第百二十二話 揺らぎ(5/6)
******視点:綿津見昴******
「7回の表、スティングレイの攻撃。3番センター、坂本。背番号63」
うーん、今日は忍さんに良いとこ持ってかれてるなー。オレも一応守備で貢献してるつもりだけど、いかんせん地味。
「ショート下がって……レフトの前落ちましたヒット!今日2本目!」
そして今日の麟はマジで調子良いな。外に逃げるスライダーをあんなに簡単に合わせて。
「4番ライト、綿津見。背番号1」
打つ方でもギリギリ逢よりかは貢献できてるけど、そろそろオレも4番の仕事しねーとな。
「引っ張って三遊間……ショート捕った!」
やべ……!
「アウト!」
「二塁アウト!」
「セーフ!」
「一塁はセーフ!」
逢のこと、とやかく言えねーな。またしてもミスショット。4番って立場の『揺らぎ』には慣れてても、自分との勝負に負けてるんじゃ意味ねーよな。
「5番指名打者、羽田。背番号27」
まーこうなっちまったからには、ランナーの仕事はしねーとな。
(バニーズは勝ちパターンのみならず僅差ビハインドでも使えるリリーフも充実してる。流石に1点で逃げ切るのは心許ないから、烏丸が降りる前にもうちょっと点を取っておきたいわね。となると……)
「ライト方向……落ちましたヒット!」
(よし、狙い通り……!)
ナイスっす敦子さん。右方向なら……!
「一塁ランナー二塁蹴って一気に三塁へ!」
「「「げっ!!?」」」
「おいィ!?セコいで!」
「チッヒは……」
悪いがこれも勝負。そっちがイップスなのはそっちの責任。三塁もらうぜ……!
(……させないよ!)
「ライト捕って三塁送球!」
「「「「「!!?」」」」」
何……!?
(抜かったね、メスゴリラ師匠)
「アウトォォォ!!!」
「三塁タッチアウト!今シーズン初めてライトでスタメン出場の天野、素晴らしい送球を魅せました!!」
「「「「「おおおおお!!!!!」」」」」
「チッヒ!外野守備いけるやんけ!」
「イップスとは何だったのか」
(あの頃と違ってちゃんと打てるようになったんだから。外野の守備だって、いつまでも引きずってなんかいられないよ)
タッチアウトになったから、大人しくベンチに引き下がる。
……オレが甘かったな。千尋の状態に関係なく、あの打球なら三塁にいけるって公算もあった。けどあのバックサード。一本取られたぜ。
まぁ何にしても……治って良かったな、千尋。もちろん悔しさもあるけど、お前を目標の1つにしてたオレとしちゃ、純粋に嬉しい気持ちもある。
「6番キャッチャー、桜田。背番号31」
けど、喉元にナイフが突き立てられてるのは同じだぜ?
(読み通り!)
「ピッチャーの頭上……抜けましたセンター前!ツーアウト一塁二塁!」
「良いぞ良いぞドクター!」
「打てるキャッチャー最高や!」
「「「「「まーくーん!!!」」」」」
さっすがプロスペクト。敦子さんの後釜はやっぱりドクターしかいねーな。
ウチは野球の戦術的が良く言えば伝統的、悪く言えば古臭いところがある球団で、年功序列だったり左右病とかが他の球団と比べてやや強いから今日は6番を任されてるが、ぶっちゃけ今のウチでオレや麟の次に打てるのは多分アイツ。
「スティングレイ、選手の交代をお知らせします。二塁ランナー、羽田に代わりまして……」
今日の敦子さんは指名打者。次の1点はデケェから代走は妥当。
「バニーズ、選手の交代をお知らせします。ピッチャー、烏丸に代わりまして、夏樹。ピッチャー、夏樹。背番号27」
向こうのピッチャー交代もな。
(点を取られなかったのは天野さんのおかげ……くそっ、なかなか三巡目を乗り越えられねぇ)
「7番サード、増田。背番号7」
しっかし、右の義さん相手に左か……
(このカードの仮想敵は当然、向こうの最強打者の綿津見さん。右ならむしろ好都合……!)
「サード正面、そのまま三塁踏んで……」
「アウト!」
「アウト!スリーアウトチェンジ!」
「「「「「よっしゃあああああ!!!!!」」」」」
「ナイス火消し!」
「巫女ちゃんとかいうワンポイントの神」
……何だかんだで連勝中のチーム。なかなか勝ち切れねーな。
けど、敦子さん達が打ってくれたおかげであと1回は打席が回ってくる。次こそは仕留めてやるぜ……!
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