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868回敬遠された月出里逢  作者: 夜半野椿
第四章 黄金時代
769/1131

第百十九話 リバース(4/6)

******視点:月出里逢(すだちあい)******


「5回の裏、バニーズの攻撃。8番キャッチャー、冬島(ふゆしま)。背番号8」


 相変わらずゲームは硬直状態。今日は外が広いのも手伝って、向こうの南雲(なぐも)さんのスライダーが効いてる。


「ファール!」

「これも当てていきます!」


(チッ、しつけぇな……!)

(流石に外スラに頼りすぎたか……?ここは落として……)

(……ん!?)


「「「「「……え?」」」」」

「あ、あれ……?」

「どうなっとるんや……?」


 すっぽ抜けた球……冬島さんの身体の近くにいく危ない球だったけど、冬島さんの身体にぶつかったわけでもキャッチャーミットに収まったわけでもない。


「え?まさか消える魔球か?」

「ロジン付けすぎてボールが雲隠れしたのか?」

「審議拒否」


「……あ」


 冬島さんがおもむろにユニフォームに手を突っ込むと、中からボールが。なるほど、ボタンの間に入って……


「ヒットバイピッチ!」

「記録はデッドボールとなりました!」

「これは珍しいですねぇ。最近はユニフォームをゆったりめに着る選手が多いですが、こういうことが起こるものなんですねぇ」


「ハハハハハ!冬島!出っ腹には当たらんかったか!?」

「何にせよ先頭打者出塁や!」

「ナイス出っ腹!」


(出っ腹出っ腹やかましい。これでも痩せたんじゃこっちは。って言うかロジンがシャツにこびりついて……)


 佳子(よしこ)ちゃんももう少し高めだったら同じようなことが……なんて、スケベ親父の発想。


「詰まってサードの正面!」

(まずいっす!)

「アウト!」

「二塁アウト!」

「セーフ!」

「一塁はセーフ!何とか間に合いました!」


 正直、朱美(あけみ)ちゃんは打つ方はまだまだイマイチ。打率は今あたしより上だけど。それに、ゴロの時はちゃんと全力で走る。チームを勝たせようっていう気は金曜日までのあたしよりもよっぽどある。自分をさっさと見限ってやりたいことだけやってたあたしと違って。


『……怖かったんだよね?』


 またしても"あたしの中のあたし"。

 ……そうだよ。


『あら素直』


 高校までは本当にダメダメだったからね。すみちゃんとかはあたしのことを認めてくれてるけど、肝心のあたし自身があたしを信じきれなくて。


『ほんと疑り深いね』


 全くだよ。

 ……そんなあたしだから、『ホームランを全く打てないけどヒットは打ちまくれる』か、『ホームランは打てるけどそれ以外はダメダメ』か、そのどちらかにしかなれないとどこかで思ってた。ホームランが打てるようになったのはあたしが成長したんじゃなく、単にあたしが『裏返った』だけなのかもと思ってた。望む方にようやく裏返れたから、できるかどうかもわからないことより、現状に甘えていたかった。


『でも、今の(あたし)は違う』


 あたしはもっとあたしを信じる。そして、君はあたしなんだから、君のことも。ずっとホームランを打たせてくれなかった君のことも。


『……!』


 あたしはもう君のことを"呪い"だなんて思わない。君なりにあたしのために一生懸命だったのは理解できたから。でも、君ばかりに頼ることももうしない。君にできないことはあたしがやるから、あたしにできないことは君にお願いしたい。


『……その言葉を待ってたよ』


 そう言うと、"あたしの中のあたし"があたしの身体に重なり合って、浸透していく。元々あたしそのものなんだから変な話だけど、何だかようやく、"本当のあたし"になれた気がした。


「1番サード、月出里(すだち)。背番号25」


 グズグズしててごめんね、すみちゃん。"お望み通りのあたし"をこれから魅せるから。

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