第百十二話 タ■ちゃん作りたいの?(1/5)
******視点:???******
我が卯花商事の"豚"どもの勤務形態は基本的に平日勤務。ただ、業務内容や繁忙期など、場合によっては土日勤務も当然ある。土曜日の今日もまばらながら、"豚"どもがオフィスのそこかしこで手を動かしてる。
「あ、本部長!おはようございます!」
出かける前に作業内容を見て回ってると、"豚"どもからの挨拶。
「おはようございます。本日もお疲れ様です。お子さんの様子はどうですか?」
「おかげさまで昨日から保育園にまた連れて行けるようになりました!」
「それなら何よりです。これからも何かあったら遠慮なく仰ってください。最悪私の方でフォローしますからね」
「ありがとうございます!」
「いえいえ。我が社のモットーは『従業員第一』ですから。お仕事もお母さんも、これからも頑張ってくださいね」
……本当は『豚もおだてりゃ木に登る』、ってな。
「あの、本部長。すみません。この資料の作り方なんですが……」
「ああ、それならこの関数を使って……」
「おお……!ありがとうございます!!」
「いえいえ。もしわからないことがあったら、こういったサイトを利用すれば便利ですよ」
俺の倍くらいは歳喰ってるくせに、表計算ソフトすらロクに使えない"豚"。こんなもん俺に聞いてんじゃねぇよ。検索するなり直属の上司に聞くなりで一発だろうが。
だがまぁ仕方ねぇよな。"使えねぇ豚"を"ちょっとは使える豚"くらいにするのも俺らの務め。
「いやぁ、本当に頼りになるよなぁ本部長」
「あれでまだ20代なんだよなぁ……」
「流石は次期社長候補筆頭」
「確か本部長って社長の次男だっけ?」
「長男の常務も仕事はできるけど、やっぱり今の時代に舵を取るなら本部長だよなぁ」
「あたしこの前も土日出勤だったんだけど、その時のメンバー全員、仕事が終わった後に本部長の奢りで飲みに行ったわ」
「出来る男は違うわよねぇ」
民主主義の世の中じゃ、"豚"の機嫌取りも必要不可欠。このまま家督争いを勝ち抜いて、社長の座を手に入れた後のための根回しだと考えれば悪くない。いずれは政界に進出して時の総理に……なぁんてなぁ。
……そうこうしてる間に着信。
「颯喜様。優輝様を所定の場所へお連れいたしました」
「アイツも呼んだな?」
「はい。すでに到着しております」
「よし。車を用意しろ」
「かしこまりました」
ようやくあのクソ野郎を潰せる。そこら辺の女を抱くよりよっぽど股ぐらがいきり勃つぜ。ヒヒヒヒヒ……!
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******視点:卯花優輝******
「よう、クソ野郎」
「颯喜……」
もう目隠しは外されてるから、颯喜の憎たらしい表情はわかる。だけどここまでの道中は全くわからないから、『屋内の薄暗い場所』ってことしかわからない。そして手足も縛られて、立った状態で鎖に繋がれてるから、今更逃げ出すことも、一発ぶん殴ってやることもできやしない。
「それで、『男を捨てる』って具体的に何だよ……?」
「ああ、そうだな。教えてやる。おい、入って良いぞ」
「……!?」
重そうな扉が開いて最初に入ってきたのは、ジョックストラップだけ身に付けた大男。意外と顔立ちは整ってて、体型も筋肉質で体毛もしっかり処理してるけど、おれの方を見て不気味に笑い続けてる。
それから、テレビ局で使ってるようなカメラを転がしてたり、大きいミラーを担いでる黒服も……
「ふひぃーっ……写真で見た通り……いや、それ以上に可愛いなぁ……ぐひひひひ……」
「コイツは俺の友達の中でもとびっきりの変態でなぁ?医大の頃は6年間ずっと学年トップのエリートで、今は肛門科医。見た目もこの通りだから女には困らねぇくせに、テメェみたいなのの方が断然いけるクチなんだってよ」
「……それで?」
「わからねぇか?簡単な話だよ。コイツに抱かれてメスになれ」
「!!!」
「撮影の準備もバッチリ。動画は世界中にばら撒いてやるから、コイツに耕されながらカメラに向かって宣言しろ。『女を抱いたり、家督や遺産なんかよりも、同じ男に抱いて欲しい』ってな。そうすりゃお前は社会的に卯花の男として終わりだ」
「…………」
「親父やジジィと違って、命までは取らないでいてやるんだぜ?優しいお兄様に感謝するんだなぁ?ヒヒヒヒヒ……!」
「ゲスが……!何でそこまでおれのこと……」
「…………」
