第百十五話 旋風(3/9)
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2021ペナントレース バニーズvsヴァルチャーズ
○天王寺三条バニーズ
監督:伊達郁雄
1三 月出里逢[右右]
2二 徳田火織[右左]
3左 十握三四郎[右左]
4指 リリィ・オクスプリング[右両]
5一 サンディ・チョッパー[右右]
6右 松村桐生[左左]
7中 秋崎佳子[右右]
8捕 冬島幸貴[右右]
9遊 宇井朱美[右左]
投 風刃鋭利[右右]
●博多CODEヴァルチャーズ
監督:羽雁明朗
[先発]
1二 沖兎左近[右左]
2遊 睦門爽也[右右]
3中 友枝弓弦[右左]
4指 ジュリアン・ステベンソン[右右]
5一 田所瑠璃子[左左]
6左 ■■■■[右左]
7右 玉木範治[右左]
8三 穂村小町[右右]
9捕 久保正典[右右]
投 ■■■■[左左]
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「ピッチャー、風刃。背番号43」
試合開始前に、両軍のスタメンがアナウンスされる。
今日の向こうの先発は、去年リリーフをやってた風刃くん。確かまだ高卒2、3年目くらいの若い子。去年の開幕の頃とシーズン終盤くらいは姿を見なかったけど、良い球投げてたよなぁ。まっすぐも力があったし、カットボールも150くらい出しててフォークも良かった。球種が少ない分、制球とかがまとまってるお菊って感じのイメージだったが……
「「「「「風刃くーん!!!!!」」」」」
「頼むで"未来のエース"!」
「ああ^〜えいりーんかわええんじゃ^〜」
「誰じゃあのひょろいチビ?」
「覚えとらんか?去年リリーフで投げとった風刃たい」
「向こうにとっちゃホーム開幕戦なのに、氷室や百々(どど)は寄越さんのか」
「確かに去年良い球投げとったが、あの球威を先発で維持するのは厳しかろ」
「ウチのお菊みたいなのがそこら辺にゴロゴロおるわけなか」
「まぁウチは毎年優勝候補なせいでエース級投手ぶつけられまくっとるからな」
「そこいらによくいる、中途半端な右の速球派ならむしろカモたい」
バニーズ側の観客席は主に女の子が盛り上がってるけど、こっち側の反応はイマイチ。
んー、オレらの強さを褒めてくれるのは嬉しいんだけど、他球団相手でもあんまりリスペクトのないことは言ってほしくないなぁ。オレらだって別に常に10割勝てるわけじゃねーんだし。
「1回の表、ヴァルチャーズの攻撃。1番セカンド、沖兎。背番号23」
「バニーズの2021年ホーム開幕戦、ついにプレイボールです。本日のバニーズの先発は高卒3年目にして開幕先発ローテ入りを果たした風刃。ルーキイヤーからチームに将来を期待され、昨シーズンはリリーフとして50試合以上に登板し、JPB史上初の『10代での30ホールド』を果たしました。そしてヴァルチャーズは今日もリードオフヒッターは沖兎。昨シーズンは月出里に次ぐ50盗塁でブレークを果たし、開幕スタメンを勝ち取りました」
「左近どん!」
「今日こそ引っ掻き回せ!」
「バニーズ相手なら稼ぎ時たい!」
左近は前のカードで打ててねーわけじゃねーけど、まだ盗塁0。冬島くんもなかなかやべー肩してるし、盗めるかねぇ?
「昨シーズンのバニーズの対ヴァルチャーズの戦績は5勝17敗2分。対アルバトロスと同様、大きく負け越してしまいました」
「今年もヴァルチャーズは優勝候補筆頭ですからね。いっそのこと他のチームをカモにして勝ち星を重ねるというのも良いかもしれませんが、やっぱり直接勝つ方がゲーム差の面でも有利ですからね。風刃も『俺に任せとけ』くらいの気持ちでしっかり投げてほしいところです」
「さぁまずは1球目……」
……!?
「ッ……!」
「ファール!」
「「「「「おおおおおっっっ!!!」」」」」
「初球まっすぐから入りました!当てられましたが何といきなり152km/h!!」
マジか……
(んー、良い感じだな)
「ストライーク!」
「今度は高め空振り!154km/h!!」
「速いですねぇ……しかも手元でグンと伸びるこの感じ……」
去年と同じく、ちょっとアーム投げっぽい投げ方。リリースまでの動作は全体的に動きがロボットみたいにカクカクした感じなんだけど、動作全体を見ると身体全体を柔らかく使えてるように見えるし、投げた後に跳んで体勢を整える動作も相まって、体操選手のような身体のしなやかさと軽やかさを感じさせる、かなり変わったフォーム。
……確かに投手としてはチビの部類だし、ムキムキって感じでもない。なのにあの出力……
(またまっすぐ……!)
