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868回敬遠された月出里逢  作者: 夜半野椿
第三章 オーバーダイブ
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第百十一話 背負うもの(2/6)

******視点:卯花優輝(うのはなゆうき)******


「……んにゃ?」


 スマホの着信音。同じベッドで一緒に寝てた(あい)とほぼ同時に目を覚ます。

 10月30日……いや、今は4時で日を跨いだから31日。ドラフト会議から5日後の土曜日。


「あたしのだ……誰だろ?もしもし?……はい。はい……」


 枕元で騒ぎ続けるスマホを取って、寝ぼけ眼で不機嫌に相槌を打つ逢。寝る直前まで色々やってたから、お互いにパンツ1枚。


「……え?」


 急に逢の目が見開く。


「わかりました……」


 逢は見開いた目のまま通話を切って、しばらくスマホの画面をじっと観続ける。


優輝(ゆうき)

「うぇっ!?ど、どうしたの……?」

「今から実家に戻る」

「え……?」

「向こうの警察から電話があって、さっき実家に不審者が入ったって……」

「うぇっ!!?」

「捕まりはしたんだけど、入ったとこが妹の部屋だったみたいで……今家族揃って病院に行ってるって……」

「……!わかった。おれも行くよ」

「良いの?優輝は平日学校あるでしょ?」

「それだって逢のためのことでしょ?おれが新幹線のチケット取ったり、すみちゃんに連絡したりしとくから、逢はその間に落ち着いて、向こうに行く準備をして」

「……ありがと」


 嫌な予感がするしね。何というか、他人事じゃない気がして……


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 天王寺から始発の地下鉄で新大阪、新大阪から新幹線で東京。そして今は東京から深谷までの電車に乗ってる最中。


「…………」


 土曜日な上にこの時間帯に東京から下りだから、電車も空いてる。そんな中で、逢はここまでの道中で座れる時はずっと、祈るように俯いてる。

 そりゃそうだよね。確か逢の妹さんは8つ下だから、多分中1くらい。『捕まった』って話だけど、真夜中の家に不審者って聞いたら、そりゃ悪い方に考えるのは当然。

 ……普通の兄弟姉妹ならこうなるよね。普通なら。


「深谷、深谷です」

「……!逢、着いたよ」

「!!!うん……」


 車内アナウンスにも気付かない逢の肩を揺さぶって、到着を告げる。乗り換えのたびにこんな感じ。


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 ・


 深谷駅から少し離れた救急病院。


「お姉ちゃん!」

(ゆい)!」


 入って早々、逢とよく似た顔の小さい女の子が逢に抱きつく。一応無事だったみたいだけど……


「何もされなかった?」

「うん、あたしは大丈夫。でも怖かった……」


 妹さんは見た感じ、手に包帯を巻いてるだけ。服も血だらけではあるけど、破られたりはしてないし、足を引きずったりとかそんな様子もない。何か想像してたよりも遥かに無事。


「早かったわね」


 受付の方まで進むと、これまた逢とそっくりな女の人と、おれと同じくらいの体格で整った顔の男の人、それからやたら筋肉質で腕組みしてる男の人の3人組が椅子に座ってる。それと、ちょっと距離を取って警察の人っぽいのが1人立ってる。


「姉ちゃん、この人は……?」

「今度連れてくる予定だった彼氏」

「コイツが……」

「は、初めまして!卯花優輝(うのはなゆうき)です!(あい)さんにはいつもお世話になってます!」


 確かに今度逢の家族と顔を合わせるって話だったけど、まさかこんな形で……


「あの、皆さんご無事だったんですか……?」

「ん?ああ、大丈夫よ。結の拳の皮がちょっとめくれた程度」

「え……?」

「警部!犯人(ホシ)が2人共目を覚ましました!」

「む……月出里(すだち)さん、少し行ってきますのでそのままお待ち下さい」

「はい」


 目を覚ました……?


「結が怪我したからついでで来たけど、メインのお客さんは不審者さん達の方よ」

「うぇっ!?」


 警察の人達が病室の方に向かってるのを眺めてると、いつの間にか逢に似た女の人……もしかして逢のお母さん?が近づいてきてた。やたら顔が近い。匂いも含めて何もかも逢にそっくり。


「家に防犯システム入れといて良かったわ。窓を割って入ろうとしたところでサイレンが鳴ったみたいで、それで結が起きたのよ。でも不審者さん達、やぶれかぶれになったのか結を襲ったみたいだけど、あたし達が駆けつけた頃には部屋が血の海になってたわ」

「えぇ……」

「もう、お母さん!ほんとに怖かったんだから!」

「というわけでご心配なく。ウチの人間は素人の男2人くらいどうってことないから」

「あ、はい……」


 こんなおとなしそうな子が……さすがは逢の妹というか……


「結、その人達生きてるんだよね?」

「多分……」

「あの感じだと全治半年ってとこかしらねぇ?」

「良かった。結が前科者になってないかずっと心配で……」


 え、そっち?


「ちなみに玉は潰した?」

「い……いや、そこまでは……」

「そういうクソ野郎はそれくらいしなきゃダメだよ?それくらいなら『正当防衛』って言い張れば良いんだから」


 警察も来てるからか、こっそりとんでもないことを妹に忠告する逢。前におれが攫われた時もそうしてたよね……ほんと逢は……


「……それで、君はどうしてここに?」

「うぇっ!?えっと、逢の付き添いで……」


 筋肉質な男の人が沈黙を破って、座って腕組みをしたまま急に話しかけてきた。


「優輝のおかげで乗り過ごさずに(ちょく)でここまで来れたんだよ、お父さん」

「そうか……」


 あ、やっぱりお父さんだったんだ……


「月出里さん」

「はい」


 病室から戻ってきた警察の人達が逢のお父さんに話しかける。


「例の2名が目を覚ましたんですが、なかなか口を割らない状況で、今日中の聴取は難しそうです。なので今日はもうお帰りになって頂いて結構です」

「そうですか……」

「すみません、長い間お時間頂いて。ご協力感謝いたします。お嬢さんの部屋は現場検証のため立ち入らないようにお願いします。窓はそのままになってしまいますが、今日中に検証を済ませて周辺のパトロールも強化しますのでご安心下さい。それと、また後日も署までお越し頂くかと思いますが、その時はまたよろしくお願いいたします」

「はい。それではこれで」


 ……『口を割らない』。単に妹さん狙いの変質者じゃないっぽい。となるとやっぱり……


「優輝くんと言ったね?わざわざここまで来てくれたんだ。とりあえずこのままウチに来なさい」

「は、はい!ありがとうございます……」


 逢達と一緒に病院から出る。


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