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868回敬遠された月出里逢  作者: 夜半野椿
第四章 黄金時代
767/1132

第百十九話 リバース(2/6)

******視点:徳田火織(とくだかおり)******


「ちょうちょ!怪我してへんか!?」

「2日も試合出んと何しとったんや!?心配してたんやで!」

「まだ信じとるからな!今日こそあんじょうやれや!」


 ホームゲームだから、当然最初は守備から。一塁側からセカンドのアタシを挟んで(あい)ちゃんにファンからの声が飛ぶ。

 やっぱりもうすっかり人気者だよね。今年の逢ちゃんは何だか成績が面白いことになってるのに、まだまだ期待する人が多い。それだけ結果を残してきた証拠。


氷室(ひむろ)くーん!頑張ってー!」

「うわっ、やっぱ今日もセカンド徳田(ブス)じゃん……」

「いい加減氷室くんを勝たせてほしいわ……」


 それに比べてアタシなんかまだこんな感じ……アタシだって去年一応規定3割打って、今年も割とやれてるのに。

 ……まぁアタシにも悪い部分が大いにあるから良いんだけどね。こんなこと言っちゃ何だけど、周りがどう言おうがもうあっくんはアタシのものだし。


「今日のバニーズの先発は氷室(ひむろ)。今シーズン6試合目の登板となります。0勝3敗とまだ今シーズン勝ち星に恵まれていませんが、33回を投げて防御率3.27、奪三振36としっかり仕事は果たしています」


 あっくんは今年、味方……アタシも含めてだけど、守備のミスとか打線の援護が絶妙に足りなかったりでまだ1勝もできてない。そういうのを抜きにしても鋭利(えいり)くんとか恵人(けいと)くんの方が活躍してるけど……そんなのもきっと今だけ。今日からアタシがあっくんを勝たせまくって、やっぱりあっくんこそがウチのエースなんだってことを証明してみせる。


「1回の表、エペタムズの攻撃。1番センター、坂東(ばんどう)。背番号66」


 今日は幸い、エペタムズだしね。

 エペタムズは幾重(いくえ)さんが抜けた後もしばらくはそこそこ強かったけど、今のところ2年連続5位で、今年は現状最下位。今年のリプは混戦気味だけど、その中で目立って負けが込んでる。幾重さんだけじゃなく、他の帝国一を獲った頃の主力選手も抜けたり成績が落ちたりして、今日のスタメンなんかも一軍上がりたての選手が多いのが過渡期を物語ってる。

 今日のあの1番打者もそう。坂東ザイルくん。確かまだ二十歳(ハタチ)くらいで、身体がすごい大きいハーフの子。立場的に結構期待されてるっぽいけど……


「ストライク!バッターアウト!」

「落としましたスプリット!まずは先頭打者を三振に斬って取りました!」


「「「「「氷室くーん!!!!!」」」」」


 まだまだ荒削り。振りは速いけど、そんな打ち方じゃあっくんの球は当たらないよ。


「ショート正面!」

「アウト!」

「これでツーアウト!」


 6球で2人。めちゃくちゃ良いペース。正直、今の逢ちゃんは期待して良いのか微妙なとこだけど、アタシの後には三四郎(さんしろう)くんとリリィちゃんが続くから、最低限の点は期待できる。今日こそはいけるはず……!


「3番指名打者、草薙(くさなぎ)。背番号8」

「ツーアウトランナーなしで打席には草薙。昨シーズンは十握(とつか)月出里(すだち)に首位打者は阻まれたものの.340の高アベレージ。3年連続規定3割に出塁率4割、球界を代表するヒットメーカーです」


 向こうの打線で一番厄介な草薙さん。選手としての格はアタシ以上だけど、背丈もバッターとしてのタイプもアタシと大体同じ。ホームランは2桁に届いたことがないのもね。だからランナーがいない状況なら何とかなる……


「!!!ライト下がって……!」


 ……あー……


「入りましたホームラン!草薙、今シーズン第6号先制アーチ!」

「4月半ばくらいからよく打ってますねぇ、今年の草薙は……」


 ゴメン、ちょっとフラグ建てすぎた……


「?」


 あっくんの視線の先、打球が飛び込んだライトスタンドとの間に挟まるアタシが黙って手を合わせる仕草。もちろん、あっくんにはその意図は伝わってないみたいで首を傾げてるけど、あの様子なら特に引きずってはいないはず。


「引っ張った!サード方向高いゴロ……」

「ファースト!」

「アウト!」

「アウト!スリーアウトチェンジ!しかしこの回、草薙のソロホームランでエペタムズ、1点を先制しました!1-0、エペタムズのリードです!」


 逢ちゃんも、日を空けての試合だけど特に動きに問題はなし。やっぱり休んでたのは怪我じゃないっぽい。

 まぁ最低限、守ってくれれば問題なし。もちろん、いきなりソロムラン返してくれたらそれが一番ありがたいけど……


「1回の裏の攻撃に入ります。今日のエペタムズの先発はプロ1年目の南雲(なぐも)。同じく今シーズン6試合目の登板で、ここまで1勝3敗と氷室と同様やや勝ち星に恵まれていませんが、32回を投げて防御率2.25で41奪三振。安定したピッチングを続けております」


「「「白馬(はくば)様ーーー!!!」」」

「あんれまぁ、なかなかのハンサムだべ……」

「"王子"!今日も頼むぞ!!」


 南雲白馬(なぐもはくば)くん。去年のエペタムズのドラフト1位。そして1年目から順当にローテ入りした将来のエース候補。名前負けしない爽やかな見た目の男の子で、背丈は鋭利(えいり)くんと同じかそれ以下くらいだけどヒョロくはない。

