第百十一話 背負うもの(1/6)
******視点:月出里逢******
すっかり時が流れて、もうすぐ11月。今夜はドラフト会議もある。そんな今日もサンジョーフィールドで自由参加の練習。
今年のバニーズは秋季キャンプこそやらないけど、選手それぞれ契約更改が終わるまではとりあえず大阪に残って練習したり身体を休めたり。
あたしの番はまだだけど、事前交渉で額面はもう決まってる。ただ、遂に億超えだから、正式な発表は12月頭になる予定で、記者会見も結構大々的にやるって話。それまでにもどうしても外せないテレビの仕事とか取材とかもある。帰省もその辺が全部片付いてから。めんどくせぇ。
「オッケーイ!」
「おおーっ……」
ショートでのノック、自慢の肩を披露して唸ってくれたのは朱美ちゃん。
「朱美ちゃん、契約更改もう終わったんだよね?」
通例的に契約更改は二軍の選手や若い選手が先。一応ファン感謝祭も11月末にあるからどのみち大阪に戻る必要はあるけど、期間的に一旦帰省することもできる。
「はい!でもせっかくの自由参加っすからね!今年一軍でちょっとだけやれましたけど、立場的に春のキャンプで逢さんと一緒に練習できるかわからないですし」
「なるほど」
それは光栄。
っていうか秋季キャンプをやらずにずっとこういう練習をしてるのって、もしかしたらそういうのが目的なのかな?一軍二軍関係なく、やる気のある人を伸ばすってことで。
「「「「「…………」」」」」
そう思ったら、朱美ちゃんに限らず色んな人達から見られてるのに気付いた。
(高卒3年目でもう不動のレギュラー……しかもタイトル持ち……)
(相沢さんがあんまり出れない上にセカンドもやるんならその分ショートに月出里が回る機会が多くなるんだろうから、宇井に勝ってサードだけは確保しねぇと……)
(でゅふふ……逢ちゃんのプレーは本当に絵になりますし参考にもなりますねぇ)
……例の新ユニフォームの話と言い、何かすみちゃんにも伊達さんにも色々背負わされちゃってる気がするね。落ちこぼれだった3年くらい前だと考えられないような光景。
でもまぁ、これで勝てるようになるんならそれで良い。野球は野球だから、あたし1人だけ頑張ったところで優勝獲るのは無理なんだし。リーダーとかキャプテンとか、そんなめんどくさいことはしたくないけど、見学料はロハでどうぞってね。
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「……ん?」
練習を終えてシャワーを浴びてからスマホをチェックすると、結からのメッセージが入ってた。
『後で電話できる?』
『今大丈夫だよ』
返事すると、すぐに着信。
「どうしたの?」
「えっと……お姉ちゃんにお願いがあって……」
「お願い?」
「その……この前こっちで大雨が降ってね、その時に家の軒下に子猫がいて……」
「猫……」
「保護したんだけど、今借りてるとこペットダメだし、クラスの子達も引き取れないって……」
「……猫、飼いたいの?」
「うん……」
確かに築年数も古いし、防犯的にもってことで、もうじき引っ越すって話になってたけど……
「あたしは別に良いけど、何であたしに?お父さんとお母さんに聞くことでしょ?」
「聞いたんだけど、『お姉ちゃんのお金で引っ越すからお姉ちゃんに聞け』って言われて」
「別にそんなこと気にしなくても良いのに」
(やっぱそう言うよね……)
あたしとしては中学の時に迷惑かけまくって、その上転校も野球を辞めるのもせずに済んだ分を返してるだけ。そのおかげで今稼げてるんだし。家長とか大黒柱とか、そういう立場まで背負わされても困る。
……お金を稼げるのは結構なことだけど、それに比例して背負うべきものって増えるものなんだね。
「あ、そうだ。お父さん今いる?」
「うん。テレビ観てるよ」
「じゃあちょっと切るね」
いったん通話を切って、お父さんへ発信。
「おう、逢。どうした?」
「猫の話はOKなんだけど、あたしの方もちょっと頼みたいことがあって……」
「何だ?」
「今度そっちに帰る時にあたし以外にも連れて行きたい人がいるんだけど良いかな?」
「それは構わんが、誰だ?」
「彼氏」
「ぶふっっっっっ!!!!!」
やっぱりお父さんだとそういう反応だよね。
「……冗談じゃないよな?」
「もちろん」
冗談みたいな訳あり物件だけどね。
「結婚前提で考えてるから、挨拶しとかなきゃってことでね」
「わかった。逢が帰るまでに鍛え直しておく」
「何のために?」
「ロクでもない奴ならこの手で叩き潰す」
「大丈夫だよ」
あたしだって痛い目に遭ったんだし。確かに訳あり物件だけど、あんな人間性から腐ってる奴よりはよっぽどマシ。
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