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868回敬遠された月出里逢  作者: 夜半野椿
第三章 オーバーダイブ
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第百十三話 見積もり(5/9)

「セカンド!」

「ファースト!」

「オッケー!」


 シートノック。ショートで受けるのは高卒2年目の宇井(うい)。去年最後の方に試合に出てそれなりに結果を出してたけど、今回のキャンプはA組スタートという厚遇ぶり。しかも未だ降格せず。


「宇井選手には相当期待されてるのですね」

「まぁ見ての通り良い肩してて動きも安定してますし、何よりも……」


相沢(あいざわ)さん!今のどうでしたか!?」

「うーん、今くらいの打球だったらわざわざグラブ出さなくても良かったかもな。お前地肩強いんだし、もっとモーション省いて……こんな感じでな」

「おおっ!なるほどっす!」


「熱心な子ですからね。今の時点での実力云々を評価したというより、A組の上手い選手に囲まれる環境に置いた方が伸びるという判断です。元々体格に恵まれてるんですから、B・C組で地道に下積みさせるよりもね」

「なるほど。良い采配だと思います」


 セカンドに入ってる相沢と守備の話で盛り上がる宇井。逢もショートは十二分にできるけど、私が求めてるのは打つ方だからね。長期的なスパンになれば流石の逢でも守備負担の影響が出るはず。そういう意味でも、相沢が不安定な今、他にショートを任せられる奴がいるのなら私としても望むところ。


「バックバック!」

「オッケー!ナーイス!」


 センター前に抜けた打球を、秋崎(あきざき)が捕ってすぐに矢のようなバックホーム。ほんと上手くなったものだわ。


「こりゃ開幕センターはおっぱいちゃんかなぁ?」

(しずか)たそB組スタートやしなぁ」

「世代交代はしゃーないで。相模(さがみ)辺りも外野メインに戻るかもしれんし」


 ウチの打線はリリィがいないと厚みに欠ける。そしてリリィを起用するには十握(とつか)をレフト……最悪ライトで固定する必要がある。そうなってくると外野で争えるのは二枠。

 ウチの外野陣は一三塁を兼任できるのが揃ってるけど、センターを安定して守れそうなのはあまり多くない。そういう意味でも秋崎は優勢ね。問題は外野相当に打てるかどうか。


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 ブルペンに向かうと、百々(どど)や氷室(ひむろ)風刃(かざと)山口(やまぐち)、奥には敷島(しきしま)埴谷(はにや)……先発ローテ候補が揃い踏み。


「ナイスボール!」


 ……話に聞いてた通り、風刃の球威が際立ってるわね。今年初試合とは言え、(あい)が2打席立ってもまともに打てなかっただけのことはある。去年は球種を絞ってたけど、今年は先発転向を見据えてか、新球種も含めて色々投げてるわね。


「カーブ行きます!」


 ただ、球威では及ばずとも山口の成長も目覚ましい。バッターを打席に立たせてなくても、制球良く投げ込んでるのがはっきりわかる。元々左の速球派らしく荒れ球傾向のある投手だったけど、どの球種も精錬されてるわね。受けてる有川(ありかわ)のキャッチングも相まって、左打者の外側にビタビタに決まってる。


(今年は先発ローテ入りして、伊達さんを胴上げ……しても良いのかな?腰悪くしてるし)

「山口選手は確かB組スタートでしたね?」

「ええ、恵人(けいと)くん本人の志願ですね。最初はB組に帯同してる梨木(なしき)くんと調整したいということで。実力的にはA組で文句なしですよ」

「……そう言えば雨田(あまた)選手を見かけませんわね?確かA組スタートだったはずですが……」

「あ、はい。雨田くんは一昨日からB組で再調整です。結果がどうこうというより、単純に球威の面で本調子ではないですからね」

「そうですか……」


 まっすぐの威力だけなら間違いなくウチで一番の投手。先発ローテ……そうでなくとも勝ちパターンとして計算してたのに。

 この後のB・C組のチェックで現状を見ておきたいわね。


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「お久しぶりです、旋頭(せどう)さん」

「ええ。明けましておめでとうございます」


 B・C組キャンプのブルペンに入ると旋頭の姿。旋頭は去年いっぱいで二軍監督と投手コーチを退任。去年は伊達(だて)監督の1年目ということでどうにか引き留めたけど、元々プロの現場で指導者をやるのは消極的で、『(やなぎ)監督を支える』っていう名目だったしね。

 その代わり、今回のキャンプでは臨時コーチとして参加。組を問わず、投手陣を全体的に見てもらってる形。


「っと!」

「す、すみません!」


 大暴投を詫びる雨田。制球はもちろんのこと、スピードも明らかにイマイチ。まっすぐに縦横のスライダー、チェンジアップ、カットボール、それに新球種であろうカーブっぽい球と、色々投げてはいるけど……


「……確かに本調子ではありませんね」

「雨田のことですか?」

「ええ……」

「これでも一応はマシになったんですけどね。『自分は速い球を投げられるとわかってるからこそ上半身の力に頼りすぎてる』とか教えて」

「そうですね。確かに全身を使おうという意識は見えますが……」

「再現すべき動作を身体が忘れてしまってる……とでも言うべきですかね?」

「そうですね。精錬されたフォームから安定して強い球を投げ続けられるのが雨田選手の持ち味のはずですから」


 ……しょうがないわね。


「梨木さんは今どちらに?」

「……?おそらくグラウンドですね」

「ありがとうございます」


 あんまり越権行為はすべきじゃないけど、今年は優勝がかかってるから四の五の言ってられないわね。


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