第百九話 信念(5/8)
「ビリオンズ、選手の交代をお知らせします。ピッチャー、■■に代わりまして、鎌足。ピッチャー、鎌足。背番号25」
ビリオンズは左のリリーフが少ない。ここからはほぼ右ばっかりのはず。CSのために温存しときたいだろうし。
「7回の裏、バニーズの攻撃。8番キャッチャー、冬島。背番号8」
4点差。もしここから3人続けて塁に出てアタシが一発打てば同点……
「サード捕って、一塁送球……」
「アウト!」
「アウト!まずはワンナウト!」
……まぁ、そううまくはいかないよね。
「バニーズ、選手の交代をお知らせします。9番、宇井に代わりまして、相模。9番代打、相模。背番号69」
(まぁしょうがないっすよね……打つ方は今日全然良いとこなしですし……)
鎌足さんは右のサイドだけど、左相手にも弱くない。
(へっ、左に強かろうが……)
「三遊間……ショート捕った!一塁送球!」
「……セーフ!」
「セーフ!セーフ!内野安打!」
「ナイスアヘ単!」
「ほんまハマる時はハマるなぁ」
「「「畔たーん!!!」」」
(こっちだって右の変則には強いんだよ。ちょっと危なかったが……)
よし、とりあえず1人出た。まだいける。
あとはアタシが打つだけ。今日は呪われたようにファースト真ッ正面にばっかりいくけど、今度はもっと角度を付けて……
「……火織」
「?あっくん?」
ベンチで前のめりになってるところで、後ろからあっくんの一声。
「気負いすぎるなよ」
「……!」
「生まれ変わったところとか、そんなとこ変に見せなくて良い。いつも通りの火織ならやれる」
「…………」
「さっきのお返しだ」
「……ありがと」
あっくんに肩を軽く叩かれてから、ネクストへ向かう。
「1番サード、月出里。背番号25」
「ワンナウト一塁、打順は4巡目に入って月出里。今日はまだヒットがありません。十握はすでに今日ヒットを1本打ってますので、月出里も最低でも1本打てなければ首位打者が厳しくなります」
「ちょうちょ!そろそろ頼むで!」
「高卒3年目の首位打者で"樹神の再来"や!」
「首位打者は十握くんのものよ!」
(今度こそ……!)
うーん……逢ちゃん、また怖い顔になってる。あれだけ見てるとよっぽど首位打者獲りたいんだろうなぁって思うんだけど……
「ストライーク!」
やったら大振りだからね。確かに逢ちゃん、相模さんと違って内野安打狙いのバッティングとかはできないけど、オリンピック前に独走してた時はもっと淡々とスマートに振ってたよね。
「!!!レフト……」
「アウト!」
「ああっ、真ッ正面……レフトライナーでツーアウト!」
(……くそッ!やっぱり角度が……)
「ちょうちょ、何を力んどるんや(その目は優しかった)」
「まぁでも力むやろ。タイトルかかってるんやし、最低でも1本打たんとほぼ負け確なんやし」
「……もしかして、首位打者より三塁打の記録狙いなんか?」
いつもの逢ちゃんならゲッツーもあったし、ランナーが残ってるだけまだ良い。
「2番セカンド、徳田。背番号36」
打席に向かう間、さっきあっくんが触れた肩に手を置く。適当なアタシにもルーティンは一応あるんだけど、もちろんこんなことは普段はしない。でも、今回は逆にそうして自分をずらさないと、"いつもの自分"になれない気がする。
「ボール!」
「初球高め!外れました!」
とんでもないやらかしをして、償いたくて償いたくて躍起になってた。おかげで一軍に戻ってからコンディションだけは絶好調だけど、結果がまるでついてこなかった。
「ファール!」
アタシは主にあっくんに、そしてできるなら他の人達にも、変わったアタシを認めてほしかった。でもそのせいで、うまくいってた部分もひっくるめて、今までのアタシを全否定してたんだと思う。
表の守りでアタシは長年の経験を積んだアタシを信じてゲッツーを選んだ。少なくとも最悪の選択にはならなかった。単に巡り合わせでしかないのかもしれないけど、それでも、『今まで通りのアタシで良い部分もあるんだ』って思えた。
それに加えて、さっきのあっくんの一言で確信できた。
「3球目……」
今日のフリーバッティングでも何の気なしにやってたら柵越え2連発だしね。アタシだってやればできる。
だからこの打席も、もう気負わない。長年打席に立ち続けてきたアタシを信じる……!
「「「「「……え?」」」」」
「は、入ったああああああああああ!!!徳田、今シーズン第1号!ツーランホームラン!!」
慣れない手の感触を味わいながら、ダイヤモンドを回る。
「「「「「かおりん!かおりん!かおりん!かおりん!」」」」」
「今ホームイン!5-3!!バニーズ、あと2点まで迫りました!!!」
「火織さん!」
「ナイバッチ!」
「すげぇぞ火織!」
ベンチに戻ると、あっくん含めて、みんな大盛り上がり。
……やっぱアタシ、天才かもね。




