第百二十五話 これも1つの戦い(1/8)
******視点:月出里逢******
「「ん……」」
6月14日朝。優輝のスマホのアラームで、2人揃って目を覚ます。
「おはよ……」
「うん……」
しばらく試合がないのを良いことに昨日寝る直前までやりたい放題だったから、お互いにまだちょっと倦怠感が残ってるけど、それでも身を寄せ合う。生身同士の触れ合いで血液の巡りが急に良くなって、少しずつ目が覚めていく。
「うえっ!?」
「昨日あれだけシたのに元気だねぇ〜?ケケケケケ……」
「うう……」
向かい合わせに触れ合うと、あたしのお腹に刺さって濡らすそれ。あたしみたいにクッソ可愛い美少女に触れたら、そりゃあこうなるよね。優輝みたいな22の健康的な成人男性はもちろん、きっと悟りを開いたお坊さんだって、人間である以上は一生慣れやしない。
そしてあたしも人間。すみちゃんの望みとか色んなものを背負ってるから野球を最優先にしてるけど、あたしにだってスケベ心の1つや2つ……どころか100や200くらいはある。
「良いよ、そのまま寝てて」
「う、うん……」
枕元に置いてある小袋をまた1つ破って、最低限の距離を生み出す。シーズン中だから尚更、タ■ちゃんはまだまだお預け。
「はっ……ああっ……」
優輝の上に乗って、自分の肉を自ら抉るような真似を何度も繰り返す。まだ命を繋ぐつもりもないのに。でもその感触に悶える優輝の顔を見下ろすことができれば、見返りは十分。
「優輝」
「ん……?」
身体を覆い被せて、優輝の耳元に口を寄せる。
「寝そべってるだけであたしに搾り取ってもらえるなんて、良いご身分だよねぇ?」
「ッ……!」
「テレビの前でどれだけの男の人があたしを抱きたいと思ってるのかなぁ?」
かつてあたしの前でもずっと良い子ちゃんだった優輝の男の部分をあえて逆撫でる。たまらなくなったのか、あたしを抱き寄せて逆に優輝の方から突き上げてくる。
これこれ、こういうのが良いんだよね。あたしの前じゃ、たとえ"せーじんくんし"?みたいな男でも男を抑えられないって実感。どんな良い男でもあたしの思うままにできるっていう、絶対的な勝者感。ヒットやホームランを積み上げた数にも見劣りしない強烈な自己肯定感。心も身体も満たされまくる。
"史上最強のスラッガー"とかそんな果てしないものを目指してる以上、年に億稼げるようになったり、ようやく4番を任された今もまだまだ通過点でしかない。現状に満足なんてできやしない。たとえ海を越えられるくらいになっても、頂点に立つ瞬間まで自分を"井の中の蛙"だと言い続けなきゃいけないのがあたしの宿命。
これから先も、何度も何度も今の自分を否定し続けなきゃ、もっと上は目指せない。どんなに痛い思いをしても、辛い思いをしても、歯を食いしばって耐え続けなきゃいけない。たとえその望みが叶ったとしても、きっとあたしがあたしを野球選手として本当の意味で褒められるのは最後の最後だけ。自分だろうが他人だろうが疑うのは慣れっこなあたしでも、その瞬間を待ち続けるのは流石に心がすり減る。
そんなあたしを保つためには、こんな気持ち良いだけの行為もきっと必要なもの。これも1つの戦い、ってね。
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