当に女子用の制服を着て、肩を組む風刃さんと山口さん。
「ぷっ……あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃwwwwwwうひっwwwwwwひぃっwwwwwww似合いすぎwwwww貴方達最高よwwwwww」
そしてそれを見て大爆笑するすみちゃん。おれがすみちゃんの服を着せられた時と同じように……
まぁ実際予想通りと言うか何と言うか、山口さんはもはや完全に女の子。律儀にカチューシャも付けて。恥ずかしがって短いスカートの裾を掴んで必死に生脚を隠そうとしてるせいで、余計に女の子感が増してる。
そして風刃さんも素材が良いからか違和感があんまりない。山口さんと違ってウケ狙いを前面に出してるのか、わざとらしくガニ股で、リボンの付け方とかが雑だけど。
(((((オーナーってこういうキャラだったの……?)))))
そしてそんなすみちゃんを見て困惑する選手の人達。そりゃそうなるよね。おれだってこんなすみちゃんを見たのはこれでようやく2回目。
「すみちゃ……オーナー。素材の味は生かした方が良いですよ?」
「逢、お前は何を言ってるんだ……?」
「だよね。2人共、後で男子用に着替えてまた引っ付いてくれないかなぁ……?フヒヒッ」
「佳子、お前も何を言ってるんだ……?」
やっぱり逢は幼い顔立ちだから全く違和感なし。高校生どころか中学生と言われても通用しそう。夏樹さんも大人っぽさはあるけど、背が高くてスタイルが良いからファッションとして全然成立してると思う。
……っていうか逢、また山口さんをそういう目で見てるんだね。ふぅん。これは今夜夕飯抜き確定かな?
(あれ?優輝が何か怒ってる……?)
「うーん……もうちょっと上げた方が良いかな?」
「いや、十握さん……裾が……」
案の定、学生服でもズボンを上げまくりの十握さん。宇井さんは……あれ?
「宇井のは男子用なのか?」
「みたいっすね。さっき上着しか見てなくてうっかりズボンの方確認してませんでした。でも男子用のも着てみたかったからこれはこれでアリっす!」
「宇井さん脚長いですね。羨ましい」
(十握さんがこんな感じで脚長かったら、ズボン上げるともっと面白いことになりそう……)
顔立ちや髪型は普通に女の子だけど、スレンダーで背も今日のメンバーで一番高いから違和感はあんまりない。
「朱美……ちょっと交換しない?」
「いや、恵人と自分じゃどう考えてもサイズ合わないっすよ?」
「うう……」
「えっと、あの、三条オーナー……」
「秋崎さん、いかがなさいました?」
「やっぱりちょっと胸囲が……」
「だ、大丈夫かい……?」
秋崎さんも普通に似合ってるけど、胸元がパツンパツン。雨田さんは心配そうにしつつも、胸元に視線をチラチラと送ってる。
……まぁおれも男だから、気持ちはわかる。逢のサイズ感も好きだけど……
(ふぅん……良い度胸してるね優輝。これは今夜電気あんま確定かな?)
あれ?逢が何か怒ってる……?
「今年ユニフォームを刷新したばかりですから、その時の採寸を参考にしたのですが……」
「あ、そういうことなんですね……じゃあしょうがないですね」
(また最近大きくなったんだけど……恥ずかしくて言えない……)
「すみません。それじゃあ早速、撮影に入りましょうか」
何気にすみちゃんも着替え済。山口さん達にはネタに走らせたくせに、自分はちゃっかり普通に女子用。まぁ似合ってるけどね……
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「はい、オッケーでーす!」
「「「「「お疲れ様でしたー!」」」」」
今回はとりあえず写真撮影だけだから、そんなに時間はかからず全員分無事終わり。
「あの、オーナー……ほんとすみませんでした……」
「いえいえ、見積りが甘かったこちらの責任です。お気になさらず」
(男ウケ狙ってサイズをギリギリにしたのが仇になったわね……まさかまだ成長を続けてるなんて……)
(引退する頃には地面に付いてたりして)
途中、秋崎さんの上着のボタンが飛ぶっていう漫画みたいなトラブルもあったけどね。
「いやぁ、今日は案外楽しかったよ!」
「ですよねですよね!」
そのおかげか、風刃さんだけじゃなく、こういうイベントにあんまり興味なさげだった雨田さんもやけに機嫌が良い。
「おい、エロメガネとエロパツキン」
「え……?自分のことっすか……!?」
「違う違う」
「でも朱美と風刃さん、見た目結構被ってるよね」
「そ、それは描き分けの問題っす!」
「描き分けって何だよ(哲学)」
「せっかくですし、この後全員で食事でも行きます?」
「おっ、良いっすね!十握さんの奢りっすか!?」
「じゃあ今度プロの先輩として奢って下さいね?」
「うーん手厳しい……」
「あ、おれちょっと残ります」
「あたしも」
「おれも……とりあえず着替えはするけど」
「そのまま次の撮影に入ってもよろしくてよ?ぷくくっ……」
「よろしくないですわよ!」
「口調まで女の子になってますよ山口さん」
実は今日の撮影はこれだけじゃない。大体の人が帰り支度をしてるけど、一部の人は次の撮影にも引き続き参加。逢は単純にここ最近のバニーズの顔みたいな存在だし、風刃さんと山口さんは今年特に成長著しい勝ち頭コンビだしね。
「おっす!」
「お疲れさん」
「あっくん、成■■井って何時まで開いてたっけ?」
「9時くらいだったか?まぁそれまでには終わるだろ」
上がり組の代わりにここから参加するのは、リリィさんと冬島さん、徳田さんに氷室さん。同じく一軍の若手メンバー。この4人は普段もよく一緒に行動してるイメージ。
「お疲れ!」
「お疲れ様ですぅ。でゅふふ……」
「ど、どうも……」
それと天野さんと有川さん、松村さん。
……野球はプロであろうとアマチュアであろうと、勝敗を一番左右するのはやっぱり『選手の実力』。でもそれを揃えるためには大きなお金を要する。大きな組織を動かすの自体にも当然コストが必要だから、親会社の出す予算やチケット代だけじゃなかなか賄い切れるものでもない。だから、こういうお仕事もまた1つの戦い。そしてこういう仕事に呼ばれるのもまた、『選手の実力』の証明にある程度なってる部分がある。
有川さんはベンチメンバー中心とは言えプロ入りすぐからずっと一軍で活躍してるからファン人気も高め。天野さんと松村さんは今年一軍上がってばっかりだったり二軍で調整に入ったばっかりだけど、それでも一軍で十分結果を出せてる。
つまり、逢がバニーズに入ってすぐの紅白戦の白組メンバーは全員、どっちかの撮影に呼ばれるくらいには活躍してるってこと。柳監督の見立ては完全に当たったってこと。
「おい!照明早く用意しろ!」
「はい!すんません!」
今年のバニーズの台頭は、逢やすみちゃんが頑張った証でもあるんだろうけど、今はいない人も含めて、名前も知らない多くの誰かの頑張りが積み重なった結果でもある。選手にとってはこういう仕事は『ついで』かもしれないけど、裏ではこうやって選手達よりも遥かに多くの人達がこうやって戦ってる。
「……ぷっ、あはははは!や、山口、風刃……お前ら何ちゅうカッコしとんねん!?ぷはははは!!!」
「ふぉぉぉぉぉ!これはレア!超レアですよぉぉぉ!!」
「やめて!撮らないで!」
「今更?」
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