第百十一話 背負うもの(5/6)
******視点:月出里逢******
「zzz……」
「お姉ちゃん!」
「はわっ!!?ゆ、結……どうしたの?」
今日は朝早かったし、夜に不審者がまた入ってくるかもと思って、優輝がコンビニに行ってる間に自分の部屋で昼寝してると、突然結が部屋に入ってきた。
「優輝さんが……優輝さんが……」
「落ち着いて。優輝がどうしたの?」
「これ……」
「?」
結が渡してきたのは封筒。開けると、中に便箋が1枚だけ入ってる。
「……!」
『逢。おれを好きになってくれてありがとう。おれを認めてくれてありがとう。今日までおれを守ってくれてありがとう。おれも逢以上に好きになった人はいません。逢の何もかもを愛おしく思っています。逢と結婚して、子供も作って、逢の家族のようになりたいと今でも思っています。でもこれ以上、逢とその家族、そしてすみちゃんにも迷惑はかけられません。逢を誰よりも愛する以上、逢を不幸にすることは絶対にできません。今回の件についてはおれが何とかします。おれの家のことだから当然です。こんな厄介者のことは忘れて、もっと良い相手を見つけて幸せになってください。そしてすみちゃんの願うように"史上最強のスラッガー"になれることを信じています。そんな逢の打撃投手として力になれたことは、おれの一生の誇りです。さようなら』
これ、優輝の字……
「優輝はどこ行ったの!?」
「わ、わからない……さっき車庫でタマと遊んでる時に優輝さんが来たんだけど……」
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「結ちゃん、ちょっと良いかな?」
「……?どうしました……!?」
「本当にごめん!!!」
「え?何がですか……?」
「今朝のこと……ほんとに怖い思いをさせて……」
「い、いや……優輝さんは関係ないことじゃ……」
「……夜中に家に入ってきたあの不審者、おれの兄が仕向けたものなんだよ……」
「え……?」
「さっきみんなにも話したように、おれの家では家督争いが起こってて……結ちゃんを襲ったのも、おれが逢と繋がってるから。それに、おれだけじゃなくて逢を狙ってる奴もいて……深夜の件は、多分結ちゃんを攫って人質に取ることで逢を手に入れようとしたんだと思う」
「そんな……」
「……でも、もう大丈夫だから」
「?」
「これ、逢に渡してくれるかな?」
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「…………」
「追っかけたんだけど、もう姿がなくて……」
……そういうことだったんだね。だから今回のことであたしについて来て……
「……馬鹿野郎が」
「!?」
去年、柳監督が死ぬ前。恋人になった日に言ったじゃん。『あたしが救う』って。プロ野球選手として地に足がついて、お金も十分稼げるようになったんだから、もうあの約束だって果たせるじゃん。だから家族への挨拶だってしたのに……
なのに、カッコつけちゃって……
「……?お姉ちゃん?」
スマホを取り出して、優輝の番号に電話……着信拒否。CODEの方も……やっぱりブロックされてる。
じゃあやっぱり、あの人に頼るしかないよね。
「……もしもし」
「どうしたの、逢?」
「ごめんね、すみちゃん。お休み中なのに。今話せる?」
「ええ、大丈夫だけど……」
「優輝の居場所、見つけられる?」
「……何かあったの?」
「あたしと優輝があたしの実家に戻ってるって話は優輝から聞いてるよね?」
「ええ」
「ウチの実家を襲ったの、優輝のバカ兄貴のどれかみたい」
「……!なるほど、まぁやりそうなのは心当たりがあるわね」
「ついでにその心当たりも教えてくれる?」
「ぶっちゃけ優輝の兄は4人とも大なり小なり黒い部分があるけど、ここまで直接的なことをするのはおそらく次男坊でしょうね」
「どんな人?」
「商売の上ではすこぶる優秀な人間。能力だけで見れば卯花家次期当主の筆頭候補。ただし、それ以外は最低の男。女癖も悪くて、私も粉かけられたことあるわ」
「ケジメをつけるためにその最低野郎のとこに1人で行ったっぽいんだよね、優輝」
「……なるほど、それで場所が知りたいと」
「前にすみちゃん……というか優輝が攫われた時、GPS仕込んでたとか言ってたでしょ?」
「ええ。元々優輝を保護した時点でその辺の懸念があったからスマホにGPS入れてたけど、その誘拐騒ぎがあっていつも優輝が付けてるスティックピアスにもチップを仕込んだわ。普通のGPSと比べて発信が弱いから正確な場所を特定するのは難しいけど、大体の場所がわかればその付近で密会ができそうな場所を絞れると思うわ」
「案内してくれる?」
「……もしかして、自ら殴り込みに行くつもり?ダメよ。立場を考えなさい」
「優輝の実家の跡取り騒ぎ、下手すると死人が出るんでしょ?悠長に警察とかに頼ってられないよ」
「でも……」
「心配しなくても、あたしより強い人にも協力してもらうつもりだから」
「そんな人間いるの?」
「ごく身近にね」
「……まぁ、時間がないのは事実ね。だけど、無理はしないでね?私の方でも全速力で人を遣すから」
「大丈夫。ウチの"ピーチ王子"はウチで救うから」
「"ピーチ王子"……?髪の毛ピンクだから?」
「今回はセルフだけど、すぐ攫われるから」
「言い得て妙ね」
「それじゃ、行ってくるね」
「絶対無事でいなさいよ?」
「もちろん……ありがと」
電話を切って、すぐ1階に降りる。結も慌ててあたしを追っかける。
リビングではお父さんとお母さん、純がテレビを観てる最中。
「お母さん!」
「ん?どうしたの?」
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