第百十八話 執着(5/8)
******視点:月出里逢******
流れってものはやっぱりあるみたいで、あたしがバントもできなければ狙いの球も仕留められなかった直後に守備のミス連発で、まさかの百々(どど)さんが5点も奪われる事態。
「三塁線……サード深いところで捕った!」
(それでもこれなら内野安打……!)
「ジャンピングスロー!」
「「「「「!!?」」」」」
「アウトォォォォォ!」
「一塁送球間に合いました!月出里、ファインプレー!!まさに蝶のように舞い、蜂のように刺す見事な守備を魅せました!!!」
「すさまじい肩ですねぇ、本当に……三塁後ろのファールゾーンまで出たのにあの送球……150くらい出てるんじゃないですか?」
「ナイスや"守備の人"!」
「扇風機で全然盗まんようになったのに、守備だけは何故か据え置きなんだよなぁ」
「守備だけならもうショートにしとけばええんちゃうの?」
「スリーアウトチェンジ!」
「ありがと、逢ちゃん」
「いえ……」
ベンチに戻る間に、百々さんからの感謝。
大元の流れを悪くしたのはあたしかもしれないけど、エラー祭りには関わってないし、むしろこの回のアウト2つはあたしが取った。
「センター前!」
「ライトの前……落ちましたヒット!金剛の後に松村も続きました!」
「「「「「おおおおおっっっ!!!」」」」」
自作自演気味とはいえ、あたしが引き寄せた流れにタダ乗りされてる感はあるけど、きっとあたしと違って他の人達は進歩してるだけ。鹿籠さん相手でも……
「7番センター、秋崎。背番号45」
「5回の表バニーズ、5-0と離されてはいますが、ノーアウト一塁二塁。ここで打席には秋崎。今日のバニーズ打線の中で数少ない右打者の1人です」
(おっぱいが情けなくない人……この人は基本的に空振ってくれるけど、月出里さん以上に読めないタイプ……)
(……!これなら!!)
「!!!これは、左中間方向……入りましたホームラン!!秋崎、第3号スリーランホームラン!!!」
「「「「「よっしゃあああああああ!!!!!」」」」」
「おっぱいミサイル!おっぱいミサイル!」
「やっぱ葵姉貴相手ならアヘ単の相模よりびっくり箱のおっぱいやな」
「っていうかちょうちょの分の打ち直しやなこれは」
「やめて差し上げろ(良心)
佳子ちゃんも、もう少なくとも一軍は安泰ってくらいになった。
真ん中低め、ボールゾーンまで落ち切らなかったチェンジアップを掬い上げるようなスイング……あたしには何故かできない。ホームランの数では佳子ちゃん以上になれたけど、あたしがホームランにできたのはまだ内寄り高めのまっすぐだけ……
『やっぱりあたしがいなきゃダメだねぇ〜、君♪』
……また視えた。"あたしの中のあたし"。
『もう意地張らなくて良いんじゃないのぉ?そろそろスタメンとか一軍とか危ないかもよぉ?』
やかましい。
『…………』
テメェは"あたしの力"だろうが。使いはするが、もう使われたりしねぇ。あたしはあたしだけで、もっと上のスラッガーになる。
『……そう』
どいつもこいつもゴチャゴチャうるせぇ。
……まぁ、あたし自身もうるさいってことは、きっと内心ビビってるってことなんだろうけどね。あたしの居場所がなくなるのかもって。
まぁ2年目のシフトに引っかかりまくってどうしようもなかった頃と比べたら、数字だけは出せてるのは救い。あたし自身考えてた『ホームランで打率を稼ぐ』っていうのも、一応実現できてはいるし。
それでも、その数字はあたし自身のためのものにしかなってないのはわかってる。けど、あたしは……
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「1番サード、月出里。背番号25」
「ワンナウトランナーなし。今日4打席目となります、月出里。ここまでヒットはありません」
今日も鹿籠さんを打てなかった……おまけに8回で7-4。結構キツい状況。
「ボール!」
鹿籠さんはもう降りてる。点差的にも投げてるのは普通に勝ちパターン。でもあたしとしては、鹿籠さんと比べたらまだマシな相手。
「ファール!」
「ボール!」
「ストライーク!」
「ファール!」
「ファール!」
「ボール!」
「ボール!フォアボール!」
「8球目選びました!」
「やりゃできるやんけちょうちょ!」
「選球眼前ほどやないって言っても元がエゲツないからなぁ……」
「まぁ"雑魚狩りピエロ"なのは変わらんけどな」
後の方の打席になれば、バッティングの感覚が身体に馴染む。相手はあんまり制球が良くない速球派タイプ。これくらいならどうにかできる。できればまたインハイの近くに来てほしかったけど、来なかったんじゃしょうがない。
一応最低限の仕事は果たせた。数字も最低限はキープした……勝ち負けはともかくね。
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******視点:金剛丁一******
ヒットとホームラン1本ずつ。久々に上々の結果。だが、勝ちに結び付かなければ同じだな。俺や伊達さん達が最低限タイトル争いはしてた頃と。
用具の点検をしてから、少し遅めにロッカールームへ行くと、中から話し声。
「はぁ〜試合に出たいっすよ……」
「お前左だし、鹿籠とか西園寺の時くらいはスタメンでも良さそうだけどなぁ」
「仕方ないっすよ。サードには"メスパンダ"がいるんすから」
「"メスパンダ"って安直やな……今日観客席から聞こえた"雑魚狩りピエロ"の方がセンスあるでwww」
「やっぱ監督、月出里とそういう……」
「いや、監督はどっちかと言うと山口と……」
「…………」
……一軍半の選手の、嫉妬混じりの下らん勘繰り。
「おい」
「あ、金剛さん!」
「お、お疲れ様っす……」
「よそのお宅だぞ?マスコミの耳もどこにあるかもわからん。そういう話は帰ってからにしろ」
「「「は、はい……」」」
俺だって月出里に思うところがないわけじゃない。打席の分、俺よりホームランの数だけは上回るようになったから余計にな。
……だが、アイツが使われてるのは伊達さんの判断だ。
あの人は確かに他人に甘いところがあるが、勝負で妥協をする人ではない。11年前、俺が初めてホームラン王になって、伊達さんも初めて3割打った年だってそうだった。フロントの都合で終盤に休養を余儀なくされたが、あの人は最後までAクラス入りとCS進出を諦めてなかった。チームの中心選手同士で、そういうところはずっと見てきた。できることならお互い選手の内に一度は優勝したかった。
……俺はあまり気の利いたことが言える性分じゃないし、現役の内の優勝を我慢できる性分でもない。今は伊達さんを信じてこうしてるが、あまりかばってはやれんぞ、月出里?
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