第百十七話(第三章最終話) オーバーダイブ(7/7)
******視点:鹿籠葵******
「8回の表、アルバトロスの攻撃。5番指名打者、グコラン。背番号54」
……ホームランを打たれて、そこでスリーアウトチェンジ。野球を長くやってきたけど、そんなことは初めて。
「鹿籠、よくやってくれた。この回で上がりだ」
「はい……」
もちろん、そのタイミングで降板っていうのも。
「……大丈夫か?」
ベンチにへたり込んで、俯いたまま。
そんなわたしの様子を見かねてか、村上監督が声をかけてくれる。
今までにない悔しさ……というか屈辱。
今までまっすぐをホームランにされたことが全くないってわけじゃない。それにやっぱり、打たれたこと自体も当然悔しい。
でもそんなことよりももっと悔しいのは、『産み出したまっすぐの頑張りが否定されたこと』。
確かにリリースこそ、力を入れた分ほんの少しミスしたけど、それでもわたしはいつだって、自分が投げたまっすぐに誇りを持ってる。そのまっすぐが場外まで運ばれたのなら、わたしは納得するしかない。『よく戦って、よく頑張った』と受け容れるしかない。それが、産み出したまっすぐに対する何よりの誠意だと思う。
なのに、結果として憐れまれた。情けをかけられた。本当はホームランなのに、二塁打扱いになった。あのまっすぐの一生懸命が否定された。打撃結果はバットを振るだけでは絶対に生み出せないものなんだから、その結果が覆されるのは投げた球に対する否定でもある。
子供を馬鹿にされて怒らないお母さんなんているわけがない。たかがあんなドジで否定されて良いわけがない。いくら記録上消えたからと言って、わたしのまっすぐを完璧に捉えられてあんなとこまで飛ばされた事実は絶対に消えない。笑い話で完結して良いわけがない。
「大丈夫です」
「!!?」
「あんなぬるいピッチングはもう二度としませんし、月出里さんにはもう絶対に打たれません。絶対です……!」
(驚いた。普通に話すだけでもどもるような小心者の鹿籠がこれほどの怒気を出せるとはな……まぁ良い傾向ではあるな)
グラウンドでショートの守備に入ってる月出里さんを睨みつける。
わたしは今まで、単純に投手をやれてたらそれで良かった。誰かと投げ合うのとか、誰かを打ち取るのとか、野球で対戦する相手が介在することに特別な感慨なんてなかった。『理想のまっすぐ』を求めて、まっすぐを産み続ければそれで良かった。誰かの何かで意識したものをあえて挙げるなら、大神くんのあのまっすぐくらい。
でも、今日からは違う。
月出里さん。『自分の中に籠りっぱなしで誰かと争うことをしなければ、進歩なんてできやしない』。そのことを教えてくれたのだけは感謝するよ。
でも、今度は絶対に負けないから。わたしの負けはあの1本限りにするから。情けないわたしだけど、月出里さんにだけは情けないわたしを見せたりしないから……!
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【バニキ・バネキの集い】天王寺三条バニーズ総合スレ7【2021】
86 : 風吹けばちょうちょ [] :2021/04/06 (火)
わけほーっ!わけほおぅううっす!わけほーっ!わけほうーっす!
外の池に大きく打ったちょうちょの
プロ第一号が三塁踏み忘れに無視され、
戻った時には消えていた。
87 : 風吹けばちょうちょ [] :2021/04/06 (火)
わけほーっ!わけほおぅううっす!わけほーっ!わけほうーっす!
ちょうちょのプロ第一号ゎ
三塁踏み忘れだから
モザイク入り
88 : 風吹けばちょうちょ [] :2021/04/06 (火)
わけほーっ!わけほおぅううっす!わけほーっ!わけほうーっす!
おめぇはグラウンド内じゃなくて
場外にツーベース打つんだな、マジおもしれー!
