第十四話 決められてたんだよ(5/9)
8回表 紅3-4白 ノーアウト二塁
○白組
[先発]
1二 徳田火織[右左]
2中 有川理世[右左]
3右 松村桐生[左左]
4一 天野千尋[右右]
5三 リリィ・オクスプリング[右両]
6捕 冬島幸貴[右右]
7指 伊達郁雄[右右]
8左 秋崎佳子[右右]
9遊 月出里逢[右右]
投 雨田司記[右右]
[控え]
氷室篤斗[右右](残り投球回:0)
山口恵人[左左]](残り投球回:0)
夏樹神楽[左左]
●紅組
[先発]
1中 赤猫閑[右左]
2遊 相沢涼[右右]
3右 森本勝治[右左]
4左 金剛丁一[左左]
5一 グレッグ[右右]
6指 イースター[右左]
7二 ■■■■[右右]
8三 財前明[右右]
9捕 土生和真[右右]
投 牛山克幸[右右]
[降板]
三波水面[右右]
早乙女千代里[左左]
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「ストライーク!」
強打者のグレッグ相手だし、2イニングスなんだから配分を考える必要はあまりない。初球から151まっすぐ。
(フッ……確カニ、じゃぱにーずぼーいノ割ニハ速イナ)
「ボール!」
「ボール!」
「ファール!」
「うぉっ、危ね……」
「さすがグレッグ、ウチのヒョロガリ打線で数少ないマッチョマンや」
やっぱりボクのまっすぐはそこまで脅威じゃないみたいだな。だからこそ、スライダーの見送り方にも余裕がある。
(コノクライノすぴーどハめじゃーナライクラデモイル。3Aデモイナイワケジャナイ)
「……ボール!」
(じゃぱんデハ右デちぇんじあっぷヲ投ゲル奴ハアマリ多クナイガ、すていつジャぽぴゅらースギルクライダゼ。ふぉーむデ来ルノハアル程度読メルシナ。セメテ低メニ決メラレルノナラ結構面倒ナンダガ……)
……これで引っかかってくれたら楽だったんだけどね。仕方ないか……
(サァ、コレデふるかうんとダ。次ハドウスル?ぶれーきんぐぼーるノ後ノふぁすとぼーるカ?ソレニミセカケテすらいだーデ空振リヲ取ルカ?ソレトモ、モウ1球続ケルカ?ドノミチ歩カセタクナイダロウ?次ハ先週ほーむらんノいーすたーダカラナ)
(……雨田くん。隠しプラン、1つ切るで)
冬島さんのサインに、首を縦に振って応じた。
……それにしても久々だな。たった6つのアウトがこんなにも遠く感じるのは。高校の時はあまりにもレベルの低い環境でやってたから、終盤にはもう勝ち負けがはっきりしてたり、勝ち抜いてない分相手も大したことなかったりで、危機感を持って投げる感覚を失ってた気がする。
でも、今は状況が違う。同じチームの大半の人間がボクよりもレベルの高い環境を経験してて、そして何よりも全員が勝利のために自分なりに頑張ってて。背負ってるものの違いがあまりにも違いすぎるのが実感できる。
ただ、だからと言ってボクがその中で謙虚でいるつもりはない。あくまで他の連中と同じ方法で証明してみせる。『実力』も、『プライド』も、『勝利への貪欲さ』も、お前らに負けてないと吼えてみせる……!
(何……!?)
「アウト!!!」
「へ……?今の球……142km……?」
タイミングを外され、平々凡々なセカンドフライ。狙い通り……!
「へぇ、あえて抜いたのか」
「雨田は弱小校で基本的に常に完投を求められてきたから、ペース配分のためにギアチェンジが自然と磨かれてきたのよ。あの子自身もそういうものとしか認識してなかったみたいだけど、こういう応用の仕方もある」
(流石にプロのバッターでも、人間が投げる150km/hの球を打つのには相応の認識が必要。最後の1球以外の雨田くんのまっすぐは全て150以上やったし、グレッグの方も先週の試合に出てたから『この場面で自分に投じるまっすぐは150以上』と認識してたから、想定より10km/h遅いまっすぐがいきなりきて、多少頭の片隅にあった変化球への意識と混在してタイミングを外された、っちゅーわけやな)
とは言え、同じ人間が投げる10km/h程度の差の同じ球種なんてのは、奇襲程度の代物にしかならない。言うなれば劣化版チェンジアップのようなもの。そうそう多用できるものじゃない。だがそれでも、6つのアウトのうち1つを強打者から取れるのなら十分。
「なかなか賢しいマネをしおる。じゃが、次の打者はどう対処するのかのう……?」
「6番指名打者、イースター。背番号42」
「おっ、ここで新外国人か!」
「グレッグはまぁようやっとるけど、もう1人外国人クジ当てたいよなぁ。長打力が足りん」
「でもまぁ先週の試合内容はポジやろ」
「どうするんやろ?歩かすんかなぁ?」
来たな……ある意味今日一番のマーク対象。
ボクとしても本当ならホームランを打たれた分を返したい気持ちがあるんだけど、仕方ない。
「白組、選手の交代をお知らせします。ピッチャー雨田に代わりまして……」
「え……?このタイミングでピッチャー交代……?」
「夏樹。ピッチャー夏樹。背番号27」
「このタイミングで神楽ちゃんかよ!!?」
「マジで!?」
「え……あの子もルーキーやんな……?わざわざ雨田降ろすほどなん……?」
「いや、140出るか出んかくらいのヒョロガリやで。左対左やからってなぁ……」
あれこれ言われる中、表情を崩すことなく夏樹がボクのいるマウンドに駆けつけてきた。
「……夏樹」
「あん?」
「先週やられた相手から逃げて、その尻拭いを君なんかに任せるのは、はっきり言って全く本意じゃない」
「だろうな」
「……けど、それを受け容れるくらいには、ボクも今日の試合は勝ちたいと思ってる」
そう言うと、夏樹はようやく笑った。
「任せときな」
「ああ、頼む」
ボールを夏樹に預けて、いったんベンチに戻った。




