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868回敬遠された月出里逢  作者: 夜半野椿
第四章 黄金時代
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第百二十話 転機(3/9)

******視点:頬紅観星(ほおべにみほし) [横須賀EEGgシャークス 外野手]******


「はぁ……」


 腹八分目にも満たないまま、まだ完食してないお皿を返す。その罪悪感もあるけど、それ以上に嫌になるのはわたし自身。


 去年、ホームランと打点と出塁率の3つで二軍のリーグトップ。今年こそやれると思ってた。喜ぶべきことじゃないけど、今年、開幕ライト当確だったカーペンターが家族の都合で日本に来るのが遅れて、わたしに代役が回ってきた。

 なのに、ヒットの1本も打てないまま二軍落ち。二軍じゃ今年も普通に打ててるのに。今日もわたしが4番でホームランを打って、先発のエイルちゃんが抑えて、麗文(れもん)ちゃんがリードして。そんな理想が叶うのはいつも二軍だけ。毎年毎年、二軍でたくさんの人に期待してもらって、一軍でそれ以上にため息をつかれるという繰り返し。


 だから、どうしても辛い。(あい)ちゃんや猪戸(ししど)くんが、わたしの理想そのままに活躍してるところを見るのは。それどころか今年は佳子(よしこ)ちゃんまで一軍でちゃんと結果を残してる。


「……!」


 スマホでスポーツ速報アプリを見ると、逢ちゃんはゲッツーで凡退。こんなのを見てホッとする私が本当に情けない。




******視点:北村麗文(きたむられもん) [横須賀EEGgシャークス 捕手]******


 やっぱこうなるわなぁ。2番に月出里(すだち)置いたら。

 多分、現状で十握(とつか)さんに次いで出塁率の高い徳田(とくだ)さんを1番に置いて、長打でのリターンを期待して2番に月出里っていうリスクを取ったんやろうけど、2番ってのは状況でバッティングに制約かかるからなぁ。近頃よく見かける『引っ張り傾向の強い』左打者ならともかく、『満遍なく色んな方向に色んな打ち方ができる』月出里(すだち)には向いてるようで向いてないわな。

 おまけにシャークスっていつも、守備は悪い方に定評があるけど、不思議とゲッツー取るのだけは妙に上手いんよなぁ。


(いきなり悪い方に転がっちゃったなぁ……)


 向こうの監督さんも大変なんやろうな。ウチほど酷くはないけど、ずっとBクラスに低迷してて。しかも優勝宣言までしたんやから、あの手この手でチームの浮上を模索してるのがようわかる。

 ……それでもウチからしたら向こうが羨ましいけどな。一部の権力持ってる偉いさんが優勝をむしろ(はば)んどるシャークスと(ちご)て、バニーズは一応偉いさんらが共通して本当に優勝狙っとるっぽいし。


「…………」


 蜜溜さんは月出里のことを、ベンチに引っ込んでからも見つめ続けてる。ほんま好きなんやな。あんまりにも一途なもんやから、エイルが真っ白な肌を真っ赤にして()いとる。


(月出里逢(すだちあい)……今年は厳しかろうが、いつか必ず一軍の舞台でシゴウしたる……!)


 まぁ、妬いとるのはウチも、それにきっと観星も同じやな。ウチも実は開幕一軍やったけど、何故か全く出番のないまま観星より先に二軍に落とされたし。

 それでも観星やエイルよりは冷静でいられるのは、勝負すらできてない分、失敗もしてへんからやろうな。『スラッガー』と『キャッチャー』っていう、立場の違いも余裕を生んでるんかもやけど。


「1回の裏、シャークスの攻撃。1番センター、戸狩(とがり)。背番号1」

「……ん?」


 こっち側の攻撃。蜜溜さんのことやから相手チームの打者が守ってる間に箸進めるんかと思ったけど、視線はそのままテレビの方。珍しいな。


「今日のバニーズの先発はプロ3年目の風刃(かざと)。開幕ローテは今シーズンが初めてですが、ここまで素晴らしい成績を残しています。5勝0敗、防御率1.32、47回投げて56奪三振」


 確かにすごいわ、アレ。あれでウチらより1つ年下なんやからな。


「ボール!」

「初球は高め、外れました」


「…………」


 蜜溜さんの視線はやはり変わらず。もしかして、あの風刃って奴に興味あるんか……?確かになかなかええ男やけど……ってのは1割冗談として。

 今日珍しくエイルの投球も観てたし、怪我してから何かちょっと変わったな、蜜溜さん。


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