「"妾の産んだ末っ子"……お前の言うところの"雑種"なんて、取るに足らないだろ?」
「……"雑種"だからだよ」
「……!!!」
そう言って、颯喜はおれの顔を手で掴みながら顔を近づける。
「"雑種"のくせに綺麗に綺麗に産まれやがって。あの端女そっくりじゃねぇか。DNA鑑定しねぇと実子だとわからなかったくらい、親父にまるで似てねぇ。俺らは揃いも揃って親父に似たのになぁ……」
「お前は中身も父さんそっくりだよね」
「ああそうだよ。俺は親父の生き写し、"人の上に立つ資質しかねぇ屑"だよ。親父の後を継げなきゃ産まれてきた意味すらねぇし、テメェと違って地位と金がなきゃ女もロクに寄り付きやしねぇ。テメェは"豚"の仕事しかできねぇ"雑種"のくせに、あんな美女捕まえてなぁ……」
「…………」
「俺ら4人は『よーいドン』の順番が違うだけで他は全部同じで産まれてきた。後から産まれた奴が単純に不利になるだけ。俺だって元は単なる"長男坊のスペア"。だからこそ勝つためにゃ汚ぇ真似もしなきゃならねぇってのに、テメェだけは別のもんを持って産まれた。なのにテメェは良い子ちゃんぶって自ら"負け犬"に成り下がりながら、俺らの争いを嗤った。俺らからすりゃ、クラスカースト上位の奴が陰キャに親切にして、それで自分の株を上げたり引き立て役にしてるのと同じようなもんだ。テメェは存在そのものが、俺らの尊厳を踏み躙ってんだよ」
「だから許せない……ってこと?」
「そういうこった。テメェにゃ『殺す』なんて一瞬の苦しみしか味わわせられねぇことじゃ気が済まねぇ。生かして、テメェの尊厳をことごとく殺す。産まれてきたことの何もかもを否定してやる」
……ほんと、人間として最低過ぎる……
「おいおい颯喜ィ?あんまり乱暴なことはするなよ?こんな美少年、滅多に抱けねぇんだからよォ……」
「おう、悪ィな。思う存分楽しんでくれや。ヒヒヒヒヒ……」
「はぁ……優輝くん……優輝くん……!」
大男はおれの背後に回って、おれの頬を舐め回しながら、おれの身体をまさぐって、身体を密着させる。早速カメラが回されて、背中には熱くて硬い湿った感触。
「このスティックピアスは趣味なのかな?セクシーで似合ってるよ」
耳元も舐められて、舌がおれの口元にもやってくるけど、歯を食いしばって口の中への侵入はどうにか阻止する。
「優輝くん、意外と鍛えてるねぇ……お腹もしっかり割れてて……」
「俺らは護身のために色々習わされたからな。コイツも一応空手と柔道と剣道の有段者だ。縛ってはいるが油断するなよ?」
「良いね良いねぇ。男らしくて却って興奮する」
「俺にゃ理解できねぇなぁ、同じ男ってのは……」
「同じ男だから良いんだよ。女は所詮、遺伝子レベルで別の生き物。『繁殖』という相互利益のために人間って種として繋がってるだけ。上も下もねぇ。『誰かの上に立てる』って自己肯定があって初めて男は心身共に勃つんだからなぁ。その誰かが上等であればあるほど優越感を覚えるのは当然。こんな綺麗な顔して、しかも良いとこのお坊ちゃん。おまけに上玉の彼女持ち。こんな上等なオスをこの手でメスに堕として、遺伝子残す権利を放棄させられるとかマジ勃起もんだろ?」
「……まぁ上下云々ってのはわからなくもねぇな」
「んッ……!」
やってることも言ってることも何もかも怖気が走るけど、人間の身体は思ったより単純な構造。おれの嗜好とかに関係なく、直接的に刺激を与えられてつい反応してしまう。
「ほーう……俺のより大きいねぇ、優輝くん」
「萎えたか?」
「全然。むしろ最高。こんな立派なもん持ってるのに、無駄撃ちしかできなくなるんだぜ?女を抱くのに特化した機能を台無しにできるんだぜ?征服欲クッソ掻き立てられるわ」
「……颯喜」
「あん?」
「『類は友を呼ぶ』って本当なんだね」
「……減らず口も大概にしろや?昔はもっと大人しかっただろうが?」
こんなふうに言えるようになったのは、きっと逢のおかげ。本当にありがとう。
「おい。サカるんならまずはこっちにケツ向けろ。コイツがメスになる瞬間をバッチリ残してやるぜ。ヒヒヒヒヒ……」
「初めてなのにほぐさなくてゴメンね優輝くぅん?でももう我慢できねぇんだわ。それに、優輝くんの痛がって泣いてる顔が見たいんだよねぇ……この綺麗な顔がどんなふうに歪むのか……」
「ヒヒヒ……やったれやったれ。腹ン中までズタズタにして、一生血便垂れ流しにしてやれや」
たとえ本当にコイツらの言う通りになっても、逢と一緒に過ごせた日々を、おれは絶対に忘れないよ。




