第十三話 誰よりも近くで(2/7)
6回裏 紅3-3白
○白組
[先発]
1二 徳田火織[右左]
2中 有川理世[右左]
3右 松村桐生[左左]
4一 天野千尋[右右]
5三 リリィ・オクスプリング[右両]
6捕 冬島幸貴[右右]
7指 伊達郁雄[右右]
8左 秋崎佳子[右右]
9遊 月出里逢[右右]
投 山口恵人[左左]
[控え]
雨田司記[右右]
氷室篤斗[右右](残り投球回:0)
夏樹神楽[左左]
●紅組
[先発]
1中 赤猫閑[右左]
2遊 相沢涼[右右]
3右 森本勝治[右左]
4左 金剛丁一[左左]
5一 グレッグ[右右]
6指 イースター[右左]
7三 ■■■■[右右]
8代 財前明[右右]
9捕 真壁哲三[右右]
投 早乙女千代里[左左]
[降板]
三波水面[右右]
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******視点:徳田火織******
不思議だね。打席に入るまでは『打たなきゃ』ってプレッシャーばかりだったのに、『ここであっくんの信頼を取り戻せる』って考えたら、いつもよりも巧く身体が動く。
千代里さんは普段は決して簡単に打てる相手じゃない。それどころか外スラピッチャーだから、前までのアタシじゃキツイ相手だったと思う。だけど今のアタシで今の調子なら、どんな球が来たって打ち取られる気がしない。
「あのギャルピッチャー、あのブスにぶつけてくれたら良いのに……」
「それじゃ出塁できちゃうじゃん。ブザマに三振すりゃ良いのよ」
「ビ■チには身の程をわかってもらわないとねぇ……」
はいはい、嫉妬乙。ただ、向こうは何も知らずに単に同性が嫌がりそうな言葉を選んでるだけなんだろうけど、半分当たってるから何とも言えない。まぁ見返してやるっていうモチベーションにはなるけどね。
(火織……変に気負う必要なんてねぇ。ただいつも通りにサイコーのプレーをしてくれ。お前なら絶対、この状況をひっくり返せる。お前は紛れもなく、白組(俺達)の火付け役だ……!)
もう、あっくんったら。降板したんだからゆっくりしてれば良いのに。そんなに身を乗り出してアタシを見ててくれるなんてね。
……ほんと、どうしようもなく優しくて、どうしようもなくかっこいいチェリーボーイなんだから。
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高校までのアタシには、これといった苦労や挫折なんてなかった。ごく普通の家に生まれて、親は共働きだけどちゃんとアタシに構ってくれたし、生活に苦労したこともない。野球でも小・中でそれなりに活躍して、地元の栃木の強豪校にスカウトされて、難なくレギュラーも勝ち取って。サボり魔だったけど、強豪校は理想だけじゃ回せないからね。周りが何と言おうと、勝利という義務を果たすためにアタシという定石に頼らざるを得なかった。
まぁ逆に強豪校ってことで、一学年上に愛生さん、同い年に爽也くんがいたから"一番の目玉選手"には結局なれなかったけど、それでも高卒で普通に指名されて念願のプロ入りを果たした。
でもアタシにとっちゃ、『プロ野球選手』はあくまでお金持ちになるための手段。単純な話、小さい頃からカードゲームとかアクセサリー集めとか、お金のかかることばかりが趣味だったから。たまたまテレビで樹神さんの年俸を見る機会があって、それで自分のスペックと相談したら一番お金持ちになれる確率が高いと思ったから、アタシは野球を始めた。
だからはっきり言って野球そのものに対しては好きという感情も嫌いという感情もなかった。アタシの才能ならそれでもやっていける自信があった。それだけなら、『深いとこで野球をナメてる』程度の話だけど……
「いやぁ最高だったよリオちゃん!このまま終わりってのはなぁ……延長してもいいかなぁ?」
「んじゃ、ヴィ■■ア■の新作か《ア■ダー■■ウンド・シー》おかわりで」
「いいよいいよ、おじさんなら余裕余裕」
「その前に一本吸わせて」
「後でおじさんのもまた吸ってほしいなぁ」
「良いけど……してる間、頭撫でててね」
「んん〜リオちゃんはほんと可愛いなぁ……」
百歩先の札束よりも、一歩先の数枚のお札に飛びつくのが人間の性……なんて言い訳でしかないけど、野球と違って、男の人に抱かれるの自体も好きだったからね。14の時に同級生の初カレ作って卒業したのも、小さい頃から椎■■檎を聴きまくって、そういうことに興味があったからってのが一番の理由。アタシ自身それなりの見た目をしてて、男の人の悦ばせ方を色々経験してきたおかげで、『最低限以上の見た目で抱くのが上手くて金払いも良い人』を選り好みするのは難しくなかった。
髪を伸ばしてたのも、どちらかというと長髪の方が男の人のウケが良くて、その日のファッションにも合わせやすいから。顔が全部隠れるくらい前髪も伸ばして顔の右半分だけ出して、化粧も濃くしてたのは、ただでさえあんまり背が高くなくて体型も豊かな方じゃないから、せめて童顔だけでも誤魔化す為。当然、身バレを防ぎたいってのもあったけど。
まぁはっきり言って女として汚れすぎてるって自覚してたし、ウチのお父さんとお母さんは本当にまともな人だから、アタシ自身はお母さんになる資格はないと思って、できないようにするのだけは徹底してた。そうまでして人肌とニコチンに溺れてた。海綿体に血を吸われた脳みその本能に過ぎなくても、アタシの身体とテクを求めてくれるおかげで、最低限の自尊心を守ることができた。
「千代里、徳田もM■Gやってるらしいぜ」
「そうなんすか!徳田、お前今デッキある?対戦しない?」
「良いですよ」
「へぇ。カードゲームは遊■■しかやったことねーけど、そういうのもあるんだな」
「ウフフ……子供っぽいわねぇ」
「そう言うなって鞠。むしろこれ大人向きだからさ」
「よし!あーしはランドをタップインでエンド!」
「それじゃあアタシは《ライブ■リー・オブ・アレ■■ン■リア》」
「禁止カードじゃねーか!!!」
「っていうか普通はスタンでやるだろ!?カジュアルにしても節度があるだろうが!!」
「「???」」
財前さん達とつるんでたのも、今までの自分を肯定する為。自分と同じように『浅いとこで野球をナメてる』者同士で群れて、少しでも安心したかったから。童顔を誤魔化す一環でもあったけど、喫煙室でも一緒にいるために煙草も始めて、お酒も少し飲むようになって、努力から逃げるためにはなりふり構わなかった。