第百十四話 最低条件(4/8)
「4番ファースト、関。背番号3」
「打席には一発のある関。ツーアウトランナーなしですが、一発で同点です」
(さっきの若王子もあれはあれで厄介だったが、個人的にはこういう一発重視のタイプの方が嫌だな。私とてコントロールミスくらいはする。その時のリスクを考えたらな)
さて、関さんにはどう攻めるのか……
(ホームランバッターというものは大抵『ツボ』というものがある。『そこにさえくれば、あるいはそういう球さえくれば、ほぼ確実にスタンドまで放り込める』、というもの。だがホームランバッターはホームランの再現性のために、その『ツボ』がブレることを嫌う。故に、ホームランバッターを攻略できるかはその『ツボ』をいかに避け続けられるか。これに尽きる)
「ストライーク!」
「初球外カーブ!見送りました!」
いきなり緩い球。いや、それも狙いか……
(またか……!)
「ファール!」
「また外カーブ!今度は当ててきました!」
(この打者は基本的に速めの球を打ちにいく。そして外目の球でも逆方向に大きく打ち返せる。ならば最後は……)
(!!!遅いの2つの後に内の速いの……!)
いや、これは……
(ああ、確かに速いのだよ。だが罠だ)
「打ちました!しかし当てただけ!サード捕って……」
「アウト!」
「アウト!落ち着いて捌きましたサード月出里!」
最後にインローに潜り込むツーシームか……確かに関さんは内側の球はあんまりホームランにできないみたいだけど、パンチ力のある打者に抜けると怖い球。こういう結果になると絶対の自信を持ってるからこそできる投球。
「これでスリーアウトチェンジ!8回の裏ビリオンズ三者凡退!バニーズ期待の新戦力イェーガー、デビュー登板から見事な投球!3-2、バニーズのリードが続きます!」
「ええの獲ったわ!」
「サンキュースナイパー!」
「来年ヴァルチャーズとかに行かんとってね(切実)」
イェーガーは日本語はわからないみたいだけど、ファンから歓迎されてるのは伝わってるようで、観客席に手を振って応えつつ悠々とベンチへ戻っていく。
ビリオンズの上位打線相手、それもボール球はわずか2つ。長く投げていけば向こうも慣れてくるだろうけど、ここまでやれるのなら今年中は勝ちパターンの座は安泰だろうね。
「ベリーナイス!イェーガーくん、体調は大丈夫かい?この球場結構冷えるでしょ?」
「サンキュー監督。しかし、そこまで私はヤワではありません。高い給料を頂いてる以上、どんな環境であろうと結果を出すまでです」
まぁボク自身も勉強になった。今年のボクが目指すべきは、きっとああいう投球だろうから。
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「バニーズ、選手の交代をお知らせします。ピッチャー、イェーガーに代わりまして、雨田。ピッチャー、雨田。背番号19」
「ファッ!?今年のクローザーってメガネなんか!!?」
「いや、開幕前に言うとったやん……」
「埴谷も開幕間に合わんかったしなぁ」
クローザーは初めて……でもないな。プロに入ってすぐの紅白戦。あれ以来か。
(今年の投手陣の起用法的に、契約で登板数が限られてるイェーガーくんはクローザーとして固定するよりリリーフとしてフレキシブルに使いたい。エンダーくんとも迷ったけど……)
ボクも最初は驚いたよ。先発ローテは諦めて、せめて一軍でどんな形でも実績を積みたいと思ってたけど、まさかこんな大役に抜擢されるなんてね。
「9回の裏、ビリオンズの攻撃。5番セカンド、赤藤。背番号5」
「さぁ遂に最終回。3-2でバニーズがリード。マウンドにはプロ4年目の雨田。昨シーズンは開幕ローテ入りし、経験を積みましたが、今シーズンはクローザーでの起用となります。1点差でチームの今シーズン1勝目がかかったこの場面。いきなり大きな仕事を任されました」
「赤藤!しっかり見てけよ!」
「ピッチャーノーコンノーコン!」
「自滅誘って逆転サヨナラじゃ!」
……まぁ、そう考えるだろうね。去年でそういう奴っていうイメージが定着しただろうし、春のキャンプの時は去年以上に制球が酷かった。
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