「打ち上げた!ショート見上げて……」
「アウト!」
「捕りましたワンナウト!最後も154km/hまっすぐで押し切りました!」
「正気か!?左近どん!」
「浪花の細腕に撫でられてどん詰まるとは!」
流し打ちでも何でもない、完全な力負け。盗む盗まない以前の問題だったな……
「2番ショート、睦門。背番号6」
「ワンナウトランナーなし、打席には睦門。昨シーズンは故障続きでしたが、少ない出場機会の中、攻守両面でチームを盛り上げ、優勝に貢献しました」
(球威はリリーフん頃がら据え置き……まぁお菊さんもそうだったしそこは不思議でねぇ。フォークもあるし、悠長にやって追い込まれるのはまずいべ)
3番だからネクストで準備しつつ、球筋を確認。
力の面では左近より爽也の方が分がある。向こうも安易な力押しは続けないはずだが……
(いげる……!?)
「引っ掛けた!サード正面!」
「アウト!」
「月出里、軽快に捌いてツーアウト!」
「ええぞええぞえいりーん!」
「3939」
「今の単なる打ち損じか?」
打ち損じじゃねーな。ちょっと手元に食い込んだ。多分シュートかツーシームだな。確か去年は投げてなかった。
(カットボールを活かすために、逆に曲がる速い球をってね。先発やる上でもうちょっと手札増やしておきたかったし)
「3番センター、友枝。背番号9」
「ツーアウトランナーなしで打席にはこの男が入ります。プロ11年目、"球界最強打者"友枝弓弦。昨シーズンは首位打者争いこそ十握・月出里に敗れましたが、自身5度目となるOPSリーグ1位。チームのリーグ優勝にもオリンピック金メダルにも貢献し、2度目のリプMVP。その名に恥じぬ大活躍を魅せました」
「チェスト弓弦!」
「30過ぎてもまだまだ男盛りたい!」
「ランナーなしでも弓弦が打席にいれば常に得点圏ばい!」
ぶっちゃけウチのチームって、1・2番が脚と小技は使えるけどあんまり塁に出ないから結構こういうシチュエーション多いんだよな。そりゃ一発打ちゃ当然点は入るけど、なかなか打点が伸びねーんだよなぁ……
ま、嘆いててもしょうがねーよな。そんなんよりもまずはあのマウンドにいるやべーのに合わせていかねーと。
「ファール!」
「一塁線、切れました!」
去年話題になった、最速150超えのカットボールか。そりゃ今年も使ってくるよなぁ。
(友枝さんは四球も三振も多くて出塁率高めやけど、バッティングはむしろ積極的な方。できるだけ勝負を避けたい相手バッテリー側と、コンタクト率はあんまり高くない友枝さんのスタイルが奇妙に噛み合った結果。勝負するなら『入り』が肝心)
(だからって初回からボール球から入るのは勿体無い、ってね)
「ボール!」
「高めまっすぐ、外れました!しかしこれも154km/h!!」
やっぱ速ぇな……ツーストライクだったら手ぇ出してたかもな。
「ワンボールワンストライク……」
来た、まっすぐ……!?
「ストライーク!」
「落としました!」
「今のはフォークですかね……?」
今の球……
「おいおい、追い込んでからやなかか」
「いくら相手が弓弦やけんって」
「もう使える球がないっちゃなかと?」
いや、んなことねーわ……
「ストライク!バッターアウト!!」
「空振り三振!フォークボール続けました!!」
「ファッ!?」
「弓弦があんな簡単に……」
「あのフォーク、別にそげん落ちとらんとでは……?」
「お菊のと比べたら大したことなか」
「次は打てるやろ」
確かに落差はお菊ほどじゃねーな。でも、そこじゃねーんだよな、あのフォーク……
「これでスリーアウトチェンジ!風刃、初回は三者凡退で上々の立ち上がり!!」
「「「「「風刃!風刃!風刃!風刃!」」」」」
「いや、でもあのペースでイニング喰えるんか……?」
「球数はそんなに使ってへんけど、あの出力じゃなぁ……」
……アイツ、ちょっとクソやばくね?
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