 前の登板ではヴァルチャーズ相手に6回まで零封してプロ初勝利。バニーズにとっては今日が初対戦になるけど、いつも逢ちゃんがホームランを打ってるような投手とは格が違うのは間違いない。


「1番サード、月出里(すだち)。背番号25」


 試合前の練習では何か最近とはちょっと毛色が違う感じがしたけど、試合でもやってくれるか……


「白馬様!そんな扇風機なんてねじ伏せちゃって!」

「やるわよほらおとくいのロジンで右手を……」

「「「「「ポンポンポン!」」」」」


 あっくんも割とロジンを付ける方だけど、白馬くんはえらい入念に付けるね。


「ストライーク!」

「まずは外まっすぐ!146km/hまっすぐから入りました!見逃してワンストライク!」


 ロジンを付けすぎてるせいでリリースの瞬間にエラい粉が舞う。そのエフェクトに見合うくらいキレは良いと思うけど、まっすぐのスピードは最近のリプの右投手としては特別速いわけじゃない。


(よしよし、とりあえずコイツは外中心で攻めとけば間違いはない。くれぐれもインハイだけはNGな)

(うっす)

「ボール!」

「チェンジアップ!低め外れました!」

「ファール!」

「外スライダー!一塁線切れましたファール!」


 ただ、話に聞いてた通り、球種は豊富みたいだね。


(こういう小細工タイプはあんまり好きじゃない……)

(コイツで決めるぜ!)

(……!)

「ファール!」

「また外スライダー!何とか当てました!」

(ほう、あれを当てるのか)

(今のは……)


 色々球種を持ってるけど、一番の武器はスライダー。これも話に聞いてた通り。

 ただ、逢ちゃんちゃんと当てたね。最近の逢ちゃんだと大体ああいうのでクルクルしてたし。


(もういっちょ!)

(外れる……!)

「……ストライク!バッターアウト!!」

「……!」

「見逃し三振!最後も外のスライダー!!」


 あー、今の入っちゃったか……逢ちゃんも首を傾げてるけど、そこまで悔しがってる感じでもない。


「ええ、今の入ってるのかよ……」

「ちょっと外広くない?」

「最近のちょうちょ的にアレがストライクやとまずいやろ……」


「よっしゃ!良いぞ良いぞ!!」

「やっぱり今日も自動アウトじゃん、向こうのちょうちょ」

「ここからどうにか最下位脱出できたら良いけど……」


「入ってました?」

「ん?ああ……」

「そうですか」


 球審と少し話した逢ちゃんがアタシとすれ違う。


火織(かおり)さん。今日、外広いです。それと向こうの南雲さん、スライダー使い分けるタイプっぽいです」

「ああ、なるほど……ありがと」


 複数のスライダーの使い分け……ウチの司記(しき)くんとか、ウッドペッカーズの赤坂(あかさか)さんみたいなタイプだね。こういうタイプは結構三振をポンポン()ってくる。ただでさえ当てるのが面倒な『外に逃げる』球がいちいちコロコロ変わるわけだからね。


「2番セカンド、徳田(とくだ)。背番号36」


 でもそれは、対右に限った話。左のアタシからしたら……


「!!!センター下がって……」

「「「「「おおおおおおおっっっ!!!」」」」」


 得意な『内に入り込む』球が来やすいってことだよね……!


「セーフ!」

「二塁セーフ!徳田、ツーベースでチャンスメイク!ワンナウト二塁!」


「よっしゃあ!ナイスや人妻!!」

「やっぱ今年はかおりん1番固定で良いのでは……?」


「火織!ナイバッチ!!」


 いきなり良い結果を出して観客席が沸き立ってるけど、それでもやっぱり一番嬉しいのは、合間を縫って届くあっくんの声。

 ……みっくんだけでも大変だけど、やっぱり2人目も欲しいなぁ……


「3番レフト、十握(とつか)。背番号34」

「先制のチャンスで打席には十握。昨シーズンの首位打者で、今シーズンもここまで.348、7本塁打、20打点と非常に当たっています」

(南雲は特別左が苦手ってわけでもねぇが、それでもバニーズは左打者でそれなりに良いのが揃ってるのが面倒だな……)


 おっといけない。集中集中。きっと三四郎くんなら打ってくれるし。


「!!セカンド飛びついて……抜けました!二塁ランナー徳田(とくだ)、三塁蹴って一気にホームへ……」

「セーフ!」

「ホームイン!1-1!バニーズ、初回で追いつきました!」


「っしゃあっ!ナイスや"最強打者"!!」

「毎年奇妙なフォルムチェンジするちょうちょと違って安心して見てられるわ」

「これで3倍打点ニキもご満悦」


「ナイスラン!」

「よくやってくれた!」

「まだワンナウトワンナウト!」


 盛り上がるベンチに戻って、あっくんだけじゃなくチームのみんなとタッチを交わす。


「ナイバッチです」

「逢ちゃんもありがと」

「いえ、大したことはしてないです」


 今日はいつも以上に淡々としてる逢ちゃんとも。

 まぁでも情報共有は助かったし、期待通り三四郎くんも打ってくれた。アタシとしてはとりあえず今日はあっくんが勝てばそれで十分。逢ちゃんもあんまり気負わずに復調してくれたら良いけど。


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氷室と南雲の成績の計算間違ってましたので修正しました。申し訳ない……

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