第百二十一話 4番サード(1/4)
******視点:???******
6月8日。サラマンダーズの選手寮の食堂。
「1回の表、サラマンダーズの攻撃。1番センター、夏川。背番号8」
「おっ、始まったぞ!」
「打て打て夏川さーん!」
食堂のテレビで流れるのはもちろん、ウチの一軍とウッドペッカーズとの試合。サラマンダーズはペナントレースこそ戦況が芳しくないものの、交流戦では現在シャークスと並んで首位。
そんな状況で一軍の応援をしないのは少々心苦しいところではありますが……
「本日のバニーズの先発はプロ3年目の風刃鋭利。今日で10試合目の登板となります。6勝1敗、防御率1.83。今シーズンはこの風刃と山口がバニーズの先発陣を盛り上げています」
わたくしのスマホに映るのは、今日ジェネラルズと相まみえる風刃様のお姿。やっぱりわたくしのメインはこちらですわよねぇ……ホホホホホ……
「?どうしたんだ、野上?」
「ひゃいっ!?な、何でもございませんわ!!!」
クッソびっくりしましたわ……長い髪でワイヤレスイヤホンを隠してますが、片方だけにしておいて良かったですわ……
他の方々がテレビの方に釘付けになってるのを確認してから、スマホの方に視線を戻す。
「セカンド捕って、一塁送球!」
「アウト!」
「アウト!まずはワンナウト!」
はぁぁぁぁぁっ……今日も完璧ですわ、風刃様……
一見すると独特、ですが非常に計算された投球フォームから繰り出される圧倒的球威。精錬された制球力。多種多彩な球種。守備や牽制、クイックなどの細かな技術にも隙がない。これまで日本でもメジャーでも、映像越しに数多くの好投手を見てきましたが、風刃様はまさにわたくしの理想そのもの。同じ右投手でここまで惹かれた投手は他にいませんわ。
それに、わたくしより一回りほど小さい背丈で、凛々しいながらも幼さの残る顔立ち。2つ年上の殿方にこのようなことを言うのは憚られますが、バチクソキュートですわ。
「ストライク!バッターアウト!」
「三振ッ!最後はカットボール!これでツーアウト!」
「はぁ……」
登板日が1日早くにずれて、一昨日までのウチとのカードで登板してくださっていたら、こんなふうにコソコソすることなく堂々と見届けられたのに。そこが悔やまれるところですわ。
「何溜め息ついてんだ、野上の奴?」
「さぁ?アイツの考えてることはよくわからん」
「悪い奴じゃねぇんだけどなぁ……」
「割と可愛いし」
「あと胸部が満足サイズ」
「一応今年のドラ1様だけど、今んとこちょっとなぁ……」
「やっぱり森原指名しといた方がウチのフロントも罪悪感なかったし、戦力的にも良かっただろ」
……不肖、野上美里。高校を出て1年目。ドラ1として期待されるがまま早々に二軍で実戦デビューを飾れたものの、今のところは泣かず飛ばず。1年目から二軍でクッソヤベェ成績を残した風刃様の足元にも及びませんわね。
そんなわたくしですが、いつかは貴方様にお逢いできるよう、今日もモリモリご飯を食べて自分を磨きますわ。そして今のように交流戦や帝国シリーズで投げ合ったり、帝国代表として一緒に世界と戦ったり……そしてあんなこともこんなことも……ホホホホホ、クッソ楽しみですわぁ。
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******視点:風刃鋭利******
6月8日、サンジョーフィールド。今日からジェネラルズとのカード。
「へっくし!」
初回からテンポ良く2つアウト奪って、冬島さんの返球を捕ったところで急にちょっと寒気。そろそろあったかくなる頃のはずなのになぁ。
「ツーアウトツーアウト!」
「走ってるよー、風刃くん!」
後ろの方、センターから秋崎さんの声援。
「「「「「風刃くーん!!!」」」」」
そしてライト側からはファンの女の子からの声援。うーん、これこれ。こういうのがあるから、しんどい練習も緊張感ありまくりの試合も乗り越えられるんだよなぁ。女の子は追っかけたい派だけど、こういう状況はやっぱり男冥利。
「3番セカンド、九十九。背番号99」
(すっかり出世したね、九十九くんも)
(月出里は今年ホームランを狙いすぎて低迷も考えられたが、流石だな……ますます負けていられん)
確かおれの1コ上の人だっけ?大阪桃源の4番ショートだった人。
「ツーアウトランナーなしで打席には九十九。昨シーズンは初めて規定打席に到達してセカンドのレギュラーに定着。ここまで.304、3本塁打、10打点、5盗塁。走攻守いずれも結果を出しています」
神結さんが怪我抜けしてもなお強打者揃いのジェネラルズ打線。油断は出来ねぇな。
「ボール!」
「ストライーク!」
(去年話題になってたカットボールか……確かにこれは面倒だ。芯を外すどころかこの曲がり幅……)
今日はこのカットボールが良い感じ。
「ファール!」
もういっちょ……!
(何の!)
「ファール!」
「これも一塁線切れましたファール!」
(内側しっかり意識させて……)
(外まっすぐ!……いや……)
とみせかけてーの……
「ストライク!バッターアウト!」
「落とした!スプリット!空振り三振!」
「「「「「風刃くぅーんカッコイイー!!!」」」」」
(打席に立つと想像以上だな。あのヴァルチャーズを3戦続けて封殺した右腕……)
「これでスリーアウトチェンジ!風刃、今日も非常に良い立ち上がりを見せました!」
前々回のシャークス戦ではマウンドがイマイチ合わなかったのもあって不覚を取ったけど、今日なんかホームだしな。交流戦であんまり対戦する機会のない相手だし、わざわざ次に当たった時を想定して出し惜しみする必要性も薄い。
……まぁそれにしたって、シャークスには妙に合わせられたけどな。シャークスと勝負したの、前が初めてだったんだけど……単なる相性なのかねぇ?
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