第百十八話 執着(7/8)
【バニキ・バネキの集い】天王寺三条バニーズ総合スレ12【2021】
231 : 風吹けばちょうちょ [] :2021/05/08 (土)
【速報】ちょうちょ、不在
○天王寺三条バニーズ
監督:伊達郁雄
1二 徳田火織[右左]
2指 リリィ・オクスプリング[右両]
3一 松村桐生[左左]
4左 十握三四郎[右左]
5右 サンディ・チョッパー[右右]
6中 秋崎佳子[右右]
7三 服部金次郎[右左]
8捕 冬島幸貴[右右]
9遊 宇井朱美[右左]
投 風刃鋭利[右右]
なおベンチにもいない模様
232 : 風吹けばちょうちょ [] :2021/05/08 (土)
>>231
こマ?二軍落ちしたんか?
233 : 風吹けばちょうちょ [] :2021/05/08 (土)
>>232
いや、公示にはなかったやろ
234 : 風吹けばちょうちょ [] :2021/05/08 (土)
現地民やけどちょうちょ確かにおらんな
235 : 風吹けばちょうちょ [] :2021/05/08 (土)
扇風機になった後も愛人起用されてたのに何故……?
236 : 風吹けばちょうちょ [] :2021/05/08 (土)
>>235
一応フル出場だったわけでもないんやけどな
4月にも1日休んでるし
237 : 風吹けばちょうちょ [] :2021/05/08 (土)
>>236
っていうか休ませるんなら葵姉貴投げてた昨日やんな
怪我とかやなかったらええんやけど……
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******視点:伊達郁雄******
5月8日、アルバトロスとのビジター2戦目。試合開始までもうすぐ。
「服部くん、今日は頼んだよ」
「は、はい!」
(よっしゃ!何故かはわからないけどあの"メスパンダ"がいない!)
「あれ?今日ちょうちょおらへんの?」
「ええ……来た意味ないやん……」
「風刃くんと十握くんいるんなら余裕っすわ(バネキ)」
スタメン発表、1番に月出里くんがいなかった時点でざわめきはあったけど、スタメンにすらいないとなると、やはり動揺の声があちこちから聞こえてくる。
野球をやる側からしたら、『適度に休みを挟んだ方が良い』ってのはもちろん頭にあるけど、プロ野球は客商売でもある。それに、野球を観る側からしたら決して出費の安い趣味ではない。そういう意味でも、人気選手はなるべく試合に出るのが誠意。競争率の高い強いチームなら尚更、たとえ主力選手でも自分の立場がなくなるのを恐れて無理矢理にでも試合に出るものだから、こういうのを認めるのは『自分達は弱いチームのままだ』と表明してるみたいで気が引ける部分もある。
けど……
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『伊達さん、その……お願いがあるんですが……』
『ん?何だい?』
『今から大阪に戻っても良いですか?』
『ええっ!?いや、そうなると明日明後日の試合が……』
『はい。休ませてほしいんです』
『私からもお願いします』
『え、えっと……もしかして振旗コーチも……?』
『いえ、私は残ります。今日中に急ぎで大阪に戻らせて、再調整させます。来週火曜からのエペタムズ戦に間に合うように、今日中に帰らせたいんです』
『…………』
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去年、オリンピックの負担や盗塁が嵩んで後半にバテても弱音を吐かずに出続けた月出里くんが、振旗コーチを連れてでも自ら志願。この件はコーチに預けてたし、鹿籠くん抜きでも月出里くんはアルバトロス戦での成績が比較的良くないから、欠場させる理由は一応ある。
……それに、僕自身も立場的にそろそろ勝っていかないとまずいからね。昨日までのホームランを狙うだけの月出里くんを尊重したのだから、これから先の月出里くんも尊重するってのなら筋は通る。
何よりいち野球人として、やはり僕が見たいのは、去年のオリンピックで魅せたような月出里くん。『この子がいれば絶対に勝てる』と、そう思わせてくれる彼女だ。
今は彼女とコーチを信じるしかないね……
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******視点:月出里逢******
時間を遡って、5月7日。
伊達さんに休みを申し出てすぐ新幹線に乗って、眠気に耐えながら新大阪に着くと、駅には優輝の姿。
「わざわざ来てくれたの?」
「本当は千葉まで迎えにいきたかったけどね。帰り道、大丈夫だった?」
「うん……ありがと」
夜中なのにサングラスをかけて、帽子の中に束ねた髪を無理矢理詰めた程度の変装。そんなものに頼って今からでも優輝と良いことしたくなる。
「ごめんね、急に……」
「大丈夫、明日から土日だしね。とことん付き合うよ」
でも、しばらくは我慢。あたしだって本当は良くないとは思ってた"今のあたし"。"少なくとも今よりはマシなあたし"になるまではね。
火曜日からホームでエペタムズ戦。それまでに使える時間は土・日・月の3日間だけ。二軍落ちせずにこういう我が儘を通してもらった以上、1日たりとも無駄にできない。
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5月8日午前、サンジョーフィールド。もちろん、今日はここで試合の予定はない。
「そろそろいける?」
「うん、大丈夫」
調整のメインはバッティングだし時間に余裕はないけど、優輝が投げることに変わりはないし、あたしも試合の感覚は失いたくない。まずはいつも通りの練習ってことで、ウォーミングアップを済ませて、優輝とキャッチボールを始めた頃……
「ん?先客……あれ?逢ちゃん?」
「天野さん……?」
あたし達以外にも球場入りする人達。その内の1人は、大怪我の完治から一軍復帰に向けて調整中の天野さん。
「どうして逢ちゃんがここに……?」
「えっと、今日と明日の試合休みにして調整に……天野さんは?二軍のとこで練習じゃないんですか?」
「ああ、今日は二軍も試合があるからね。広いとこじゃないとできない練習を長くやりたいから、こっちに来たんだよ」
『広いとこ』……フリーバッティングかな?長打が自慢の天野さんだし。でも、もうあたしは天野さんを嫉妬することもない。
「最近の逢ちゃんすごいよねぇ。月9本なんてぼくでも打ったことないよ。それに『オーバーダイブ』も……」
「えへへ……」
今のスタイルを改善するにしても、そっち方面で天野さんに勝てたっていう事実は変わらないんだし。
「逢ちゃんは今日どんな感じで練習するの?」
「とりあえずキャッチボールして素振りとかティーとかトスとか軽めに……最後にフリーバッティングをがっつり長めにやろうと思ってます」
「あー、それならぼくの方で先にグラウンド広めに使っちゃって良いかな?二軍の方で多少身体動かしてるし、早めに済ませるから」
「はい、大丈夫です」
「ありがと。それじゃ、お願いします」
「はい!」
フリーバッティングを始める……のかと思いきや、バットを持ってるのは球団スタッフさんの方で、グローブを脇に挟んでるのは天野さんの方。
それに……
「天野さん……それ、ファーストミットじゃないですよね?」
「あ、うん。そうだよ。ずっと使ってなかった外野用のやつ」
外野用……?いや、でも天野さんって確か……
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