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868回敬遠された月出里逢  作者: 夜半野椿
第三章 オーバーダイブ
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第百十三話 見積もり(1/9)

******視点:三条菫子(さんじょうすみれこ)******


 優輝(ゆうき)の一件でひと段落ついた頃。お父様の予定が空いて、久々に実家から呼び出しを喰らう。


「やってくれたな、菫子(すみれこ)


 内容はもちろん、例の新ユニフォームのお披露目。20年以上負け続けてて、今も2年連続最下位真っ最中のバニーズが急に来年優勝すると大々的に広めたこと。球団では三条(さんじょう)財閥を代表する立場の私がね。


「独断専行に関しては謝罪いたしますが、発言の内容について撤回するつもりはございません。私は来年度のバニーズは優勝するに十分に足るチームとなることを確信しております」

「……優勝をチラつかせて客を呼ぶならシャークス辺りのやり方を見習え。もっとソフトにして、逃げ場を作らずにどうする?」

「勝つのにわざわざ逃げの算段など不要です」

「リスクヘッジも必要なコストの内だ。非現実的な目標を立てるのならな」

「稼げる時に稼がねば儲けなど出ません。常に黒を出し続けるなど理想でしかありません。長期的に見て、黒と赤のトータルで黒を出すのがそれこそ現実的ではありませんか?」

「……まぁ、こうなったからには来年度の予算を奮発せざるを得んのが本音だ。だが、そこまで言って失敗したらどうなるかもわかっているな?」

「もちろんです」


 とりあえず、最低限の準備はクリアできそうね。でかいリスクを背負ったのも確かだけど。


「菫子。お前の働きについて、月出里逢(すだちあい)を発掘し『収益化』したことは評価している。全体の収益が彼女を含めても(かんば)しくないあの球団への執着はないが、彼女個人を手放すのは惜しいと私も考えている。だがあれだけ傑出した実力者だ。今の時代なら、メジャーへ挑戦したり、そうでなくとも国内へのFAは考えられることだろう?」

「……彼女の性格的に国内FAはないはずですが、メジャー挑戦は……そうですね」


 いつか私自身が望むことになるでしょうね。『史上最強』ってやつを証明するためにも。


「ならば確かに、稼げる時に稼いでおかねばな。そのためにも、来年度の最低目標は『Aランクかつ首位とのゲーム差5以内』。できなければ来年度いっぱいでバニーズは足切り。来年の内にそれすら叶わないのなら、いずれ出ていく見込みの強い彼女を擁していても球団全体を収益化するのは難しかろう?」

(おっしゃ)る通りですわね」


 いつもそう。何でもかんでも『金が成るか』でしか考えない。私がプロになるために野球に打ち込んでた時も、生涯収入とか持ち出してきて……あの最低目標だって温情じゃない。本当にその程度だと値踏みしてるから。(あい)以外にも有望なのはいくらでもいるってのに。


 見てなさいよバカ親父。アンタの見積もりの甘さを証明してやるんだから。


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******視点:月出里逢(すだちあい)******


 早くも年が明けて、2021年の1月31日。先輩選手の野球教室を手伝ったり、母校で練習をしたり、メスゴリラ師匠や佳子(よしこ)ちゃん達と自主トレしたり色々あったけど、まぁその辺は毎年あんまり変わり映えのないこと。

 明日からは恒例の宮崎で春季キャンプ。優輝(ゆうき)は学校通いもあるから、キャンプには不参加。あたしとしてもいきなりそんな実戦に即した練習をする気もないしね。


「逢……!」


 今日は折りしも日曜日でちょうど良い。丸々1ヶ月離れ離れだから、今の内に優輝の部屋でやることを済ませとく。


「はぁ……はぁ……」


 うつ伏せのあたしに優輝がそのまま乗っかって、耳に吐息が繰り返しかかる。

 あたしはまだまだ余裕だけど、今日はここまで。あんまりしすぎると明日以降に響くかもだし、タ■ちゃんお預けしてる間に枯れちゃうかもだし。


「そろそろ戻るね」

「うん。気をつけてね」

「あたしがいない間、頭の中でもあたし以外としちゃダメだよ?ケケケケケ……」

「うぇっ!?は、はい……」


 シャワーを浴びて、寮に戻る準備。

 高校を出てまだこれから4年目ってとこだけど、契約更改の時に優輝との生活もあるから特例で寮を出ても良いって言われた。でも断った。家賃諸々をケチるためってのは否定しないけど、それ以上に分別は付けたいからね。結構稼げるようになったけど、思い立ってすぐにしっかりとした練習のできる寮生活と釣り合う環境を用意できるほどでもないし。

 結果を出して稼げるようになって、『独り立ちしても真面目にやっていける』ってあたしを買ってくれてるんだろうけど、あたしだって人間。しんどいことより気持ち良いことを望むのは当然。


「優輝……」


 火織(かおり)さんと同じ轍を踏まないように、玄関に降りる前に唇を重ねる。優輝の左手を握ると、人肌とは別に金属の感触がほのかに。


「忘れてた」


 周りから勘繰られないように、外に出る前にあたしの左手薬指にもある指輪を外して、チェーンを通して首から提げる。優輝もそれを見て同じように。

 まだまだ離れ離れで暮らすとしても、これがあたし達が繋がってる証。よくホームランバッターがやってる、ダイヤモンドを回ってる時に首から提げた指輪にキスするパフォーマンス。アレをいつかやろうっていう自分への煽りでもある。


 ……今年こそ一発打ちたいなぁ。


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