第百十二話 タ■ちゃん作りたいの?(2/5)
「「お取り込み中失礼しまーす♪」」
「「「「「……!!?」」」」」
覚悟を決めたまさにその時、扉の方から女の声。
「「がっ……!!?」」
「ぐっ……!」
「グエッ……」
次の瞬間、撮影してた黒服、さらには颯喜と大男が次々と倒れていった。おれ以外にこの場で立ってるのは、背丈も髪型もそっくりな2人の女だけ。
「この変態モッコリ野郎が。あたしの男に気色悪ィことしやがって。あたしにゃ佳子ちゃんみてぇな趣味はねぇんだよ。テメェが優輝んちの次男坊か?ああ?」
「ヒッ……!?い、いえ、次男坊はそっちです!」
大男を倒した方の女はそのまま尻を踏みつけて、ものすごい形相で睨みつけてる。
「逢……それに牡丹さん?」
「んっふっふ……お待たせしました、王子様」
「て、テメェら……どうやってここに入ってきやがった……!?外には念の為、俺の駒全部揃えてたってのに……!」
「逢、外の連中何人やった?あたしは29」
「……21。まだまだお母さんには敵わないね……」
えぇ……
「な……!?俺の駒は全員、空手か柔道の黒帯持ちだぞ……!!?夜中に送ったチンピラと違って、マル暴上がりにインターハイ王者だって揃えて……」
「帯が白かろうが黒かろうが、素人50人程度であたし等をどうにかできると思わないことねぇ」
おれも喧嘩は嫌いながら弱くはないはずなんだけど、逢達は何か次元が違うね……見た感じ2人とも怪我1つなくピンピンしてる。
颯喜の護衛の数と質は知ってた。すみちゃんのところと本格的にぶつかり合ったらそれこそ大規模な抗争になって三条財閥の社会的信頼に響くし、逢達の安全も考えてこうやってケジメをつけにきたわけだけど、もしかして取り越し苦労だった……?
「逢、これ」
「あっ、テメェ……!!!」
牡丹さんが颯喜の懐をまさぐって取り出した物を逢に投げて渡す。逢はおれに近づいて、受け取った鍵でおれの手足の枷を外す。
「優輝……」
「逢……」
逢は険しい顔のまま、おれの方をじっと見つめて……
「バカ!勝手なことして!!」
急に涙を浮かべて、おれに抱きつく。
「『あたしが救う』って言ったじゃん……!」
「ごめん、本当にごめん……」
そうだよね。結局は逢のその言葉を信じきれてなかったからこんなことに……
「……!!?」
「あら、早速おでましみたいね」
「すみちゃんが通報してくれたのかな?」
外からサイレンの音。
「颯喜」
「あん?」
「終わり、みたいだね」
「……おかしいかよ?」
「虚しいだけだよ」
結局は誰のためにもならない喧嘩だったんだからね。
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******視点:月出里逢******
11月1日。優輝を変態どもから救い出した次の日。
昨日はバカ次男坊が逮捕されたのは良いんだけど、あたしとお母さんも警察にガッツリ怒られたりでクッソ忙しくて、どこぞのRPGみたいに救い出した王子様と『ゆうべはおたのしみでしたね』な展開にはならず。
……ま、優輝とお母さんが何事もなかったんだからそれで十分なんだけど。
「ここ……?」
「そうよ」
そして今日はあたしと優輝、さらにすみちゃんの3人で東京の方へ。
もちろん観光とかじゃない。優輝の一家が経営してるっていう卯花商事のビル。東京のオフィス街に高々と君臨してる。あたしの身近な人はどうも格差が大きすぎる。あたしだって億稼ぐようになれたけど……
「11時に面会のお約束を頂いている三条と申します。卯花部長はいらっしゃいますでしょうか?」
「はい。お待ちしておりました。応接室までご案内いたします」
受付の人に案内してもらって、3人揃ってエレベーターに乗る。
「……何で目を瞑ってるの?」
「い、いや……」
何でこういうとこのエレベーターってどれもこれも外がガッツリ見えるんだよ?オシャレ気取りかよ。高いとこ嫌いなあたしにとっては嫌がらせ以外の何者でもないし。
「……!」
手が包まれる感触。片目だけ開けて確認すると、優輝の手。
(大丈夫)
……今年に入ってからビジターの時は優輝は大阪に残るけど、飛行機に乗る時はこうしてくれてたよね。
ほんと、救えてよかった。




