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868回敬遠された月出里逢  作者: 夜半野椿
第三章 オーバーダイブ
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第百十六話 2021年4月6日(4/9)

「2回の表、アルバトロスの攻撃。4番サード、真野(まの)。背番号55」


「この回は4番からとなります。先頭打者はプロ4年目の真野。もうすぐ22歳という若い選手ですが、開幕から4番を任され、将来を期待される大砲候補です」


「あー、まだ4番やってたんやな"不戦勝"くん」

「まぁ別に今どき4番の格とか気にせんでええやろ」

「向こうにとっても他に代えがおらんのやろ」


 左打席に立ったその男は、アイブラックが一番印象に残るくらい地味な風貌だけど、身長は180半ばで、引き締まった理想的なアスリート体型。


 真野信伍(まのしんご)は実は(あい)と同年代。つまり、鹿籠葵(こごもりあおい)とドラフト同期の高卒野手ということでもある。

 アルバトロスは昔から慢性的な大砲不足で、その年のドラフトは特にスラッガー候補の獲得に力を入れてた。その代表格がドラ2で指名された鹿籠(こごもり)だったんだけど、他にも念のため、本指名から育成まで何人かを指名した。真野もその内の1人。

 もちろん、当初一番期待されてたのは鹿籠だけど、周知の通り鹿籠はプロに入ってすぐに投手に再転向。だから代わりに、鹿籠に次いで実績があって、若くて体格にも恵まれてる真野がメインの育成対象となり、二軍のスタメンとして積極的に使われるようになった。皮肉にも、鹿籠も真野も同じ左打ちのサードだったから、その点でも補完役としてちょうど良かったってのもあるんでしょうね。

 そういう経緯もあって、ネット界隈とかでは"不戦勝のプロスペクト"っていう不名誉なあだ名を付けられてるんだけど、真野は努力を重ねて2年前に二軍で二冠王。その功績で去年から少しずつ一軍にも顔を見せるようになった。期待されるだけの下地は十分ある。


「センター方向、フラフラっと上がって……」

「オーライ!」

「アウト!」

「センター相模(さがみ)捕りましたワンナウト!この回も先頭打者をキッチリ打ち取りました!」

(くそっ、ほんまにエグいな……!)


 とはいえ、まだまだ一軍では実績不十分。4番に立たせてるのは『将来への投資』という意味合いが強いんでしょうね。風刃(かざと)はそう簡単に打てやしないわ。


「ストライク!バッターアウト!」

「三振ッ!この回も1つ奪いました!」


「「「「「風刃くんカッコイイー!!!」」」」」

(サンキュー!)


 カッコつけてるわねぇ……まぁなかなか良い男ではあるけど。

 ……山口(やまぐち)も今年良い感じだし、女性ファン向けに何か売り出せないかしら?


「6番ファースト、横笛(よこぶえ)。背番号51」


「誰やあのデブネキ!?(驚愕)」

「知らんなぁ……初めて見たわ」

「僕はあれくらいが好きです(半ギレ)」


(だ・れ・が・"デブネキ"や!?)


 小麦色の肌で、ちょっと……というかかなりふくよかな体型の女の子が右打席に立つ。

 横笛美蘭(よこぶえみらん)。風刃と同い年で、去年までずっと二軍だったけど、今年は開幕一軍レギュラーに抜擢。見た目の通りのスラッガーで、おそらく去年二軍でチーム最多のホームランを打ったのが評価された形。


(めっちゃ好みやけど、打たせてもらうで!)

(うーん、胸は秋崎(あきざき)さんよりデカいけど、他もデカいのはなぁ……顔は割と可愛いのに勿体無い)

「打ち上げた!ショート見上げて……」

「アウト!」

「捕りましたスリーアウトチェンジ!風刃、この回も三者凡退!」

(何やねんあの球……あんなキモいカットボール打てるわけないやん……ちょっとは手加減してぇや……)


 まぁ彼女も育成も兼ねて、でしょうね。2人揃ってスイングは鋭いし、慣れてくればもっと数字を上げてくるはず。今日に関しては逆にカモれそうな感じだけど。


 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・


「1番センター、高座(こうざ)。背番号4」


 ゼロ進行のまま3回の表。流石にノーヒットがそう簡単に続くはずもなく、この回はシングル1本打たれて今はツーアウト一塁。

 向こうとしても二巡目。しかも一応ランナーありで、チーム屈指の巧打者の高座。風刃相手にこのまま無策のままでくるとは思えないわね。


「バントの構え……」

「!」

「ボール!」

「しかしバットを引きました!」


(セーフティか……)

(んん〜……流石の鋭利(えいり)くんの守備でも、高座さん相手じゃ上手く決められると刺せないでしょうねぇ。前に沖兎(おきと)さんを刺せたのも、比較的マウンドに近いところに転がしてくれたおかげですしねぇ)


 たまたま外れたのが吉と出るか凶と出るか……


「ボール!」

「ストライーク!」

「ボール!」

「ストライーク!」

「ファール!」

「ファール!」


「これも粘ります!カウントは依然フルカウント!」


「ええでええでアッキー!」

「アッキーマジ万能」

「ほんま妖精にさえならなければ……」


「しつこいわねぇ、あのマニッシュ女……!」

「私は好きです(半ギレ)」

「あら^〜」


 セーフティを見せたのが功を奏したのか、珍しくボール先行。そうなってくると向こうも余裕があるからか、じっくり視てしつこく粘ってくる。

 ……いえ、これがアルバトロスの本来のやり方だったわね。機動力を生かした小技。そして、球威に優れる反面、制球がイマイチな投手が多いヴァルチャーズへのメタを特に意識した待ち球。


(流石にまともに打つのはちょーっと厳しいですけどー、一巡目もツーストライクまでは『見』で我慢しましたからねー。セーフティを見せたのもー、単純に出塁するよりは、少しでも多くの球を引き出すのが優先事項。今日の(あおい)さんならそうそう打たれる心配はないですしー、じっくり確実に詰めさせてもらいますよー)


 単純な打線の破壊力はヴァルチャーズの方が確実に上だけど、向こうは割と早打ち傾向が強いからね。前の試合は向こうが今年初見なのもあって、サクサクイニングを消化できたけど……


(風刃は早めのメジャー挑戦をするとしても、向こう3年は確実にエース格として君臨するであろう逸材。向こうとしても簡単に使い潰したくないのか、高卒3年目なのもあって球数の管理などに気を配ってる。去年リリーフとして一線級の活躍をしてたのにシーズン終盤に二軍で温存したり、前の登板で完投させなかったのがその証拠。制球も決して悪くないのが辛いところだか、タイムリミットがあるのなら勝機はある)


 向こうの監督も、この辺ほんとクレバーなものね。元ヴァルチャーズの選手なだけあるわ。


「ストライク!バッターアウト!」

「最後はカーブ!空振り三振!10球粘りましたが打ち取られてしまいました!」


(うーん、今日こそ完投と思って、カーブは3巡目まで温存するつもりだったんだけどなぁ……)

(ここは致し方なしですねぇ)


 ……ちょっと見誤ったかもしれないわね。ヴァルチャーズをあれだけ楽々抑えられたんならアルバトロスも……って思ってたけど、今の風刃にとっては、むしろこっちの方が厄介かもしれないわね……

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