第百十話 清算(1/7)
******視点:卯花優輝******
9月23日。バニーズの今年のペナントレースが終わった次の日。
「…………」
今日の逢はおれの部屋に来て早々、ずっとテレビの前。座布団の上で三角座り。持ち込んできた古いゲーム機を繋いで、野暮ったいブルーライトメガネをかけて、黙々とコントローラーを操作してる。
これが逢なりのリフレッシュ方法みたいだけど、正直、おれにとっては肩透かしを食らった気分。体力底知らずの逢の相手をするためにおれも結構溜めてきたし……
「逢……?」
「…………」
軽く肩に触れて話しかけても無反応。
「……優輝」
「うぇっ!?な、何……?」
「触りたかったら好きにどうぞ」
「え……!?」
「邪魔はしないでね?」
「う、うん……」
逢の真後ろにもう1枚座布団を置いて座る。ちょうど鼻の高さに逢の後頭部があって、逢の甘い香りが脳へダイレクトに届く。その香りにあてられて、腕を逢のお腹辺りに回して密着する。
「…………」
これでも無反応。『どのくらいなら邪魔にならないかがわからない』って言い訳を頭に浮かべながら、胸元に手を持っていく。
「……ッ!」
流石にちょっと反応。触れた瞬間にほんの少しだけ身震い。でも相変わらず視線はテレビの方で、こっちにはノーリアクションを貫いてる。
「あ……」
電気ケトルのスイッチが戻って沸騰の報せ。一旦離れて、先にティーバッグを入れてた2つのカップにお湯を注ぐ。他のコップを洗ったりして少し時間を潰してからティーバッグを取り出して、カップを逢の近くのテーブルに持っていく。
「紅茶、淹れたよ」
「ん」
口を動かすこともめんどくさがってるような返事。まるで思春期男子とお母さん。
「んー……」
ついでに戸棚を開けてお茶菓子を選ぶ。前の日曜に買い込んだばかりだから色々あって悩む。
「…………」
そうこうしてると、逢が座布団を片手で叩いてる。視線はそのままで背後にあるおれが座ってた座布団を。
……満更でもなかったんだね。
「お待たせ」
「ん」
さっきと同じように逢の背後に座って、そのまま密着。
逢がプレーしてるのは、正直観てるだけじゃつまらない、作業感あふれるジャンルのゲーム。でも……
「優輝」
「何?」
「スケベ」
「うぇっ!?な、何でいきなり……」
「背中に当たってる……っていうか押し当ててるでしょ?」
「うっ……」
逢に触れてるだけで気がまぎれる。こんなふうに別の方向で不満が募るばかりだけど。
「明日になれば頭も身体も切り替わると思うから、明日になったら搾り取ってあげる。根こそぎね」
「あ、ありがとう……」
「というわけで、続き」
「うん……」
要望に応えて、身体を密着させながら、頭とか身体中を撫で回す。相変わらずコントローラーから手を離さないし、視線もテレビの方だけど、やがておれの方に体重を預けてきた。正直重いけど、おれの方も気持ちが高まる。逢の体温を求めて体積を増すばかり。
……でも夕方から学校なんだよね。どうしよう……
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