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868回敬遠された月出里逢  作者: 夜半野椿
第四章 黄金時代
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第百二十四話 泣きのもう1打席(1/6)

******視点:雨田司記(あまたしき)******


 9回の裏に天野(あまの)さんが同点ツーランを打ったけど、勝ち越しまではいかず延長戦へ。


「バニーズ、選手の交代をお知らせします。ピッチャー、花城(はなしろ)に代わりまして、雨田(あまた)。ピッチャー、雨田。背番号19」


「ん?メガネが先なんか?」

「普通にスナイパーが先かと思ったわ」


 その辺は多分信頼の差。


「10回の表、スティングレイの攻撃。8番ファースト、■■。背番号■■」


 この回は下位打線から。次の回は2番以降になるから、そっちにより信頼のあるイェーガーを……ってとこだろうね。少なくとも防御率ベースじゃイェーガーの方が確実に上だし……


(『契約で登板数に上限があるから』っていうのも大きな理由だけど、それは流石に言えないよねぇ。『上位打線をイェーガーくんに任せたい』ってのも理由なのは事実だし……)


 でも、伊達(だて)さんを恨むつもりはない。そんなのより恨むべきは自分の力量。


「ストライク!バッターアウト!」

「ストライク!バッターアウト!」

「ストライク!バッターアウト!」


「「「「「おおおおおおおッッッッッ!!!!!」」」」」


「三振ッ!三者連続ッッ!!雨田、パーフェクトリリーフ!!!」


「「「「「ええぞええぞメガネ!」」」」」

「守護神守護神アンド守護神」

「すまない、彼を許してやってくれ。彼は奪三振マシーンなんだ」

「たまに与四球マシーンになるけどな」


 メジャーの実績持ちが身近にいるのは、比較されて悔しい思いをする反面、逆に上回ることができれば大きな自信になるし、周りも嫌でもボクの実力を認めざるを得なくなる。"世界で一番のエース"になるための近道でもある、ということ。




******視点:月出里逢(すだちあい)******


 ずいぶん張り切ってたね、雨田くん。そしてこの状況できちんと結果も出した。流れの分、もしかしたらこの回にもあたしに……


「2-2のままゲームは10回裏に入ります。守りますスティングレイ、マウンドには3番手、立山(たてやま)が向かいます。150km/hを超えるまっすぐと落ちる球が魅力の本格派右腕」

「バニーズ、選手の交代をお知らせします。9番、冬島(ふゆしま)に代わりまして、相模(さがみ)。代打、相模。背番号69」


「うーん、冬島に代打はええけど相模か」

「右でも球速い相手やとなぁ……」


 でももしあたしにこの回打順が回るとなると、1点取れば勝ちのこの状況で、あたしの前の打者が4人だから、間違いなくチャンスの場面。


「ストレート打った!センターの前!」


「やっぱ相模打てるやんけ!(テノヒラクルー)」

「ワイは信じてたで!(テノヒラクルー)」


(へっ、調子の良いことばっか言いやがって。千代里(ちより)花城(はなしろ)さんもあれだけ活躍して、俺だけ大人しくしてられるかよ)

(この手の打者は四球を考慮しなくて楽という面もありますが、最初から最後まで甘く入れないというのが面倒ですね。もちろん、甘く入っても球威で誤魔化すっていうこともできますが、立山さんだって常に球威のあるまっすぐを再現できるわけでもないですし……)


 うん、どっちかと言えばこっちの方が良い展開。1点取れば勝ちの場面だから……


「バントした!ピッチャー捕って一塁へ!」

「アウト!」

「一塁ランナーは二塁へ!送りバント成功!」


「ナイメイナイメイ!」

「今日のちょうちょとかおりんは小技でようやっとるな」


 これでリリィさんか十握(とつか)さんが1本打ってくれればいける。


「ワンナウト二塁、一打サヨナラの場面。外野は前進守備……」


 とにかくシングルでのホームインだけは阻止。ベターな選択だけど、リリィさんも十握さんもパワーがあるから、そこまで苦にはならない。今日はどっちかが決めてくれれば良い。もし2人続けて四球とかだったら、あたしも前の打席みたいに四球狙い。

 ……その方が、きっと迷惑だってかからないよね?いつかは4番でも打てるようになりたいけど、今日はちょっと……


「お悩みみたいね、主砲さん」

「悩み……まぁそうですね」


 ベンチから他力本願を祈ってると、振旗(ふりはた)コーチに話しかけられた。


「4番を打つのが怖くなった?」

「……!」


 やっぱりこの人には隠し事ができない。


「怖いとかじゃないです。多分……」

「意地っ張りねぇ」

「……少なくとも最初は、『やっと4番を打てる』ってことでワクワクしてたんです」

「でしょうね」

「でも、ずっと楽しみだったから、そういう気持ちが逆に邪魔してるっていうのを認めたくないっていうか……」

「……別に良いじゃない。私だって通った道よ?」

「コーチも……?」

「私は誰だったかしら?」

振旗八縞(ふりはたやしま)……さん」

「そう。ペナントレースでもプレーオフでも日米野球でもその枕詞を冠した、『4番サード』の第一人者。でももちろん、最初からじゃないわ。前にも話した通り、最初はあんたと同じドラ6。コネでどうにかプロ入りできた程度の落ちこぼれ。上り詰めるまでにもまぁ色々あったわ」

「……『私にも乗り越えられたんだからあんたにも乗り越えられる』、ってことですか?」

「そんな安っぽい根性論だけじゃないわ。『あんたは似たような困難をもうとっくに乗り越えられてる』って話」

「え……?」

「『自分ではちゃんとやってるつもりなのに、思った結果に辿りつかない』。あんたにとっちゃ、それこそプロに入る前からずっと悩み続けてたことでしょ?」

「……!!!」

「4番に選ばれるようになった時点で、あんたは4番の『揺らぎ』を乗り越えるだけの力を持ってる。今日あんたは『4番』っていう立場もバッティングを狂わせる要素の1つだってことを学んだ。たとえまっすぐ前だけ向いて歩いてるとしても、足元に石があるのをわかってるのとわかってないのとじゃ全然違う。足元が見えなくても、つまづきにくい歩き方はできる」

「…………」


「ストライク!バッターアウト!」

「最後はインハイ!オクスプリング、10球粘りましたが最後は三振ッ!!」


「「「「「あああああ……」」」」」


「3番レフト、十握(とつか)。背番号34」


 ネクストに向かう準備をするあたしの肩を、コーチはポンと叩く。


「ここから先はあんたが自分自身とどう向き合うか次第。頑張んなさいな」

「……はい!」


「セカンド下がって……」

「アウト!」

「ッしゃあっ!!!」

「捕りましたスリーアウトチェンジ!立山、吠えました!!」


「「「「「ええぞええぞ立山!!!」」」」」

「ナイピーナイピー!」

「次の回で勝ち越しじゃ!」


 ありゃりゃ、せっかくやる気になったのにここで……

 ともあれ、これであたしの次の1打席が巡ってくることが確定。次の1打席も先頭打者。つまりは100%ランナーなしの場面。

 ……そんな状況で4番らしくあたしが勝負を決めるなら、狙うものは1つしかないよね?

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