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868回敬遠された月出里逢  作者: 夜半野椿
第三章 オーバーダイブ
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第百十七話(第三章最終話) オーバーダイブ(2/7)

「ボール!フォアボール!」

「ボール!フォアボール!」


「ああっ!また外れてしまいました!これでツーアウト満塁!」


 マウンドに集まったり、投手コーチが往復したりしても、エンダーの制球は戻らず。


「オワタ……」

「もう降参でええやん……」

「野手登板でもするか?(投げやり)」


「4番サード、真野(まの)。背番号55」


「シンゴー!決めたれ!」

「今日で名実共に4番や!」

「「「信伍(しんご)くーん!!!」」」


 満塁。まさにスラッガーの腕の見せ所。

 ……あたしも去年結果を出したのに、今になってもこういう状況だと劣等感をぶり返す。真野くんが羨ましいなーって。

 あたしは野球はずっとプロ野球しか興味がなくて、高校野球も自分自身がやってる時ですらよっぽど有名な人くらいしか知らない程度だった。そんなあたしでも、真野くんの名前は知ってた。鹿籠(こごもり)さんとかの方が有名でも、あの頃のあたしと比べたら、選手としての格は天と地ほどの差。

 そりゃ今の選手としての格とか稼ぎはあたしの方が上かもしれないけど、あたしが望む形で期待されてるのは真野くんの方。たとえ二軍でも二冠王なんて立派なものだし、一軍でも当然もうプロ一号なんてとっくに打ってる。その時点で勝ってる気なんて全くしない。


「バニーズ、選手の交代をお知らせします。ピッチャー、エンダーに代わりまして、夏樹(なつき)。ピッチャー、夏樹。背番号27」


「おっ、巫女ちゃんやんけ!」

「"4番殺し"や!今日も"4番殺し"やで!」

「「「カ・グ・ラ!カ・グ・ラ!カ・グ・ラ!カ・グ・ラ!」」」


 エリートにはエリートを……ってとこかな?

 先発とかクローザーとかじゃないけど、あたしと同じく一軍でやるようになって3年目。強い相手にはとことん強いって信頼もされてる。観客席も少しだけ活気を取り戻す。


「プレイ!」

(夏樹か……まぁ風刃やエンダーよりかはまだ……)

(真野か……このカードはダーコンを特に警戒してるんだけど、同じ左のスラッガーなら何とかなるかねぇ?)


 真野くんはセンターから左方向に打つことが多い。満塁だから比較的守りやすい状況。とりあえず取りこぼしだけはしないように……


(真野は逆方向に打つことが多いから勘違いされがちだが、実際のツボはインコース……特にインハイを強く叩くこと。なら最初は……)

(いつもより少し腕が横振り……だがインコース……!?)

「ファール!」

「一塁線切れました!」

(シュートか……!)

(今時の左投手(サウスポー)はあんまり使わないやつ、ってね)


 打球自体は強かったけど、神楽ちゃんは余裕の表情。こういう時の神楽ちゃんは大抵上手くやってくれる。


「ボール!」

「今度はフォーク!低め外れました!」

(左右の違いはあっても、風刃やエンダーより10km/hは遅い球。欲張らんかったらこんくらいは……!)

(……なーんてこと考えてるんだろうが……)

(!!!)

「ファール!」

「三塁方向!差し込まれました143km/h!これでワンボールツーストライクと追い込みました!」


 少し腕を横振りにしたストレート……


(……球の出どころを掴みづらかった分か)

(ピッチングはスピードだけじゃねーんだぜ、ゆとり坊や……あ、同い年だったか)


 左相手だから、決め球は多分……


(スラーブ……!)

(だろうな……!)

「ファール!」


 トップハンドを離して外の球にどうにか合わせてきた。右投げ左打ちをする上で明確な長所。ボトムハンドに残るのは利き手だから、誤差程度ではあるだろうけど当てる上では有利。


(なかなかやるじゃねーの。けど、打線での役割が染み付いてるみたいだな。外の球への踏み込みが甘い。球数を稼ぐそっちのやり方に順応しすぎたかねぇ?若い選手なら、チームの方針になかなか逆らいづらいだろうし、投手(こっち)としても球数を稼がれるのは確かに嫌ではある。でもな……)


「ストライク!バッターアウト!」

「三振ッ!最後も外へのスラーブ続けました!」


(そんなのは、ワンポイントにはあんまり関係のない話だ)


「これでスリーアウトチェンジ!アルバトロス、ツーアウト満塁のチャンスを活かせなかったものの、この回は高座(こうざ)のタイムリーで1点を追加!3-1、バニーズ、この状況を巻き返せるか!?」


「ええでええで巫女ちゃん!」

「ナイス火消し!」

「流れ変わるで!」


「ナイピー!」

「おう、サンキュ!」


 ベンチに戻る道すがら、神楽(かぐら)ちゃんとタッチを交わす。


(あい)

「何?」

「あっし、今年はぶっちゃけ雨田より先に勝ち投手になりたいんだよなぁ」

「……!」

「どうせ勝つんなら、目的は多い方が良いだろ、逢?」

「うん……ありがと」

「まぁ打順が回ってこなかったらそれまでだけど、もしそうなったら頼んだぜ」


 勝つために必要なのは3点。最低限負けないためには2点。そして裏の攻撃は5番の松村(まつむら)さんから。


「5、6、7、8……」


 あたしが裏の攻撃で何番目の打者になるか、指折り数えて確認。

 ……うん。9番のあたしのとこでワンナウト満塁とか、良い感じにランナーが溜まって回ってくるパターンがありえる。ただ、神楽ちゃんの言うように、そもそも回らない確率の方が高そう。そういう形ができるかどうかは完全に他力本願。でも、望みはまだある。

 良いよ神楽ちゃん。一昨年(おととし)から一緒に一軍で長くやってるけど、ずっとワンポイントとかでなかなか勝ててないもんね。もしそうなったら、ついでにあたしが勝たせてあげるよ……!

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