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868回敬遠された月出里逢  作者: 夜半野椿
第三章 オーバーダイブ
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第百十六話 2021年4月6日(5/9)

******視点:月出里逢(すだちあい)******


「3回の裏、バニーズの攻撃。8番サード、宇井(うい)。背番号24」


 1回は結構良い感じに攻められたけど、2回は三凡。攻守交代してすぐだけど、ネクストに向かう準備。


月出里(すだち)くん」

伊達(だて)さん……」

「どうだい今日は?いけそうかな?」

「気を遣ってくれた伊達さんのためにも、最低でもショートの役割は果たしますよ」

「……まぁ、これからのことを想定して、月出里くんと宇井くんを入れ替えた布陣を試しておきたかったしね」

「ありがとうございます」


 『打つ方でも』……とは自信を持って言えない。今までが今までだしね。


「ストライク!バッターアウト!」

「チェンジアップ!空振り三振!これで三者連続!」

「前の回からチェンジアップが外の良いところに決まってますね。左が続いてるのが却って功を奏してるのかもしれませんね」

(うう……あの変なまっすぐ意識しちゃうと、どうしてもバットが止まらないっす……)


 向こうもエンジンがかかってきたのかな?上等。本調子の相手に勝ってこそ、今までの分が取り返せるってもの。


「9番ショート、月出里(すだち)。背番号25」

「ワンナウトランナーなしで、打席には月出里。昨シーズンから1番など、打線の要としての起用が続いている月出里ですが、今日は久々の9番での起用となりました」


「せめて歩けや"守備の人"!」

「ぼ、僕は打てるって信じてるからねちょうちょちゃん!」

「とりあえず粘れー!」


 これでもオリンピックで結果出したり結構頑張ってるつもりなんだけど、鹿籠(こごもり)さんが相手だと、途端に周りの反応も前のあたしに戻っちゃうね。それどころか、猪戸(ししど)くんだけじゃなく、真野(まの)くんにも"4番サード"で先を越されて……

 でもそれも、きっと今日までにしてみせる。


(誰が相手でも、わたしはわたしのまっすぐを信じる……!)

「ストライーク!」

「ますはストレートから入りました!149km/h!!」


 ただでさえめんどくさい軌道なのに、今日のまっすぐはほとんどが150近く。たまに超えることもある……そりゃそうだよね。あたしが進歩してる間にも、鹿籠さんだって進歩してる。同じ歩幅のままじゃ、いつまで経っても勝てやしないよね。


(スピードだって、いつかは大神(おおがみ)くんを超えてみせるんだから……!)

(こんなとこでリスキーな真似はしねぇ。無難にまっすぐ中心)

「ボール!」


 前の3年間で、ボール球はどうにか見送れるようになってきた。でも、不戦勝は性に合わない。


「ファール!」

「バックネット方向!」

「ファールボールにご注意下さい」


 ……頭にあるのに、やっぱり少しズレる。だけど、ボールの下の方は叩けてる。

 お互いまだ点を取ってない状況で、ランナーもいない。リベンジのために一発を狙うにはちょうど良い場面。


(追い込んだな……なら!)


 ……!しまった!!


「スライダー引っ掛けた!ファースト捕って……」

「アウト!」

「一塁踏んでツーアウト!」


「やっぱりな(レ)」

「ただでさえ外スラはなぁ……」

「今のを見送れないのはほんま苦手なんやなぁ……」


 他の投手なら今の外スラは止まってた。外に流れてるように見えるまっすぐと見せかけて、より外に流れるスライダーをボールゾーンへ……くそッ!


(鹿籠の変化球は単体で見ればそこまででもねぇが、まっすぐとセットなら十分生きる。今日はなるべく鹿籠にイニング喰わせてぇからな。極力まっすぐに『慣れ』を与えずに打ち取れるならそれに越したことはねぇ)


 ……向こうはきっと風刃くんを早く降ろしつつ、鹿籠さんにできるだけ投げさせたいはず。ならまだ次はある。次こそは絶対に……!


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******視点:三条菫子(さんじょうすみれこ)******


 やっぱり一筋縄じゃいかないわね。逢に限らず。

 徳田(とくだ)が四球で出て盗塁も決めたけど、十握(とつか)は外野フライ止まり。


 ……確かに逢は鹿籠と相性最悪。だけど、今の逢が一発を打てるとするなら……


「4回の表、アルバトロスの攻撃。2番ライト、ダーコン。背番号79」


(うーん、向こうは球数稼ぎを徹底する算段ですかねぇ?)

(早めにカーブ解禁したけど、まだ完投は狙えなくもない。球筋に慣れさせないためにも、できることなら早いカウントで打ち損じてもらいたい……)


 バッテリーからしたら粘られたくはないでしょうけど、この打者だけはちょっと警戒した方が良いわね。


(ソイツヲ待ッテタゼ……!)


 あ。


「!!!これは……ああ、ライトもう一歩も動きません!」


「「「「「ぎゃあああああああ!!!」」」」」


「入りましたホームラン!ライトスタンド最上段に飛び込む特大アーチ!!1-0、アルバトロス先制!!!」


(まじっすか……?)

(左ノオレニナルベク球数温存。ナラ狙ウハかったーッテナ……!)


 流石ね。去年20本以上、メジャーでも2桁打ったこともあるスラッガー。パンチ力もさることながら、カットボールを完全に狙ってたわね。

 強力な球種を数多く揃えてて、今みたいなコントロールミスもあんまりない風刃から強引に点を奪うなら、ジャンケンに勝ち続けて連打よりも、一発狙いが確実。もちろんこれだとあまりまとまった点は狙えないけど、今日なら話は別。


「やべぇよ……やべぇよ……」

「先制されてもうた……」

「今年もアカンのか……」


 観客席だけではなく、グラウンドの選手達も苦々しい表情。現状の鹿籠を考えると、今日の1点は本当に重い。


(ッ……!)

「ストライク!バッターアウト!」

「ストライク!バッターアウト!」


「三振ッ!二者連続!!最後は155km/hストレート!!!」


「「「「「おおおおおっっっ!!!」」」」」

「ええでええで風刃!」

「まだ終わってへん!気張れや!!」


(まずはあの風刃くんって子のまっすぐを超えなきゃなぁ……)


 やるじゃない風刃。ダーコン相手に勝負を急いだのは反省点だけど、この空気を変える投球。"エース"としての資質は抜群だわ。

 ……私だってひょっとしたら、あんなふうになれてたかもしれないけどね……


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