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868回敬遠された月出里逢  作者: 夜半野椿
第三章 オーバーダイブ
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第百十三話 見積もり(6/9)

******視点:雨田司記(あまたしき)******


 2月20日。第5クールの初日で、キャンプももう終盤。バニーズはオープン戦を3月の頭からやるし、その前にも練習試合を連日やるから、この時期にB組に降格したのはかなり不味い。

 けど、降格はボク自身も納得してる。こんな情けない球しか投げれない現状だとね。(はや)る気持ちを抑えて、ベンチに座って多めに投げ込みした肩を癒す。

 ……新しく覚えたナックルカーブも、オフの練習の時はそれなりにちゃんと投げれてたのに、今はどの球種もまるで使い物にならない。旋頭(せどう)コーチに『上半身主導になりすぎてる』って指摘されて確かにその通りだとは思ったけど、風刃(かざと)はあんなアーム投げみたいな投げ方であれだけの球威を生み出して、ボクよりも多くの球種を自在に操ってた。月出里(すだち)ですら初見ではお手上げの成長ぶり。


「くそッ……!」


 情けない。本当に情けない。

 役割は違えど、月出里と猪戸(ししど)はもう球団どころか球界の顔くらいの立場。鹿籠(こごもり)は野手扱いだったのに去年の段階でもうローテ入りして結果を出して。瀬長(せなが)もチームの事情でリリーフをやってるっぽいけど、投手としての格は間違いなくボク以上。

 鳴物入りでプロになって、いきなり鼻っ柱を折られたり悔しい思いもしてきたのに、同い年だけじゃなく年下の連中にも追い抜かれて。こんなところでグズグズしてるわけにはいかないのに。


雨田(あまた)選手」

「……!」


 顔を上げると意外な人物。雇い主の三条菫子(さんじょうすみれこ)


「お隣、よろしいですか?」

「はい……」


 そう言えば1つ年上だから、もう大学を出る頃か。それで時間ができて……

 ……正直に言えば、こんなに(くすぶ)るのならやっぱり大学に行ってからの方が良かったのかな、なんて少し考えてしまう。身勝手な考えだよね。この人はきっと、逆に大学進学やオーナーより……


「先ほどの投げ込み、拝見いたしました。カーブ系の球も投げるようになったんですね?」

「ええ、ナックルカーブです。チェンジアップ以外にも緩急付けつつ三振も狙える球が欲しくて……」

「まぁ目指す方向性は理解できます。詰まるところ、先発として結果を出すためですね?」

「そうです。まっすぐ以外にも信頼できる球を増やして、先発として長いイニングを投げられるようにと。それでこの結果なんですが……」

「私は雨田選手のまっすぐとスライダーを特に評価してます。その2つについては間違いなく私の現役の頃より上です」

「そう言ってもらえるのはありがたい話ですけどね……」


 かつてはあの妃房蜜溜(きぼうみつる)とも肩を並べた天才投手。それだけの人に認めてもらえるのは当然嬉しいけど……


「プロで先発をやっていくんなら、それだけだとどうしても……ボク自身、たとえ本調子の時でも制球はあまり良くないのも自覚してますし」

「そうですね。確かに今の時代、打者のレベルが上がって、投手側も故障覚悟で平均球速を引き上げたり、『豊富な球種』が1つの大きな武器として成立してるのも事実です。多くの投手が妥協して、そういったトレンドに乗らなければならないのが現実です。ですが、『雨田選手もそうしなければならない』という根拠もありません」

「……!」

「それに、私は『雨田選手の制球は悪い』とは全く思いません」

「え……?」

「今回の再調整……梨木(なしき)さんと一緒にやってみませんか?」

「梨木さん、ですか……?」


 確かにB・C組キャンプであちこち回ってるのを見るけど、あの人って別にコーチとかじゃなかったような……


山口(やまぐち)選手や宇井(うい)選手も昨年、梨木さんと調整を行いました」

「……!」

「もちろん、支える側にも向き不向きはあります。ですが、雨田選手が現状抱えてる問題を解決するには梨木さんが適任と考えます。もし行き詰まってるのでしたら、一つ私を信じてくださいませんか?」

「…………」


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