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868回敬遠された月出里逢  作者: 夜半野椿
第一章 フィノム
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第二話 よろしくお願いします(2/3)

 ……っと、いよいよあたしの番か。


「えっと、ドラ6の月出里逢(すだちあい)って言います。埼玉出身です。ポジションはショートがメインですが、内野は全部経験してます。背番号は52です。一応ショートなんで守備には自信がありますけど、あたしとしては打つ方にも力を入れていきたいと思ってます。よろしくお願いします」


「おお……!めっちゃ可愛いぞあの子!!」

「ネットでも全然情報なかったけど、あんな可愛かったんか……」

「でもちっちゃいなぁ。ポジションも相沢と被ってるし、出番はあるのかねぇ?」


 あたしが可愛いのは当然だけど、出番が云々は聞き捨てならない。確かにプロに入れるとは思ってなかったけど、入ったからには絶対に活躍する。あの人の為にも。


「よし。んじゃ早速、一軍キャンプと二軍キャンプのメンバーを発表するで。一軍メンバーから順番に名前を呼んでいくからな。まずは……」


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 まぁ特に波乱もなく、あたしは二軍スタートとなった。わかってはいたけど、三条オーナーの厚遇っぷりと比べると落差でちょっとガックリくるところはある。


月出里(すだち)さん!夏樹(なつき)さん!2人共埼玉の人なんだね!知り合いなの!?……あ、CODE交換しない?」

「う、うん……」

「おうおう、あんたグイグイくるねぇ。まぁ嫌いじゃないよそういうの。……あ、あっしのことは『神楽(かぐら)』で良いかんね」


 同期のメンバーで二軍スタートはあたしと夏樹神楽(なつきかぐら)さんと秋崎佳子(あきざきよしこ)さん。残り3人はドラフト上位で即戦力も期待されてるのであろう一軍スタート。

 2人共同性で結構人付き合いが良さそうな感じだから、特別気を配ることもなさそうで助かる。


「あたしも『(あい)』で良いよ。読みにくいしパッと思いつかないでしょ、『月出里(すだち)』って」

「ハハハ、言えてるな!あっしも正直読めなかったよ!」

「じゃあわたしも『佳子(よしこ)』って呼んでね!」


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 二軍キャンプの会場まではそれなりに歩いたけど、神楽ちゃんと佳子ちゃんとの会話が弾んだからあっという間だった。

 2人共本当に良い感じの人だけど、それでもどうしても隔たりを覚える。神楽ちゃんは小中の時に日本代表として世界の舞台で活躍した有名人。佳子ちゃんは元々別のスポーツを色々やってたけど中学でいきなり野球を始めて、高校では激戦区神奈川の強豪校のエースで4番。


「いやぁ、びっくらこいたな。まさかいきなりサインをねだられるとはねぇ……」

「でもプロになったって気がして嬉しかったよね!」


 別に2人は自分達の実績を鼻にかけてたわけじゃない。あたし自身の受け取り方の問題。それはわかってるんだけど……やっぱり嫌だな、あたしのこういうとこ。


「やぁやぁ君達。二軍キャンプによく来たね」


 あたしと同じくらいの背丈の女の人が声をかけてきた。薄い青紫色のショートヘアで、スリムだけど目がくりんくりんで丸顔で、もしかしたらあたしよりも童顔かも。バニーズのユニフォームも着てるから多分先輩選手だと思うけど……


「アタシこそ二軍のベテラン……バニーズの未来の1億円プレイヤーにして天才内野手、栃木が生んだモテカワ女子・徳田火織(とくだかおり)だ!よろしく、ルーキー諸君!!」

「『二軍のベテラン』は全然自慢になってねぇけどな」

「あっくん、それは言わない約束だよ……」


 陽気な自己紹介にツッコミを入れる男の人。茶髪でそこそこ長身。垂れ目はあたしの好みじゃないけど、それでも誰もが認めるレベルのイケメン。この人は有名人だからあたしも知ってる。


「俺は氷室篤斗(ひむろあつと)。お前らと同じ二軍組で、ピッチャーをやってる。俺と火織はお前らルーキーの世話係を任されてるから、何かわからねぇことがあったら聞いてくれ」

「うわー!本物の氷室さんだぁ!!」

「あざっす!よろしくお願いしやす!」

「よろしく頼むよチミィ〜」

「いや、お前は俺の側だろうが……」


 氷室篤斗(ひむろあつと)さん。この見た目で嚆矢園(こうしえん)で大活躍してドラ1指名されたんだから、ライトなプロ野球ファンでもほぼほぼ誰もが知ってると思う。プロ野球とメジャーばかり観てて、高校野球は自分が高校野球をやってる時にライバル校をチェックする以外では観なかったあたしでも高校時代から知ってる。

 ただ、プロ入りから4年目に突入しようという今、特に大きな怪我をしたわけでもなくここにいることからも分かるように、現状、期待通りの活躍をしてるとは言えない。最近ネットでバニーズの選手に対してよく言われてる『顔だけ枠』の代表格として扱われてるらしい。

 徳田火織(とくだかおり)さんのことは正直全然わからない。あたしは若王子(わかおうじ)さんの時を除けば二軍の試合なんて滅多に観ないし、ましてや不人気バニーズの選手だから。氷室さんの様子から察するに、多分同期で同じ高卒の人なんだろうけど。


「おお〜……」


 佳子ちゃんの視線の先にはファンらしき人が大勢集まってた。


「氷室さんがいるとはいえ、二軍キャンプなのに人が集まるもんなんすねぇ」

「むしろ一軍より熱心に観てる人、案外いるよ〜。二軍は観戦代タダのとこもあるし、取られてもせいぜい2000円くらいだし。何より二軍でずっと追っかけてた選手が一軍で活躍するようになったら『わしが育てた』って気分を味わえるしねぇ」

「まぁ俺達としてもモチベーションになるしありがたいことだか、反面、二軍選手であってもファンの目はどこにでもあるってことだからな。今の世の中ネットで簡単に情報が出回るんだから、普段の態度にも気を付けとけよ」


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