89 : 風吹けばちょうちょ [] :2021/04/06 (火)
わけほーっ!わけほおぅううっす!わけほーっ!わけほうーっす!
リリィはスンゲーマッチョだぜ!
今日1日で4本ヒット打った!
90 : 風吹けばちょうちょ [] :2021/04/06 (火)
わけほーっ!わけほおぅううっす!わけほーっ!わけほうーっす!
結局場外に打っても、ちょうちょって
ただのアベレージヒッターなんだよね……(泣)
91 : 風吹けばちょうちょ [] :2021/04/06 (火)
みんな三塁踏み忘れにばっかり言及してて草生えますよ
92 : 風吹けばちょうちょ [] :2021/04/06 (火)
>>91
あんなん一生に一度見れるかどうかの
珍プレーだからね、しょうがないね
93 : 風吹けばちょうちょ [] :2021/04/06 (火)
>>92
しかもあの1点で勝ちを逃したからなぁ
ちょうちょやなかったら即ホモビ送りや
94 : 風吹けばちょうちょ [] :2021/04/06 (火)
>>12
ベンチで冷たくなっている月出里が発見され、
Y村とM田は病院内で静かに息を引き取った
95 : 風吹けばちょうちょ [] :2021/04/06 (火)
去年ホームラン0本でOPS1やったけど
今年もやりそうで逆にワクワクしてきた
96 : 風吹けばちょうちょ [] :2021/04/06 (火)
ちょうちょが三塁を踏み忘れて失ったもの
・2021年シーズン最初のアルバトロス戦での勝ち
・対アルバトロス戦12連敗からの脱出
・巫女ちゃんのシーズン初勝利
・2021年シーズン春先の勝率5割復帰
・天敵の鹿籠葵からプロ初本塁打
97 : 風吹けばちょうちょ [] :2021/04/06 (火)
>>96
草
98 : 風吹けばちょうちょ [] :2021/04/06 (火)
>>96
失ったもの多すぎィ!
99 : 風吹けばちょうちょ [] :2021/04/06 (火)
>>96
草
ケツバット不可避
100 : 風吹けばちょうちょ [] :2021/04/06 (火)
>>96
えいりーんの負けは消せたから(震え声)
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******視点:月出里逢******
4月7日。あの大失態の次の日。
「センター秋崎、見上げて……」
「アウト!ゲームセット!!」
「捕りました試合終了!5-1!バニーズ、対アルバトロス戦での連敗を12でストップ!今シーズンの勝率も5割復帰となりました!」
「よっしゃ!これでカードの負け越しもないわ!」
「本当は勝ち越してたんだよなぁ……(遠い目)」
「やめて差し上げろ(良心)」
「ごめん……」
「気にしなくても良いさ。こういうこともある」
最終回、あたしのエラーも絡んで雨田くんには満塁劇場やらせちゃったけど、結果として連敗を伸ばさずに済んだ。
今日も最後にまたやからしちゃったけど、一応打つ方では今日『も』ツーベースを打ったし、松村さんのツーランとかもあって、アルバトロスに対する打線のアレルギーは多少マシになったかな?そう考えれば、昨日の長丁場も無駄じゃなかったはず。
まぁ今日の勝ちは、グコランのソロ以外はほぼ完璧に抑え込んだ山口さんのおかげだと思うけど。
(また風刃さんばっかり目立っておれの活躍が適当に流された気がする……)
……今日は無理だったけど、あのホームランは絶対にどこかで取り返す。そして、今度こそあたしのホームランでバニーズを勝たせてみせる。
とんでもないイベントがいきなり来ただけで、まだ春先。優勝の可能性なんてまだまだいくらでもある。あたしはプロ野球選手である限りは、すみちゃんの言ったことは全部嘘にしないと決めてる。『史上最強のスラッガー』も『今年の優勝』も、どっちも絶対に果たす。
次回はいつもの登場人物紹介を挟んでから新章に入ります。
次章、第四章 黄金時代




