第百十五話 旋風(4/9)
「「「「「…………」」」」」
試合が進んで、もう4回の表。
開幕からの4連勝が期待されてるこの試合。当然最初の方はこっち側の観客席も賑わってたけど、向こうと比べて明らかに盛り下がり始めてる。
「ストライク!バッターアウト!!」
「外いっぱい151km/h!3球勝負で来ました見逃し三振!!睦門、悔しげに天を仰ぎます!!!」
「「「「「風刃くーん!!!」」」」」
「ああ^〜若手が生えまくりじゃ^〜」
「えいりーんマジエース」
「これ1点でも全然いけるやろ(慢心)」
「このままノーノーかましたれ!」
「これで今日5つ目の三振!ここまで出したランナーはわずか1人!四球1つで被安打0!強力ヴァルチャーズ打線を完全に封殺しています!」
ご覧の有り様だから、仕方ねーよな。状況は中盤で1点ビハインド。初回に立ち上がりの悪さを突かれてちょっと連打を喰らっただけ。普通ならまだまだ全然勝機はある。ただあの投球を見てると、1点が『たかが』とはとても言えねぇ……
常に150を超えてくる上にキレッキレのまっすぐ。相変わらずのカットボール。そして例のフォークに、ツーシームとかの搦手もある。傍目から見てると、打てる球が全然ねーわ……
「3番センター、友枝。背番号9」
ま、それでも打つのがプロの仕事なんだけどな。
「ワンナウトランナーなしで左打席に友枝。第一打席は三振」
「弓弦!どうにか一発たい!」
「こういう時に打ってきたのが友枝弓弦たい!」
「あの小生意気なチビに身の程教えたれ!」
策は変わらねぇ。打てると思ったらとにかく振りにいく。明確に打てる球がねーんだから、ジャンケンに勝つしかねーし、全然ノーコンでもねーから待ってても不利になる一方。
「ストライーク!」
「まっすぐ!空振り!!」
比較的甘め。スピードそのものもお菊の方がもう少し速い……けどさっきのフォークの残像のせいか、紙一重でタイミングが遅れる。
(もう1球!)
もう1球……!
「ファール!」
「バックネットに当たりました!ここもまっすぐ続けていきます!!」
「よかよか!タイミング合ってきた!!」
「次こそスタンドインたい!」
(合わせてきたか……なら!)
もう1球……いや、これは!
「ファール!」
「外!何とかバットに当てました!」
外まっすぐに見せかけてツーシーム……一応当てられたけど、続けられたら自信ねーな……
「ボール!」
「高め!外れました!」
風刃くんは苦笑い。流石に人間だからちょっと力むことくらいあるよなそりゃ。
「ファール!」
「また高め!」
今のは勝負狙ったな……もう少し真ん中寄りなら仕留めてたし、もう少し内寄りなら仕留められてた。
「ワンボールツーストライク、ここでバッテリーは何を選択するか……」
基本的に速い球を動かすか動かさないか、動かすならどの方向に動かすかの択しかないのは不幸中の幸いだな。おかげでタイミングは何とか合わせられる。後は自分との勝負。練り上げてきた期待値の高いスイングを維持できるか……!?
(いただき♪)
しまった……!!!
「ストライク!バッターアウト!!」
「見逃し三振!二者連続!!最後は外に入り込むカーブ!!!」
嘘だろ……?こんなのもあるのかよ……
「ええでええで風刃!」
「あの友枝を2打席続けて簡単に抑えよった……」
「いやぁ、■■さん。いかがですか今のピッチング!?」
「素晴らしいですね。今日初めてここまで粘られて、今まで見せてなかったバックドアのカーブ。もう打てる球がないですよあれは」
全くだな……速い球の択に加えて緩急まで使える。ぶっちゃけ『狙い球絞って振る』っていうありきたりな方法じゃねーとアレは無理だわ……
「センターの前……落ちましたヒット!」
「「「「「おおおおおっっっ!!!」」」」」
「よか!これでノーノーは回避たい!」
「阿呆!そげなことでヴァルチャーズが喜ぶんは女々(めめ)たい!」
次のジュリアがどうにかテキサスヒット打ったけど、多分これじゃ付け焼き刃だな……
「セカンド捕って、一塁へトス……」
「アウト!」
「アウト!スリーアウトチェンジ!風刃、ノーヒットは途切れましたがこの回も無失点!1-0、バニーズのリードが続きます!」
「「「「「あああああ……」」」」」
やっぱりな。
仮に狙い球が当たったとしても、ヒット1本じゃ点はまず無理。あれだけの選択肢の中から正解を選び続けるってだけでもキツイのに、単純に球威もあるからある程度のレベルの打者じゃねーと択が当たったとしてもヒットにならねーってこともある。打ち込む隙があるとするなら、向こうが勝手に崩れた時くらい。
ウチの打線はエース級投手は比較的慣れてて、むしろ変則投手の方が苦手なくらいなんだが、あんなんはもはや例外。下手すると妃房ちゃんとか幾重くんレベルのバケモンかもしれねーな、アレは……
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